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機電系こそ建築士になろうよって話
難関資格として知られている
一級建築士ですが
実務の実態やこれからの業界のことを考えると
むしろ機電系(機械・電気系)出身の人ほど
目指すべきではないかと思っています。
今回の記事では機電系出身者(文系含む)が
建築士を目指すメリットとその道のりについて
書いていきたいと思います。
そもそもの建築士試験のハードル
難関試験としてしばしば名前の挙がる
一級建築士試験ですが
合格率はもちろんのこと
ハードルの高さは受験資格にもあります。
そもそもは大学や大学院で
建築系を卒業した人(指定学科)が
実務を2年程度積んで受験できました。
指定学科外では
基本的には二級建築士を取得して
さらに実務を積むことで一級建築士へ
挑戦することができます。
しかし第一関門ともなる
二級建築士試験にも受験資格があり、
指定学科外ではなんと実務が7年も必要です。
学部卒新卒入社で順調に実務を積めても
二級建築士を受験することには30歳目前。
この頃になると会社内でも中堅、
私生活でも変化のある方が
多いのではないでしょうか。
そんな中、挑むのは合格率10%程度の試験。
ご存じの方も多いと思いますが
対策講座も高額で心身ともに
負担の大きい試験です。
こうした中令和2年に建築士法の改正がありました。
ザックリ言うと一級建築士試験の
受験資格の緩和です。
どういった緩和が始まったかと言うと
・指定学科卒は実務経験不要で受験可能
・二級建築士はただちに一級建築士を受験可能
・建築設備士はただちに一級建築士を受験可能
(※合格後の登録には実務経験が必要)
つまり指定学科、二級建築士、建築設備士は
実務経験は後付けで一級建築士を受験できることになりました。
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簡単にまとめると上の表に見たいな感じになります。
機電系が建築士を目指すメリット
上の表で少しネタバレをしていますが
指定学科外で二級建築士を取得するルートより早く
一級建築士へ挑戦できるルートがあります。
それが表の最下段に書いている設備ルートです。
このルートは試験回数は増えますが
二級建築士ルートより約5年も短縮することができます。
このルートのスタート地点は
電験三種(第3種電気主任技術者)にしています。
学会設備士(衛生・空調)でも同じルートを辿ることができます。
難易度的に高い電験三種で記載している理由は
受験資格が不要なため
文系卒でも目指すことができます。
学会設備士は大学の理系卒業が必要となります。
(電験三種より難易度は大きく下がるため
受験可能であればこちらをお勧めします)
新卒初年度から設備での実務経験を積みながら
2年かけて電験三種(学会設備士)を合格することで
建築設備士の受験資格を得ることができます。
そして建築設備士に合格すると
受験資格緩和によりただちに一級建築士を受験することができます。
こうすることで
7年の実務と二級建築士試験を経由せず
3年で一級建築士への挑戦権を得ることが可能になります。
建築設備士経由による一級建築士試験へのアドバンテージ
この記事を通して一番伝えたい部分です。
建築設備士合格者は一級建築士試験への
アドバンテージが圧倒的に大きいです。
私はどちらも取得していますので
特にそれを強く感じています。
まずは学科試験。
一級建築士の学科試験は
・計画
・環境設備
・法規
・構造
・施工
上記5科目125点満点の試験で
例年88~95点くらいが合格ラインとなっています。
ここでの建築設備士のアドバンテージは
「環境設備」です。
建築設備士の学科試験には建築設備科目があり、
その内容は一級建築士の環境設備より
広範囲かつ専門的です。
これを突破しているのではあれば
環境設備の初見の過去問でも
8割程度は安定して取れるレベルだと思います。
また全般的に学習範囲は重複しており
一級建築士の過去問が建築設備士に
使いまわされているようなものもあるため
学習の下地は十分に出来ていると考えてよいと思います。
そして製図試験。
建築士試験の最大の関門です。
某資格学校で製図講師をしていた私が
教えているときに一番感じていたことは
「建築設備への理解が乏しい」でした。
近年、製図試験は採点の厳正化が進む一方で
