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Neue Zürcher Zeitung Samstag, 9. November 2024

出典: NEUE ZÜRCHER ZEITUNG SAMSTAG, 09 NOVEMBER 2024

fotografiert von Kimihiko Adachi (quelle: Neue Zürcher Zeitung Samstag, 09. November 2024, Seite 1

Neue Zürcher Zeitung紙 (NZZ)週末版、第1面、トランプ氏再選の結果となったアメリカ大統領選挙について、著名ジャーナリストEric Gujer氏による総括。

ヨーロッパ言論界では、ほぼ全てのメインストリーム・メディアが右派ポピュリズムの台頭についてスポットライトをあてることを意図的に避けてきているが、その中で唯一の例外といってもよい存在がこのNZZ紙だといえる。Gujer氏は早くからフランスのマリーヌ・ル・ペン氏やドイツのAfDに注目し、その政治的、社会的意味を分析し、同時に編集長としてNZZ紙の歯に衣着せぬ路線を堅持し、NZZ紙をドイツ語圏において他の一流紙を寄せ付けないクオリティー・ペーパーとしての不動の地位に押し上げた立役者といえる。

今般のトランプ氏再選を受けて、週末版紙面の第一面に乗せた氏の総括は、選挙戦の勝因、アメリカとヨーロッパの右派ポピュリズム台頭の意味とその関係性、ヨーロッパからみるアメリカ政治の景色、について包み隠さず論説しており、その論旨を以下に紹介することにしたい。

+トランプ氏の勝因、ヨーロッパの右派ポピュリズムの台頭との関係について。
西側世界に広がった移民政策やイデオロギー的に行き過ぎた政策に対して社会の拒否反応が起きていることにトランプ陣営は早い時期から着目、姿勢としてはトランプ政権1期目の時と変わらないが、これらの政策矛盾を追求したことこが一番の勝因。
特に、西側世界で政権を担う各国の政治的中道左派は、移民政策を進めることにより社会は経済的に豊かになると自画自賛気味に政策を推進したが、実際には有権者側は自分たちの社会と文化に対する脅威でしかないと捉えていた通りだ。

移民政策の推進は、典型的なグローバル化政策の代表だが、そもそもグローバル化政策がかかえる矛盾については、西側の産業先進国の人々は早い時期から気づいていた通りだ。アメリカの中西部に広がった経済的に地盤沈下したラストベルト地帯はグロバール化政策がもたらした負の産物だが、それはいまやどこでも見られる事象となってしまった。そのうえに、富の格差が拡大、加えてインフレが進行することで中・下流層の人々が経済的苦境に追いやられることになった。この事態は、アメリカと同様にヨーロッパの各地にも広がっている。ヨーロッパの中でも、比較的産業の優位性が有った地域においてさえ、いまやドイツの自動車産業の凋落にみられるように、人々を不安に追いやる状況となっている。これが現在西側世界全体に広がっている社会状況だといってよい。

トランプ陣営が選挙期間中に唱えた政策は、まだこの段階では明確かつ具体的に経済を立て直せることがはっきりとしているものではないが、少なくとも陣営は中・下流層の人々の不安に真剣に向き合う姿勢を示したといえる。それに対して、従来型の政党、つまりアメリカ民主党やヨーロッパの中道左派勢力の動きは非常に遅く、それに取って代わり、トランプ氏に代表されるポピュリズム政治勢力が21世紀の重要な政治勢力として台頭することになった。これは、ある意味で革命ともいえる事態だ。ポピュリズム勢力は既にオーストリアとオランダで政権入りを果たし、ドイツにおいては旧東独各州で最大の政治勢力として台頭するに至った。(歴史的な背景から、)いまだにヨーロッパ全体としてはアメリカをトランプ病に罹った哀れな状態として見下して眺めようとしている。しかし、トランプ氏がスポットライトをあてた社会問題は、ヨーロッパにも同様に当てはまることだ。

+トランプ氏最初の当選時と今回の再選の環境の違いについて。
2016年のトランプ氏の最初の当選時には、政治的な巻き返しが起こり、メキシコとの国境の壁の建設に代表される移民排斥政策に対抗するかたちで、ドイツのメルケル政権が中心となり大量の移民(主にシリア内戦を逃れた難民)をドイツ(およびヨーロッパ)に受け入れる政策を積極的に推進した。従って、当時は移民政策をめぐり、西側世界は二分することになった。
しかし、そのドイツもいまや国境管理を厳格化し人の往来を止めた。イタリアは難民受け入れ拠点をアルバニアへ移管、フィンランドは難民受け入れを停止し、ヨーロッパの移民政策をめぐる環境は様変わりした。

