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災害時の医療支援団体と連携方法
災害時の医療支援には、さまざまなチームがある。本章では各チームの概要と、連携について述べる。
1)災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team;DMAT)
Disaster Medical Assistance Teamの頭文字からDMAT(ディーマット)と呼ばれている。DMATとは、大地震や航空機・列車事故等の災害時に被災者の生命を守るため、被災地に迅速に駆けつけ、救急治療を行うための専門的な訓練を受けた医療チームである1)。
災害の発生直後の急性期(概ね 48 時間以内)に活動が開始できる機動性を持った、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣医療チームである。1隊の構成は、医師1名、看護師2名、業務調整員1名の4名を基本としている。本部活動、広域医療搬送、病院支援、地域医療搬送、現場活動等を主な活動とする。また、本部業務のサポート、病院支援や情報収集等を担うロジスティクスも行う。なお、医療チームの参集状況に応じて、必要な場合には、初期の避難所救護所での活動のサポート等を考慮する。専門的な訓練を受けた医療チームであるDMATが速やかに被災地域に入り、被災地域の医療需要を把握し、被災地における急性期の医療体制を確立する役割をもつ2)。言語聴覚士が活動する場合は、業務調整員としての参加となる。
2)日本医師会災害医療チーム(Japan Medical Association Team;JMAT )
Japan Medical Association Teamの頭文字からJMAT(ジェイマット)と呼ばれている。日本医師会が、医師のプロフェッショナルオートノミー(医師専門職としての自律)4)に基づき、被災地外の都道府県医師会ごとにチームを編成、被災地の医師会からの要請に基づいて派遣が行われる。避難所等における医療・健康管理活動を中心として、主に災害急性期以降を担う5)。
主な活動内容は、被災地病院や診療所の日常診療への支援(災害発生前からの医療の継続)と避難所、救護所における医療・健康管理である。また、避難所等の公衆衛生対策、感染症対策(感染制御)、避難者の健康状態、食生活などの把握とその改善、在宅患者の医療および健康管理、派遣先地域の医療ニーズの把握と評価、医療支援が行き届いていない地域(医療支援空白地域)の把握、及び巡回診療等の実施、現地の情報の収集・把握、及び派遣元都道府県医師会等への連絡、被災地の医療関係者間の連絡会の設置支援、患者移送、再建された被災地の医療機関へのスムーズな引き継ぎである。
3)大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(Japan Rehabilitation Assistance Team;JRAT)
Japan Rehabilitation Assistance Teamの頭文字からJMAT(ジェイラット)と呼ばれている。日本リハビリテーション医学会、日本理学療法士協会、日本作業療法士協会、日本言語聴覚士協会、日本リハビリテーション病院・施設協会、回復期リハ病棟協会、全国デイ・ケア協会、日本訪問リハビリテーション協会、全国地域リハ支援事業連絡協議会、全国地域リハビリテーション研究会、日本介護支援専門員協会、日本義肢装具士協会、日本義肢装具学会で構成されている7)。
大規模災害発生時には災害弱者、新たな障害者、あるいは被災高齢者などの生活不活発病への予防に対する適切な対応を可能とすることで国民が災害を乗り越え、自立生活を再建、復興を目指していけるように、安心、安全且つ、良質なリハビリテーション支援を受けられる制度や体制の確立を促進することを目的としている8)。
4)災害派遣精神医療チーム (Disaster Psychiatric Assistance Team;DPAT)
Disaster Psychiatric Assistance Teamの頭文字からDPAT(ディーパット)と呼ばれている。DPAT の各班は、被災地域内の災害拠点病院、精神科の基幹病院、保健所、 避難所等に設置される DPAT 活動拠点本部に参集し、その調整下で被災地域での活動を行う9)。
DPATは精神科医師・看護師・業務調整員・現地のニーズに合わせて、児童精神科医、薬剤師、保健師、精神保健福祉士や臨床心理技術者等の職種を含めた数名で構成する。被災地域の精神保健医療機能が一時的に低下し、さらに災害ストレス等により新たに精神的問題が生じる等、精神保健医療への需要が拡大する。このような災害の場合には、被災地域の精神保健医療ニーズの把握、他の保健医療体制との連携、各種関係機関等とのマネージメント、専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援が必要である。このような活動を行うために都道府県及び政令指定都市によって組織される、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣精神医療チームである。
5)日本栄養士会災害支援チーム(The Japan Dietetic Association-Disaster Assistance Team;JDA-DAT)
The Japan Dietetic Association-Disaster Assistance Teamの頭文字からJDA-DAT(ジェイディーエーダット)と呼ばれている。