設計自体の自由度は高くなっています。
製図の学習を進める中で
みなさんゾーニングについて悩み
設備は置き去りとなり
結局空いたスペースに詰め込む、
PSやESは階ごとに振り回すなど
減点されても仕方ないような
仕上がりになる人は少なくありません。
そもそも製図試験初年度の人で
空調システムを理解できている人は
ほとんどいません。
しかし建築設備士を経由してくれば
空調システムはもちろん、
必要な部屋の大きさや、配管スペースも
ある程度理解しています。
これは学科終了後からわずか2か月半しかない
製図試験対策期間において
他者との圧倒的差です。
また製図試験では図面だけでなく、
計画の要点という設計主旨についての
設問に答える問題もありますが
これについても建築設備士試験での
必須問題での記述経験が大きく役に立ちます。
個人的なことで言うと
一級建築士の計画の要点より
建築設備士の必須問題の方が
記述量、質ともに難解であったと
感じています。
こうしたアドバンテージが得られます。
受験する試験の数が増え、関係のない資格を受けて
一見遠回りのように思えますが
最短ルートであると思っています。
まだまだあるよ機電系のメリット
さて、設備ルートで晴れて
一級建築士になったとしましょう。
実はメリットはここで終わりではないのです。
一級建築士にはさらに上位資格の
・設備設計一級建築士
・構造設計一級建築士
が存在します。
これは一級建築士取得後に設備、構造に関する
実務経験を5年積むことで受験することができます。
建物規模によって上記資格者の関与義務があるため
今後も需要は高まると考えられています。
話は戻って
ここでの建築設備士のメリットとはなにか
それは
・建築設備士期間の実務を加算できる
・試験の科目免除を受けられる
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再び先ほどの表ですが、この通りに進み
実務も経験して行けたと仮定すると
一級建築士を登録する頃には
すでに建築設備士として4年の
実務経験が貯まっていることになります。
つまり一級建築士取得の翌年には
設備設計一級建築士を受験することが可能です。
受験資格の免除について
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この表は申込区分別の必要な受講と修了考査科目です。
建築設備士はこの表の区分Ⅳに該当します。
つまり講義は3日中1日目だけ
修了考査は法適合のみとなります。
さらに区分Ⅳの合格率は例年80%を超えており
きちんと対策をすれば十分に合格できるものとなっています。
ちなみに令和2年時点での
設備設計一級建築士登録者は5.656人しかおらず
その半数は資格制度開始時の認定取得者であると言われています。
その方たちも企業勤めであれば定年が近い人も多くなっているでしょう。
業界の実態と今後
建設業に従事されている方で
特に設計職の方は
何となく肌感で感じていると思いますが
設備設計者が枯渇しています。
意匠、構造系の設計者は
設計事務所でも個人でも
まだまだ若手~中堅の人を見かけます。
ところが設備設計者
特に電気設計者はほとんど見かけません。
たまにいても超ベテランの方ばかり。
設備は年々高度化してきており
また省エネ適判の範囲も拡大しています。
これからどんどん需要が高まる職種であり
若手の育成が急務であると感じています。
今後、設計職で求人が出るとすれば
設備 > 構造 > 意匠 となるでしょう。
(すでにもうなっているかもしれません)
大手企業であれば破格の報酬を出してでも
人の確保に走るかもしれませんね。
最後に
私は一級建築士から建築設備士、電験三種と
これまで記載してきた設備ルートを逆登りしました。
何のために?
と思われるかもしれませんが
理由はこれまで書いてきた通り
今後は設備設計の知見無しに
設計職でやっていくのは厳しいのでは
ないかと思ったからです。
分業を進めてきた建設業界ですが
深刻な人手不足が問題となっており
時代は回って
昔、棟梁と呼ばれる人が建設の
全てを把握していたように
スペシャリストからゼネラリストへ
需要が転換する時が来るかもしれません。
様々意見はあるでしょうが
私個人としては
機電系出身の建築士の方は
優秀な方が多い印象があります。
機電系にしか得られない特典が満載の建築士の世界。
ぜひ、一度検討してみてはいかがでしょうか。