第四の男
交通ゼネストで全試合が中止になったおととい11日のプロ野球。各地のゴルフ場が満員御礼に沸くなど「それ来た」とばかりに余暇を楽しむサラリーマンに対し、プロ野球選手に “スト休日” はなし。各球団が練習に励んだ。
そんな中、腹の虫がおさまらないのが “カネやん” ことロッテの金田正一監督である。「ピッチャーが余っとるんや。やりゃあ必ず勝てたんだ。バカタレめ。ストなんかやりやがって」。なるほど、成田、金田留、木樽、八木沢と揃う充実のラインナップを見れば、そう嘆きたくなるのも当然だろう。
ひるがえって中日はどうだ。開幕から4試合を終え、三本柱が総崩れとは情けない。投手陣を束ねる近藤コーチは「ちょっと蚊に食われた程度」と一笑に付すが、このまま “投壊現象” に手をこまねいているわけにもゆくまい。
20日からは兼ねてから懸念されている巨人、阪神、巨人、阪神とつづく12連戦(移動日は一日だけ)が待ち受ける。なんとかそれまでに三本柱の立て直しを図りたいのが正直なところだろう。
こんなとき、救世主は意外なところから出てくるものだ。この日(13日)、先発したのは三沢淳だった。本来なら松本か渋谷の順番だが、調整不足のふたりに代わってスクランブル的な抜擢となった。先発を言い渡されたのは10日のヤクルト戦のときだという。
大洋は中軸のシピン、ボイヤー両外国人がアンダースローに弱いこともある。とりわけ目が慣れていない春先には下から浮き上がってくるようなボールの軌道を攻略するのは至難の業となる。今ひとつ調子の波に乗りきれない大洋打線にとって、変則の三沢は厄介な相手に映ったはずだ。
決して抜群の投球だったわけではない。9回完投という結果に反して被安打7、四死球4を許し、奪三振は5個に留まる。ピンチを作りながらのらりくらりかわした末の白星だった。
2、3、4回はいずれも無死からランナーの出塁を許した。与那嶺監督も「胃が痛くなったよ」と言うように、いつ決壊してもおかしくない状況だったが、三沢は耐えた。驚異的な粘り腰でピンチをすべて内野ゴロの併殺で切り抜けたのである。昨年、三沢は大洋相手に4勝1敗、2完投と手玉にとった。臆することなく左右に投げ分けるこの日の投球にその自信がはっきりと見てとれた。
成長は精神面だけではなく技術面にも表れていた。普段はプレートの一塁寄りに軸足を置く三沢が、この試合では最初から最後まで三塁側を踏んで投げていたのである。入念に三沢対策をしてきたであろう大洋の裏をかく“変身” ぶり。1番から3番まで並んだ左の各打者は、視界の外側からボールが急に出てくるような感覚に戸惑ったはずだ。
三本柱が手こずる間に、三沢は早くも3登板で2勝目を手にした。抑えにはじまり、ロングリリーフ、先発と便利屋稼業を一手に引き受ける。試合後、三沢は昨夜ふろで剃り忘れたという無精ヒゲをなでながら「ツイてるんです。でも最初から勝ち続けるというのは気分がいい」と充実の表情を浮かべた。
ペナントレースはすごろくのようなものだ。主戦級の不調や怪我でチーム運営が行き詰まる場面はかならず訪れる。今の中日投手陣にしても、たまたま130試合の序盤に “悪い目” が出たとも考えられる。「蚊に刺されたようなもの」--なるほど、近藤コーチは長年の経験からそのことを熟知しているのかもしれない。
どんなときでも試合は待ってはくれない。悪いときこそダメージを最小限に抑えることが、僅差で優勝を争う上での決め手となるのだ。
もし三沢がいなければと思うとゾッとする。同じく好投をつづける星野秀とともに “第四の男” のイスをめぐる熾烈な争いが、今の中日を支えている。
中日7-1大洋
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