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争いが絶えない理由を、アリの生態から考える。

 パレスチナとイスラエルの紛争のニュースが日々報じられていますね。
 画面越しにでも、見るたびに気が重くなります。

 ガザ地区だけじゃなくて、ウクライナとロシアの戦争は1年以上続いているし、ミャンマーのクーデターもまだ継続中。他にも、世界各地で内戦が続き、難民が絶えない状況です。


 世界中の人々が戦争に反対しているのに戦争が絶えないのは、政治的な理由が大きいのですが、今回はそれを抜きにして解説してみようと思います。

 そもそもなぜ争いが起きるのか。
 戦争だけじゃなく、民族間の対立や「人種差別」がなぜ起きるのか。

 これを、アリの生態から考えてみましょう。


アルゼンチンアリのアイデンティティー

 アルゼンチンアリは、アメリカ大陸の広範囲に生息するアリの一種です。
 縄張り意識と攻撃性が高く、違う集団に属するアルゼンチンアリに遭遇すると、軍隊アリたちが出動して相手集団を滅ぼし、自分たちの領土を拡大していきます。
 そうやって、生息域をアメリカ大陸の広い範囲に広めていきました。

 ただ、このアルゼンチンアリ、驚くべき能力があります。
 自分と同じ集団に属していないアリに対してはすぐ攻撃してしまうアルゼンチンアリですが、実は、5000㎞離れた場所で生まれたアリが、自分と同じ集団に属するアルゼンチンアリかどうか、判別することができるのです。
 つまり、自分が今まで会ったこともないアリが、自分と同じ集団に属しているかどうか、正確に見分けることができるのです。

 どうやって見分けているのか。

 その答えは、共通のアイデンティティーです。

 アルゼンチンで生まれたアリも、メキシコで生まれたアルゼンチンアリも、同じ集団に属している場合、同じアイデンティティーを持っています。
 自分たちがどちらも同じ集団に属しているというアイデンティティー、つまり、しるしがあるのです。

 ただ、アリは視力もあまりよくなければ、言語も持ちません。
 ましてや、DNAを判別することなど出来っこありません。

 アルゼンチンアリがアイデンティティーのしるしとして使っているのは「匂い」です。
 アリが生まれる前に、その集団のしるしとなる匂いを、飼育係のアリが卵につけておくのです。
 他の集団を襲撃した時も、卵だけ奪って行って、自分たちの集団の匂いをつけます。
 そうすることで、卵から孵ったアリは、その集団の一員として生きていくことができるのです。


 ちょっと気持ち悪くなってきたので、そろそろ人間の話に戻しましょうか。


人間のアイデンティティー

 人間も、人それぞれアイデンティティーを持っています。
 しかも人間の場合は、多種多様なアイデンティティーがあります。
 出身地や国籍だけでなく、性別や使用する言語、宗教、職業、考え方、中には肌の色や応援するスポーツチームなんかもアイデンティティーになり得ます。

 そして、同じアイデンティティーを持っている人に対しては、安心しやすくなります。
 特に、違うアイデンティティーの人がたくさんいる場所で、同じアイデンティティーの人を見つけると、心を開きやすくなります。
 スポーツ観戦で隣の席の他人と仲良くなれるのも、旅先で出会った日本人と意気投合するのも、共通のアイデンティティーを持っていることが、心を開かせているのです。


争いが起きるとき

 アリのアイデンティティーは、匂いだけ、一種類だけなので、相手が敵かどうか瞬時に判別でき、すぐに争いが起きます。
 しかし、人間の場合は、アイデンティティーの種類が多岐にわたるため、違うアイデンティティーを持っていながら、共通項もあるという場合があります。
 例えば、出身地や仕事は全く異なっていても、趣味や好きなサッカーチームが同じということはよくあります。

 このようなアイデンティティーの多様性が、敵対心の緩和剤となり、人間同士の争いを起きにくくしています。
 国籍や宗教が違ってても、お互いメッシの熱烈なファンなら分かり合える可能性が高いでしょう?


 ただ、最初に書いた通り、戦争や紛争は絶えませんよね。

 なぜかわかりますか?


 正解は、アイデンティティーの相対的な強さです。


 例えば、キリスト教の非常に熱心な信者がいるとします。
 その人は聖書の内容を深く信じており、キリスト教の教えが必ず正しいと信じています。

 信心深いのは問題ありませんが、これがアイデンティティーとしての力を持ちすぎると、危険信号が灯ります。
 キリスト教を信じているあまり、他の宗教の教えは間違っていて、聖書の内容の欠点を指摘できる「科学」さえも、間違っていると感じるのです。

 するとどうでしょう。
 その人は他の宗教の信者や科学者のことを、キリスト教を否定する者、さらには自分のアイデンティティーを否定する者として認識するようになるのです。
 たとえ共通するアイデンティティーを他にいくつ持っていても。

 1つのアイデンティティーが強すぎるあまり、他のアイデンティティーがかすんでしまい、敵対心の緩和剤として機能しなくなります。
 ここで攻撃性が発揮されることで、争いが起きるのです。



争いを止めるには

 「差別主義者には旅をさせろ」
 これはどこで見つけた文言か分かりませんが、ことわざとして広まっていってほしいと思っています。
 いろんな国を訪れて、現地のいろんな人に出会い、語り合い、理解し合うことで、この地球のどこにいる人も自分と同じ人間で、それ以外はさほど重要じゃないということに気付くことができるからです。

 知っていますか?
 世界中のどこにいる人でも、笑顔は共通なんですよ。
 目が見えなくて、たとえ笑顔を見たことがなくても、同じように笑うんです。

 争いが起きないようにする手段の1つは、違いよりも共通点を見つけることです。

 どこが異なっているかよりも、どれだけ似ているかを見つけることが、争いのない世界への第1歩となるのです。

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