「Xiaomi 14 Ultra」に「AQUOS R9 Pro」…1型センサー搭載カメラの活況
2024年は5月16日にXiaomiより「Xiaomi 14 Ultra」が日本でも発売され、12月にはSHARPより「AQUOS R9 pro」が発売されます。
Apple iPhone などの一般向け機種でも毎年の発表会でカメラの性能強化が大きくアピールされますが、他社では伝統的なカメラメーカーと提携して監修を受けるなどし、カメラに全振りしたような尖った機種も発売されています。
スマートフォン(としては大型ですが)のサイズに高性能カメラを詰め込んだハイエンド機種は、定期的に各社から発売されるようになりました。プロが使うようないわゆる一眼デジカメは日本メーカーの独壇場ですが、こうした旧来のカメラとは一線を画した、小型軽量でありながらきれいな写真が撮れるスマートフォンカメラにも強いニーズがあるようです。
ここ数年は、1型センサーを搭載する動きが目立っています。小さな筐体に大きなセンサーを搭載するのは、大きなチャレンジ。そしてカメラは光学系に加えて、センサーが出力したデータをいかに処理するかで画質が変わります。そうした総合的な技術力をアピールするにも、カメラは格好のデバイスなのでしょう。
スマートフォンでカメラの開発競争が活況になるのは、カメラの小型化を望む1ユーザーとして喜ばしいと思いますが、一方で本質からズレた「1インチ超えセンサー」が謳われるなど(後述)、いたずらにマーケティング用語化してしまう嫌いもあります。歪なマーケティング用語に踊らされないためにも、今回は1型(1インチ)センサー搭載カメラをとりまく市場環境を整理してみたいと思います。
DMC-CM1 (2015) / CM10 (2016)
2015年3月に発売された Panasonic LUMIX DMC-CM1 が、スマートフォン(的)カメラの草分けと言えるでしょう。
撮影時にレンズ部が飛び出すギミックこそあるものの、21mmの厚さに1型センサーを搭載してみせ、Leicaブランドも冠しています。
この機種は「コミュニケーションカメラ」と謳われていたように、Android 4.4 を搭載し、SIMも入って 4G LTE・3Gデータ通信ができ(当時は5G開始前)、Androidアプリが使えるのが売りでした。
CM1は通話もできますが、スマートフォンではなくカメラとして発売され、カメラとして「世界最薄ボディ」が謳われていました。実際、スマートフォンを少し厚くしたくらいの大きさなので持ち運びが楽で、スマートフォンライクの大きな画面がそのままファインダーになるので撮影も楽。
カメラとして開発されているので、ボタン(スライダースイッチ)操作ひとつで即カメラが起動する機動力や、シャッターボタン半押しなどのカメラゆずりの操作性も良好で、もちろんシャッター音はOFFにできます。普段使いにはとても便利なカメラでした。
筆者は翌年に発売された Panasonic LUMIX DMC-CM10 を使っていました。ストラップホールが追加され、Android 5.0 に更新された一方で、通話機能は削除されましたが、筆者は2台持ち前提でカメラ専用に使っていたので、むしろ使いやすくなりました。
しかし、その後継機は発売されることなく終息となり、それから6年ほどは1型センサー搭載機が発売されることはありませんでした。
今でも使えはしますが、OSバージョンアップはおろか、セキュリティアップデートすらろくに提供されなかったので、Android搭載が仇となり、セキュリティ的に非推奨。また、電池交換ができず(電池交換は修理扱い)バッテリー劣化も悩ましい。Android OS を搭載したことで便利になった反面、スマートフォンにありがちなデメリットも受けることになって、短命に終わってしまったのが残念です。
機能面の使い勝手や写真作例は「きまぐれ手記」で紹介していますので、そちらを参照してください。
AQUOS R6 (2021)
DMC-CM1から6年経った2021年6月に、SHARPがLeicaと提携し(※)、1インチセンサー採用カメラを搭載した「AQUOS R6」が発売されて、DMC-CM1/10を愛用していたユーザーを中心に衝撃が走りました。
※AQUOSはあくまでスマートフォンとして発売されています。カメラとしては引き続きPanasonicがLeicaと提携した製品を発売しています。