+西側世界における政治的左派と右派の対立の激化について。
新たな政治的潮流として、政治的左派と右派の分断が進み、それぞれが過激化する事態を招いた。それぞれの支持者は、自分たちだけの空間内で過激な論調で盛り上がり、お互いに対して聞く耳を持たない(いわゆるキャンセル・カルチャー)。こうした潮流の中で、左派の政策はますます過激化することになり、それを右派が激しく攻撃するという政治状況を引き起こした。こうした過激化した政治の犠牲となってしまったのが、環境政策だといえる。政策が過激化されて流布されることで、地球温暖化対策という標語は、従来の自動車に普通に乗り家に住んで暮らすという普通の生活を脅かすかの様な標語として有権者に受け取られる様に変化していった。また、別世界での暮らしを夢見させるかのように流布された移民政策は、それに惹かれた移民の大量移動を引き起こし、現実からかけ離れた状況を引き起こした。

+ヨーロッパをとりまく環境、アメリカとヨーロッパの政治状況の関係性について。
現代の政治においては、新たな政策が失敗すると人々の間に社会的敗北感が広がり、失敗した政策はたちまち消えて、また別の新たな政策が出現するということを延々と繰り返してた。西側世界の産業先進国では、人々はまた社会的敗北感を味わうのはごめんだという空気が広がっている。そこにあるのは、人々の間に広がる不安であり警戒感が広がっている。それは、ヨーロッパにおいては、移民は不要、人の往来も不要、国境管理は厳格化したい、というのがその答えであるといってよい。

トランプ氏が起こした潮流は簡単には消えることは無いだろう。従って、大統領選挙期間中にハリス陣営が仕掛けたトランプ氏に対するファシストというレッテル貼りは全くの無意味に終わり、トランプ氏の勢いを止めることはできなかった。このことは、ヨーロッパにおいてトランプ氏と同様な右派ポピュリズム路線を取るマリーヌ・ル・ペン氏、ジョルジア・メロー二氏、アリス・ヴァンデル氏(ドイツAfD党首)に対して同様のレッテル貼りをしても無意味であることを意味する。ヨーロッパで政権を担う中道勢力は、右派ポピュリズムに対してそうしたレッテル貼りをするのはやめて、トランプ氏、ル・ペン氏、メロー二氏、ヴァンデル氏の右派ポピュリスト政治路線がなぜアメリカとヨーロッパで成功を収めているのかについて良く分析するべきであろう。そのうえで、今後予定されているヨーロッパでの各選挙日程にそれを反映させていくべきであろう。

落ち込んでいく人々の実質所得、押し寄せる移民により自国の景色が変わってしまうこと、そのことにより従来の普通の暮らしが出来なくなること、これらのことはどれ一つをとってもそこで暮らす人々にとっては限度を超えた要求でしかない。ましてや、これらの事象が同時に起きるとなると、そこで、移民をよりコントロールして制限をしながら引き続きグローバル化政策を進めようなどと提案しても無意味だ。そのような政策の提案は、人々の拒否反応を引き起こすだけだ。

西側世界に於いて左派政治勢力は、かつては、意欲の高い労働者層を支援し、社会保障を拡充する政策を通して政治的意義をはたしてきた。しかし、現在のような環境においてはそのような機能を果たせてはいない。現在ヨーロッパの左派勢力がもっぱら支援しているのは移民層と生活保護対象層であり、もはや労働者層を支援しているわけではない。また、アメリカの民主党は、ジェンダー政策やクリティカル・レース・セオリーに代表されるイデオロギー的政策の推進に注力するあまり、従来の忠実な支持者層であった労働者層の支援から自ら離れていってしまったことが今般の事態を招いている。

人々が受ける社会的敗北感はなにも西側世界にとって新しいことではない。しかし、現在の政治はそこから立ち直る明るい展望を提示できているわけでもない。トランプ氏は選挙戦に勝ったが、現在のところMAGAという過去にもどればそれですべてという標語を唱えているだけだ。また、それに対して、ヨーロッパで政権を担う左派勢力は、トランプ氏が環境政策に関して破局をもたらしかねないと警鐘を鳴らしているだけにすぎない。
しかし、未来への展望は過去へのノスタルジーや破局への警鐘から生まれるものではなく、現実の問題に取り組んで人々とそれを共有していくことでしか生まれない。
経験として思いだすべき例は、かつて1970年代に西側世界の誰もが日本の優れた自動車と経営手法の前に圧倒され、全く太刀打ちできないと観念し絶望的な敗北感を味わった。しかし、日本から学ぶ姿勢に自らを変化させたことで立ち直ることができ、最終的には良い結果をもたらすことが出来た。
このような例をみるまでもなく、将来の展望は単なる標語の掲揚やポピュリズムの煽動、それ自体からは決して生まれるものではないことを認識しなければならない。


