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「苔」を食す
もちろん、苔そのものを、ではない。苔を模した何か、である。
お店ができたのは2017年4月とのことで、当時からネットなどで評判を目にしていた。そのお店の名刺代わりとなるのが、「苔テラリウム」なるもの。お店によるインスタグラムなどを見ていると、季節に合わせてその植生も変化させている?本当に実物の苔や石に見えるそれは、ふんわりとトリュフとフォワグラの香りただよう一品で、スプーンで口に運ぶと思わず顔がにやけるのが自分でもわかってしまう。苔に見えるのはジャガイモのピューレで、そこにほうれん草のパウダーでグリーンに色づけられている。石に見えるのは黒ゴマを練りこんだパン。土に見える黒や白のつぶつぶは、炒った黒米とコーンスターチだったかな、とにかく全部食べられる。ふわーっとただようトリュフの香りと、ねっとり、もっちりとしたジャガイモとフォワグラのピューレ、時々ハーブとコーンスターチの食感がまじりあう。うん、これ美味しい。
バターナッツのポタージュを挟み、一番気に入ったのがこちら。甘鯛を湯葉の衣で包んで揚げてある。お出汁のソースに大葉のオイルがけ、京水菜やしめじの食感も楽しみつつ、エディブルフラワーが彩りを添えている。見た目は完全にフレンチ、だけどバターの風味をイメージしていると裏切られる。和の味!
これなんて、鴨ロースのステーキというフレンチ王道。そしてソースはポルチーニ茸。思いっきりフレンチ。だけど、舌が受け止めるのはやっぱり和。不思議。
食事中にパンがなくて、メインが終わった後にご飯とお汁が出てくるところは和懐石っぽい。この日のご飯はイワシと針生姜の炊き込みご飯、じんわりとお出汁が効いていていて甘みがあって美味しい。
この後にまたもや急転回してクレームブリュレが出てくるんだから、やっぱりここはフレンチ・・・液体窒素で固めたシナモンのアイスがけ。このシナモンが添えられていることで、そこはかとなく和の雰囲気もやっぱり醸し出している。和でありフレンチであり、と。何かに括るのは野暮ってものね。
こちらのお店、フランス料理のコースに則りつつ、フランス料理の技法なども用いつつ、でも嗅覚や味覚に訴えかけるのは「和」そのもの。お皿や盛り付けなど、見た目はフレンチ。フォークとナイフなどカトラリーもセッティングされている。だけど、かつお出汁や大葉の香りがこれでもかと和を主張してくる。ドコソコのナニナニ料理とか関係なく、このシェフのお料理、という一つのジャンルになっている。百聞は一見に如かずとはその通りだった。まだまだ若いシェフ、これからどんな風に進化していくのだろう。
決してわかりやすいとは言い難い立地に、シンプルな外観。ここを目指して来なければ、きっと素通りしてしまいそう。最大でも13席の小さなお店。昨今の事情で、平日などはまだまだ厳しいとも。とはいえ、昨今の事情がなければ「予約の取りにくい、取れないお店」だった。このタイミングで行けたことは嬉しかったし、いつ再訪しようかと手帳を眺め友人の顔を思い浮かべている。このお店を気に入りそうな友の顔が次々と浮かんでくる・・・!
最後はやっぱり和風味で〆。チョコレート羊羹と抹茶を練りこんだサブレをお供に、一保堂のほうじ茶でほっこりと・・・
キョウガストロノミーコウゾウ
シェフ 野田耕三
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