こちらはスマートフォンとして発売されていて、データ通信はもちろん通話もできますし、通信は5Gに対応。セキュリティアップデートも一定期間提供されました。
しかしカメラとしての出来はイマイチで、画面端が湾曲していて誤タップが頻発する、AFが誤動作してピンボケが頻発する等、場面を選ぶ使い勝手の悪いカメラでした。
理想的な場面では写りは良いかもしれませんが、正直、使い勝手が悪くてすぐに手放してしまいました。
詳しくは「きまぐれ手記」で紹介していますので、そちらを参照してください。
Xperia PRO-I (2021)
SONYが2021年12月に発売。AQUOSに対抗したのかは知りませんが、1型センサー搭載機活況の時代の始まりを告げる出来事でした。
1インチセンサーを搭載してはいますが、おそらくレンズとの兼ね合いでしょう、センサーの中心部をクロップして使う「なんちゃって1型」仕様でした。それにもかかわらず「像面位相差AFを備える1.0型イメージセンサーを世界初搭載」と謳って発売されたので、論議を呼びました。
カメラの使い勝手は AQUOS R6 よりは良かったものの、Xperiaシリーズはレンズフレアがキツイ、自己発熱で機能停止する、強制スクリーンショット音、電池持ちが悪い、大きくて重い、しかも高額といった欠点も多く、早々に手放すことになりました。
機能面の使い勝手や写真作例は「きまぐれ手記」で紹介していますので、そちらを参照してください。
Xiaomi 12S Ultra (2022)
中国メーカーの中でも勢いがあったXiaomiが2022年7月に「Xiaomi 12S Ultra」を発売し、話題を誘いました。同社が初めてLeicaブランドを冠し、1インチセンサーを搭載したことから、中国でしか発売されなかった(※)にもかかわらず世界で話題になり、同社の技術力を世界に発信する機会になったようです。
※筆者は試用していないので本稿では割愛していますが、2023年には後継機の「Xiaomi 13 Ultra」が中国版に加えてグローバル版も発売されています(日本では未発売)。
ご多分に漏れず筆者も個人輸入してカメラ専用機として使っていましたが、当時の1インチセンサー搭載機の中では最も使い勝手が良い機種でした。
機能面の使い勝手や写真作例は「きまぐれ手記」で紹介していますので、そちらを参照してください。
Xiaomi 14 Ultra (2024)
「Xiaomi 14 Ultra」は、2024年2月に発売された、Xiaomiの1型センサー搭載機の現行最新機種。日本では2024年 5月16日に発売されました。Xiaomiの機種が日本でLeicaブランド付きで発売されたのは初めてで(※)、話題をさらいました。
※この後の2024年11月29日に日本で発売された「Xiaomi 14T Pro」も、Leicaブランド付きで発売されています。
カメラに全振りした高性能機で、カメラの使い勝手も写りも良好です。日本国内4キャリアのほとんどの通信バンドに対応しているので、全国のエリアでモバイルデータ通信と音声通話を使えます。
ただし欠点もあって、まずは画面端の誤タップがよく起こります。画面端には Leica Authentic / Vibrant の切り替えやフラッシュボタンが配置されていて、これらの誤タップが頻発します。
電池持ちが悪く、カメラを使っていなくても電池の減りが早く、さらにカメラを使うと電池をもりもり食います。
しかもモバイルバッテリーとの相性があって、例えば「Anker Power Bank 20000mAh A1647N11」を使うと充電できない不具合がありました。どちらが悪いのか知りませんが、双方とも他の機種や充電器に変えると充電できるので、故障ではなく相性問題と理解しています。
日本ではシャッター音が強制ONになるのがいただけませんが、回避する裏技はあって、辛うじて難を逃れている感じです。
そうした機能面の使い勝手は「きまぐれ手記」で詳説していますので、そちらを参照してください。
また、カメラの作例はこちらの動画で紹介しています。
Photography Kit(グリップとフィルターネジ)の使い勝手はこちらの動画で紹介しています。
欠点は、eSIMが使えません。Xiaomi日本法人はFeliCa非対応の言い訳をせっせとしていたようですが、まあ本機はスマートフォンとしては(大きくて重い、電池持ちが悪い等の)使いにくさもあるので、コンパクトな機種との2台持ちを前提として「おサイフケータイ」非対応は納得できなくはありません(筆者も Zenfone 10 と2台持ちしていますし、iPhoneとの2台持ちにも好適だと思います)。しかしeSIMまで使えない理由は語られていないようです。中国ではeSIMが使えないので、中国メーカーにとってはeSIMもローカライズなのでしょうね…