(以上が、Gujer氏の論説の要旨だが、私からは下記の通り注釈を付記したい。

現在のアメリカにおける有権者の不満の一番の元凶は、カーター政権以来の悪化するインフレ経済だというのが実際のところであろう。この点に関して、ラリー・サマーズが同様の指摘をしている。
Trump's Policy More Inflationary by Far, Summers Warns
オープン・ボーダーと称し移民推進に邁進してきたバイデン政権は、有権者の目にはどうでも良いことにばかりに力を注ぎ、本来やってもらいたいことは何もしない政権の様に映っていたはずだ。トランプ陣営は、あえて移民問題に焦点を徹底的に絞ることで、バイデン政権の矛盾点を有権者の前に分かりやすくあぶりだすことに成功したといえる。

右派ポピュリズムが移民問題に焦点をあて排斥を唄うのは、政治手法的に有権者の支持を広くかつ比較的容易に獲得出来るからだ。移民推進の大本は常に時の政権であり、攻撃することで政策矛盾を有権者の前に露呈させることができる。移民の雇用で恩恵を受けている産業界を除くと、一般の多くの有権者の目には、移民は直接的な社会負担に映り、排斥は有権者の共感を容易に得やすい。そして、なによりも移民自身は外国人であり、攻撃されても移民自身には政治的発言権はない。従って、移民側から政治的に返り血を浴びることは無い。そこには、倫理的な問題だけが残る。ギリシャ債務危機下でギリシャ左派ポピュリスト政権を蔵相として主導し名を馳せた理論家ヤニス・バロファキス氏曰く、ポピュリズムの政治手法は左派でも右派でも主張をある方向に極端化させるということで本質的には同じであり、支持層を最大限に広げるには有効な手法、その際に、左派が仕掛けるポピュリズムと右派が仕掛けるポピュリズムの違いは、右派のスタンスの場合はその主張において倫理的な縛りを外してしまうことができるので、その分より支持を集めることが出来る、そこに違いがある。

ヨーロッパでも、フランスのマリーヌ・ル・ペン氏や、ドイツのAfDが移民排斥を熱心に唄うのは同じ構図だといってよい。ル・ペン氏の支持が広がるオー・ド・フランス地方は、従来は鉱工業を中心とする産業が広がる経済的に豊かな地域であった。しかし、EU統合がもたらしたEU内部のグローバル化により域内の人モノ移動の自由化が加速し、域内競争力のある国に産業が集約することとなった。勝ち組はドイツ(旧西独地域)、およびその後順次EUに加盟していった旧東欧の一部の国々といえよう。その結果フランス国内は、パリなどの大都市への経済の偏在化が進行し、オー・ド・フランスなど地方の経済の地盤沈下が進んだ。そうした地域の人々の不満の元凶は留まることを知らない経済の地盤沈下であるといってよい。不満の矛先は、当然その元凶である政権を担う中道勢力とEU体制そのものに向けられてきたが、政権側は常にEU体制は総合的に経済成長をもたらすというロジックを維持することで、グローバル化の負の影響を受けた地域とは議論は常に平行線のままできているのが現状である。

ル・ペン氏の場合、彼女の父親の代から、堂々巡りとなる経済施策の議論ではなく、移民問題などの一般の有権者の目にわかりやすく写る矛盾に議論を集中させることで支持を広げることに注力してきた。しかし、フランスの場合は、歴史的な事情から、アフリカ旧植民地系移民が社会構成に組み込まれており、また、隣接するスペイン・イタリアからの移民が伝統的に地域社会と共生する既に実質的な移民社会であり、政治的スローガンとしての移民問題・排斥は有権者の決定的な共感を得るにはならなかった。

状況が一変したのが、シリア内戦により大量に発生した難民問題だったといえる。シリア難民のヨーロッパへの受け入れは、ドイツ・メルケル政権が中心となりEU主導で行われた。もともと、内戦前のシリアの教育・社会水準自体が比較的高かったことから、ドイツのAfDを除く全ての政治勢力、産業界、一般の有権者は、シリア難民の受け入れを好意的に受け止め、積極的な受け入れに舵を切ることとなった。ところが、問題はシリア難民そのものではなく、積極的な難民受け入れに舵を切ったヨーロッパの姿勢が広く世に知られることで、シリア以外の中東・アフリカ地域、バルカン・中央アジア地域、などから便乗する形で大量の移民・難民がヨーロッパに流入する結果となったことである。その中で多数派を占めたのが、イスラム教徒およびサハラ以南のアフリカ系移民・難民であった。特にイスラム教徒の移民・難民は、キリスト教的な社会観をベースとする現代ヨーロッパにおいてイスラム教徒だけの社会を構成する結果となり、目に映りやすい存在となった。このことにより、ヨーロッパにおいて、ル・ペン氏が唱える移民問題は、わかりやすく目に映る事象として一般の有権者が捉える様に急変したといえる。