災害時、迅速に被災地内の医療・福祉・行政栄養部門と協力して、緊急栄養補給物資の支援など、状況に応じた栄養・食生活支援活動を通じ、被災地支援を行うことを目的としている。災害発生後72時間以内に行動できる機動性、大規模災害に対応できる広域性、栄養支援トレーニングによる専門的スキルを研修によって養っている。また食料の調達、移動手段の確保などを自身で行う自己完結性も備えており、栄養・食生活支援活動を通じて、被災地支援を行う11)。これまでにも管理栄養士・栄養士が、主に食事や栄養補給に関する支援(炊き出しや栄養相談等)を行っている12)。
日本栄養士会ホームページには、栄養・食生活を支援するための避難生活を送られている方々の食生活の参考としていただくための避難生活向けリーフレット等の資料も作成されている11)。
6)災害時健康機器管理支援チーム(Disaster Health Emergency Assistance Team;DHEAT)
Disaster Health Emergency Assistance Teamの頭文字からDHEAT(ディーヒート)と呼ばれている。
重大な健康危機が発生した際に、健康危機管理に必要な情報収集・分析や全体調整 などの専門的研修・訓練を受けた都道府県及び指定都市の職員によって組織された災害時健康危機管理支援チームであり、被災都道府県等に派遣され、被災都道府県等の本庁及び保健所に設置される健康危機管理組織の長による指揮調整機能等を補佐するものである。被災自治体による災害時の指揮調整機能を補佐する役割を担っている 13)。
7)その他の医療支援チーム
上記の5チーム以外にも、災害死亡者家族支援チーム(Disaster Mortuary Operational Response Team;DMORT;ディモート)、災害派遣福祉チーム(Disaster Care Assistance Team;DCAT;ディーキャット)、大学病院、日本赤十字社、国立病院機構、日本病院会、全日本病院協会、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会等の医療関係団体等、複数の医療チームが早期介入し被災地医療支援に貢献している。
また、炊き出しを行うことが多い自衛隊、避難所の情報が多く集まる自治体や保健所職員等との連携も需要である。
復興期には仮設診療所・仮設歯科診療所も建てられており、地域のことに詳しい医療者との連携も欠かせない。
他にも、全国訪問ボランティアナースの会をはじめ、多くのNPO法人が活動しており、フェーズや避難所の状況に併せて柔軟に連携することが必要である。
8)海外支援
(1)国際緊急援助隊(Japan Disaster Relief Team;JDR)
Japan Disaster Relief Teamの頭文字からJDR(ジェイディーアール)と呼ばれている。
日本国外で起きた地震、津波、洪水などの自然災害と、人為的災害のうち、紛争に起因しない災害を対象としている。国際緊急援助隊には救助チーム・医療チーム・専門家チーム・自衛隊部隊・感染症対策チームに分かれており、言語聴覚士が参加する場合は医療チームでの参加となる。医療チームは、被災者の診療にあたるとともに、必要に応じて疾病の感染予防や蔓延防止のための活動を行う。メンバーは個人の意志で登録している医師、看護師、薬剤師、医療調整員の中から選ばれるのに加え、外務省の職員や独立行政法人国際協力機構(JICA)の業務調整員から編成される。隊の構成は、被害状況や被災国のニーズに応じて、柔軟に対応できるよう体制を整えている14)。
2)その他の団体
国境なき医師団、ジャパンハート、AMDA、PEACE BOAT、Meru JAPAN等の団体もある。
第3章 参考資料
1)DMAT http://www.dmat.jp/ 2017年6月19日参照
2)厚生労働省 日本DMAT活動要領の一部改正について 平成25年
3)平成13年度厚生科学特別研究「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」報告書
4)日本医師会 http://www.med.or.jp/ 2017年6月19日参照
5)石井正三 JMAT総論 平成24年3月10日 6)日本医師会 東日本大震災におけるJMAT活動について 平成28年(2016年)4月12日
6)大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会 http://www.jrat.jp/ 2017年6月19日参照
7)大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会「会則」 2015 年 2 月 1 日
8)東日本大震災リハビリテーション支援関連 10 団体『大規模災害リハビリテーション対応マニュアル』作成ワーキンググループ 大規模災害リハビリテーション対応マニュアルp6-7 医歯薬出版 2012
9)DPAT事務局 http://www.dpat.jp/ 2017年6月19日参照
10)国立精神・神経医療研究センター DPAT 活動マニュアル 平成 27 年
11)日本栄養士会 https://www.dietitian.or.jp/ 2017年6月19日参照
12)独立行政法人 国立健康・栄養研究所 社団法人日本栄養士会 災害時の栄養・食生活支援マニュアル 平成23年4月
13)厚生労働省 健康局健康課地域保健室 災害時健康危機管理支援チームについて 2017年8月27日 参照
14)日本DMORT http://dmort.jp/ 2018年2月5日参照
15)独立行政法人 国際協力機構 国際緊急援助
https://www.jica.go.jp/jdr/index.html 2017年8月27日参照
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