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アメリカ-トランプ次期政権のエネルギー長官人事について

トランプ次期政権は11月16日、次期エネルギー長官としてシェール業界出身のクリス・ライト氏(Chris Write、現リバティー・エナジー社CEO)を指名する人事を発表した。

リバティー・エナジー(Liberty Energy, Inc.、コロラド州デンバー)は、北米(米国、カナダ)のオンショア・フラッキング市場において掘削サービス第2位(現在シェア約6%)だが、業種的には掘削の現業サービスのためシェール業界の中では規模的には大きいわけではない。しかし、ライト氏自身が強固な気候変動懐疑主義者として知名度が高く、議会での証言や主要メディアへの積極的な出演を通してバイデン政権の脱炭素政策を強く批判してきた。メディアを通した知名度とコミュニケーション能力が、トランプ氏が政権で登用したい人物像にかない、エネルギー長官への抜擢となったものと思われる(トランプ次期政権はメディア対策を相当入念に行うとみられ、その一要素として閣僚人選にコミュニケーション力とメディア映りが考慮されている)。トランプ新政権発足後に行われる上院での指名承認を経て、正式な就任となる。

アメリカのエネルギー政策をみると、バイデン政権下においては積極的な脱炭素政策が推進された一方で、ウクライナ紛争に端を発した世界的なエネルギー供給のスキーム転換により、特にヨーロッパ市場においてロシア・パイプライン経由で従来調達されていた天然ガスがアメリカ産のLNGに転換されるという大きなパラダイム・シフトが起きた。シェール業界、エクソン・モービル、シェブロンに代表されるアメリカの化石燃料業界においては、新たな供給先としてヨーロッパのマーケットが加わったこと、並行してM&Aを通じた積極的な業界再編成によるコスト削減が行われたことで、アメリカ産の原油・天然ガス、ガソリンなどの精製品が世界的に見て最も競争力のある状態にまで到達することになった。

トランプ新政権に於いてライト氏は、アメリカ化石燃料業界の利益に沿った政策、すなわち、シェール事業の障害となる環境規制の撤廃などのあらゆる規制緩和、アメリカ産LNGの輸出関連の許認可の迅速化(バイデン政権下では、大統領選挙前に一部のLNG輸出ターミナル建設計画の許認可プロセスが停止され、そのままとなっている)、などの推進の役割を担うことになる。また、脱炭素政策に反対の立場のライト氏であるが、原子力に関しては特にアメリカ国内における小型原子炉の普及推進について肯定的なスタンスをとっている。

パリ協定に関しては、トランプ新政権は発足次第、再度脱退することは確実だが(パリ協定にとどまらず、その母体フレームワークのUNFCCCそのものから離脱するのではないかとの観測もある)、アメリカ国内の各電力事業者は、それとは無関係に各事業者ごとのカーボン・ニュートラルの工程を進めていくことになるとみてよいだろう。
(トランプ次期政権のパリ協定からの脱退見通しについては、既にPoliticoなどの各メディアが報じている通りだ。
Why Trump’s 2nd withdrawal from the Paris Agreement will be different - POLITICO)

(Text written by Kimihiko Adachi)

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