カメラとしての性能は「Xiaomi 14 Ultra」の方が上ですが、スマートフォンとしての使い勝手は「Xiaomi 14T Pro」の方が優れていると思うので(こちらはeSIMも「おサイフケータイ」も使えます)、1台持ちしたい人には「Xiaomi 14T Pro」をお勧めします。SIMフリー版とソフトバンク版がありますが、ソフトバンク版は機種単体購入できず、一部機能の制限もあるので、SIMフリー版がおすすめです。
AQUOS R9 pro (2024)
2024年5月8日に発表された AQUOS R9 と同時には発表されず、半年ほど遅れて10月29日に AQUOS sense9 と同時発表されました。
ドコモ版が12月5日に、SIMフリー版が12月13日に発売されます。
まあ単に時期がずれただけならいいのですが、5月の発表時点で、今期は pro の発表を見送るかのような発言をしていたことが、複数のメディアで報じられていました。
それが掌を返したように半年後に発表…スマートフォンの開発から製造までは数年かかりますから、半年前の時点で少なくとも開発は進んでいたはずです。でも同時期に(少し遅い5月15日に)日本での発売が発表された「Xiaomi 14 Ultra」の様子を見たかったのかもしれませんね。
今回のモデルではレンズフィルター取付ネジのアタッチメントが追加されましたが、こうした機能を後から追加してキャッチアップを図った可能性もありそうです。
SHARPが同じLeicaコラボで日本でも発売された「Xiaomi 14 Ultra」を意識しているのは明らかでしょう。AQUOS R9 pro の発表の場では、「本体にシャッターキーを備え、アクセサリーがなくてもカメラによる撮影体験ができる」といった、競合の Xiaomi 14 Ultra を意識したような発言も出ていたようです。
この市場が活性化するのは歓迎できます。しかし、いくら事実であっても、またセールストークにしたって、「1インチを超える1/0.98インチのイメージセンサー」と謳っていたのには違和感を覚えました。
Xiaomi 14 Ultra のメインカメラに使われている Sony LYT-900 も 1/0.98型です。一般にこのサイズは1型(1インチ)と呼ばれます。AQUOS R9 pro のセンサーは非公開ですが、このクラスのハイエンドセンサーを製品化できるメーカーは限られ、さほど選択肢がないので、おそらく同じセンサーではないかと思っています。少なくともセンサーサイズは競合他社製品と同等ですから、「1インチを超える」だなんて枕詞は余計です。
一方、SHARPが頑張った点もあります。例えばeSIMが使えます。当たり前だと思うかもしれませんが、実は Xiaomi 14 Ultra はeSIMを使えないのが不便です。
AQUOSは「おサイフケータイ」も使えるので、モバイルSuica等も使えます。もっとも、このクラスの機種はカメラ専用機として2台持ちする人もいるでしょうから、2台持ちする人には不要でしょうが、1台でスマートフォン兼用カメラとして使う人には必須の機能でしょう。
また、AQUOS R9 pro はドコモ版とSIMフリー版が発売されますが、ドコモ版は強制シャッター音で、SIMフリー版に限りシャッター音をOFFにできます。相変わらずキャリアモデルの強制シャッター音には辟易しますが、本機を購入するならSIMフリー版一択でしょう。
なお、IIJmioと au +1 でも販売されますが、これらはおそらくSIMフリー版と共通仕様ではと思うものの、確証が持てないので、これらを購入する際は人柱報告を待ってからにする方がいいかもしれません。
イメージセンサーの大きさ
ここで、今回話題のセンサーサイズの話を少ししたいと思います。
レンズ外付けのカメラ専用機では、フルサイズ(36×24mm)やAPS-C(23.4×16.7mm)(※)などのもっと大きなサイズのセンサーが使われています。
※同一サイズでなくても、このサイズに近いセンサーがフルサイズやAPS-Cと呼ばれています。
フルサイズは、フィルムカメラで一般的な35mm判との互換性を重視したサイズで、従来のフィルムカメラで使われていた交換用レンズがそのまま使えるメリットがあります(言い替えると、APS-Cサイズのカメラとはレンズが異なります)。
