転校生
小学生の時、顔がかっこいいとか、足が速いとか、クラスのムードメーカーだとか、そういう動物的な感性で人を好きになった。(勉強ができるというのはなぜか小学生にはあまり刺さらなかった。)
大抵の女子が同じ人のことを好きになるので、彼らはちょっとしたアイドルと化していた。
3年生の頃、突如現れた転校生のHくん。転校生という特別感と新鮮さにみんなが飛びついた。
都会からやってきた彼は、可愛らしい顔をしたイケメンで、低い身長も味方につけていた。田舎では決して培われることのない洗練された雰囲気は田舎娘たちを魅了し、瞬く間にアイドルとなった。漏れなく私もファンクラブの一員となった。
バレンタイン、彼は手提げ袋一杯のチョコレートとラブレターをもらっていた。
もちろん私もみんなに混ざってプレゼントしたのだが、母に「友達にあげる」と嘘をついてしまった罪悪感から、とにかく安くて大きなものを選んだ。
チョコレートを学校に持ち込むのは勿論禁止されていて、一応それなりに真面目な児童だったので、なんとスリリングで罪悪感満載なイベントなんだ、と子供ながらに思ったのを記憶している。
小学生の頃の私の恋愛はあまりにも浅く薄っぺらいので、今思い出してもなんの感情も惹起されないし、特別な懐かしさもない。
愛用していた筆箱や巾着袋に印刷されていたポムポムプリリンだとか、こげぱんだとか、お茶犬だとか、そういうものと同じ類で捉えていたと思う。
なんて表面的だったのだろう。みんなもそうだったのだろうか。
数年後、彼は我が中学校の不良集団のトップに君臨した。サンリオキャラクターとは決して交わることのない世界線で何かと荒々しく闘っていた。
表面的にしか彼を見ていなかったので、こんなことをいうのもおかしな話だが、あの可愛らしい彼に不良少年になる動機や素質があったのかと思うと、やはり人の多面性というのは侮れないなと思う。
おしまい。