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今でも手のひらに傷が残っています

そんなやりがいを感じながら
またいつものように手術の介助に入った日のことです。

その日は院長先生の手術介助に入り
とても順調に進んでいたのですが
メスを手渡した瞬間
「あっ!」と思ったのですが
少しズレた位置に手渡してしまったのです。

その瞬間、院長先生が
「なんだ!このメスの渡し方は!」
と怒鳴り、メスを床に投げつけようとしました。

その瞬間とっさに私は
「すみません!」と謝りながら
その投げつけようとしたメスを左手で受け取ったのです。

当然ですが
手のひらの小指側がザクッと切れてしまいました。

でも、手術は進行していきますので
「手が切れた」などと言っていられません。
私はサッと新しいゴム手袋をその上からキツくはめ
介助を続けました。
痛みなどは全く感じませんでした。

無事手術が終わり
内側が血まみれになった手袋を外した瞬間
とてつもない痛みを感じました。

でも、また新しいゴム手袋に差し替え
痛みに耐えながら手術場の洗い物をしていると
後ろから副院長先生が
「痛かっただろう、よく頑張ったな。縫ってやるから来い」
と声をかけてくださいました。

痛みよりなにより
「ちょっと我慢しろよ」と言いながら縫ってくれる
その副院長先生の優しさに
ポロポロポロポロ涙が溢れて止まりませんでした。
おめでたい私です。

それこそ今ならそのメスを投げつけた院長先生は
訴えられてしまうかもしれませんね。

そんな時代ではなかったので良かったのか?悪かったのか?
私は院長先生を恨むでもなく
副院長先生の優しさに泣いて喜んでいるような
今思えば・・・おバカさんですね。

でもやっぱりあの手術場の緊張感が大好きな私でした。

60年近く経った
今でも手のひらにはその時の傷がうっすら残っています。

  キミちゃんより

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