ドイツの場合は、1989年の東西の壁崩壊が契機となり、旧東欧地域から大量の移民が流入し、その後EU体制が確立されることで、こうした移民が社会構成の中に組み込まれて今日に至っている。EU内の勝ち組となったドイツは、産業を支えるための良質な人材を必要としたこと、東欧出身者は人種・言葉は異なるが同じキリスト教的な社会観の出自であることから、東欧出身移民はドイツ社会に容易に組み込まれることとなり、その重要な構成員となっている。ところが、東西が統合したドイツで社会問題となったのはドイツ自身の旧東独地域だった。ソ連体制下で産業の雄として君臨した東独地域は、東西ドイツが統合されるや否や西側経済による社会資本の容赦ない買収にさらされた(資本主義体制に転換させる名目で、新自由主義経済理論に基づく徹底的な民営化が行われた。)。旧東独地域の人々は自由を得た代わりに、それまで謳歌しきた派手ではないがそれなりに恵まれゆとりのあった社会を急速に失うことになった。

旧東独地域の人々は、経済的豊かさを求めるために旧西独地域側に移住してより良い職を探して働くか、西側資本に社会インフラを買収されて様変わりした旧東独地域に残りながらも以前とは異なる労働条件のもとで働くか、あるいは農業を中心とする一次産業を担うかの選択を迫られることとなった。しかし、旧東独地域が資本主義のもとで急に社会を統合するには根本的に無理があり、それが資本主義側から見れば格差問題と映り、旧東独地域から見れば見捨てられ不公平な社会問題と映り、今日に至っている。

そのような中でも、東西統合を絶好の機会ととらえ政治の世界に飛び込み、積極的に活躍した旧東独出身者もいた。メルケル氏や連邦大統領となったガウク氏などがその例だ。旧東独地域に対する経済支援は積極的に実施されたが、旧体制との社会構造の違いに根差す根本的な問題の解決にはならなかった。旧東独地域ではながらくSDPとLinkeが主要な政治勢力として存在してきた。しかし、旧西独の労働組合に支持母体をもつSDPは、旧東独地域の根本的な構造問題に向き合う訳ではなく、また、東独時代のノスタルジーに存立基盤をおくLinkeも、東西統合後の資本主義社会の現実の中では支持を失っていった。

そうした中で、急速に支持を広げた政治勢力がAfDだといえる。AfDは旧東独地域をその存立基盤としているが、理論構成には旧西独地域出身の関係者が深く関与しており、旧体制との社会構造の違いに根差す旧東独地域の根本的な問題に向き合い、それを資本主義がベースである東西統合後のドイツで理論的に政治活動を展開する勢力となった。EU懐疑主義、反グローバリズムをその理論基盤とすることで、統合後のドイツにおける旧東独地域への政策矛盾を有権者の前に明らかにすることに成功し、旧東独地域に急速に支持を広げた。そして、AfDはフランスのマリーヌ・ル・ペン氏と同様に、シリア内戦の激化による難民の流入に端を発し、その後多様な地域から移民・難民が押し寄せる状況のもと、移民問題・排斥を声高に掲げることで、それまでの旧東独地域だけではなく、旧西独地域まで広く支持を広げ今日に至っている。

アメリカとヨーロッパにおける右派ポピュリズムの広がりは、グローバリズムと新自由主義がもたらした地域の経済的地盤沈下と社会的格差の広がりという負の問題に根差している。右派ポピュリズムは、そうした土壌において、不満、怒り、絶望感をいだく人々の受け皿となり、グローバリズムがもたらした移民問題の矛盾点に焦点を集めその排斥を唄うことで更に支持を大きく広げることに成功した。しかし、経済と社会がかかえている根本的な問題は、グローバリズムと新自由主義政策がもたらした問題点の見直しと政策の誤りの修正を行わない限りいつまでも終わりはこない。この点は、まさにGujer氏が論評の最後で、将来の展望はポピュリズムの煽動それ自体からは決して生まれるものではなく、現実の問題と取り組んで人々と共有してのみ生まれる、としている通りだ。)

(Text written by Kimihiko Adachi)

(fotografiert von Kimihiko Adachi, (c) Kimihiko Adachi all rights reserved 2024 )

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