また、センサーが大きいほど、受光部が広いわけですから、より多くの光を取り込んで高精細な写真を撮れる可能性が高まります。反面、センサーサイズに見合う筐体やレンズが必要になるため、一般に機器が大型化・重量化します。
スマートフォンのカメラが高性能化した今になっても、大きな「一眼レフ」カメラに大きなレンズを付けて撮影している人を少なからず見かけますが、あれはあれで一定の合理性があるわけです。
しかし、大きさ・重さが増えることでパフォーマンスが低下することも明らか。持ち運ぶ荷物が増えることは大きな負担になりますし、撮影時重量が増すことや、レンズの付け替えなども面倒です。せっかくカメラを買っても大きく・重くて持ち歩かない、持っていてもカバンの奥底に入れてしまい取り出せ(さ)ない…となっては宝の持ち腐れです。写真家や記者などの用途によっては別でしょうが、一般向けにはさっと取り出せる場所にあってこそのカメラだと思います。
今、スマートフォンサイズで1型センサーなどを搭載する高級機が増えているのは、もちろん技術の進展の賜物ではありますが、従来のカメラが抱える大きい・重い・面倒という欠点を重視している人が少なくないことの裏返しでもあるのでしょう。
「1型」「1インチ」イメージセンサーの大きさ
イメージセンサーを大きくすると、より多くの光を取り込めて、画質向上が期待できます。とはいえ、前述の通り筐体や光学系(レンズ等)も大きくなってしまいますから、携帯用機器ではいたずらに大きくはできません。
スマートフォンの大きさ(とりわけ厚さ)に収めるためには、現時点でスマートフォンのカメラに使われる現実的なセンサーサイズは最大1型程度までです。
イメージセンサーのサイズを表す「型」「インチ」とは、センサー(長方形)の対角線の長さをもとにしていますが、ちょっと複雑です。
ディスプレイ、モニター、テレビなどでは、画面の対角線の長さをインチ表記した値が使われています。例えば「15型」画面の対角線の長さは15インチ≒38cmくらい。アスペクト比4:3のモニターであれば、三角比により、長辺の長さは対角線の4/5、短辺は3/5です(多少の誤差は出ます)。
ところがイメージセンサーには、この法則は当てはまりません。
例えば Xiaomi 14 Ultra のメインカメラに使われている Sony LYT-900 (IMX989) は 1/0.98型で、対角線の長さは16.384mm。画面の法則に従えば25.918mmのはずですが、おかしいですね。
今時のカメラはみなデジタル方式で、CMOSイメージセンサー(一昔前まではCCDイメージセンサー)を使って光(画像)をディジタルデータに変換していますが、当初のビデオカメラは撮像管を使うアナログ方式でした。イメージセンサーの大きさは、この撮像管の外径に換算して○インチ(○型)と呼ばれているんです。
焦点距離をネガフィルムの35mm判で換算するのと似ていますが、わかりにくさがありますね。
【参考】OPPO Find X8 (2024)
狙ったのかは知りませんが、Leicaコラボの「Xiaomi 14T Pro」が発売された今日(11月29日)、OPPOからもカメラに全振りした新機種「Find X8」が日本で発表されました。Leicaコラボの「AQUOS R9 pro」(SIMフリー版)が発売される直前の12月12日に発売されます。
MediaTek Dimensity 9400 という高性能SoCを搭載しており、防水性能も高くなっています(IPX9)。もちろん国内4キャリアのプラチナバンドを含む主要バンドに対応していて(ただしドコモのn79には非対応)、nanoSIM2枚挿しとeSIMにも対応していて、スマートフォンとしても使いやすそうです(ただし「おサイフケータイ」は非対応)。
カメラはHasselbladとコラボしていて、同ブランドを冠しています。
メインカメラのセンサーは Sony LYT700 50MP 1/1.56型、望遠カメラ(光学3倍)は Sony LYT600 1/1.953型 50MP。超広角は Samsung 5KJN5 を搭載しています。
メインカメラの Sony LYT700 は1インチよりもだいぶ小さなセンサー(1/1.56型)なので本稿では「参考」としましたが、カメラ重視のスマートフォンがまたひとつ増えたのは嬉しく思います。
OPPOは中国およびグローバルで「Find X8 Pro」というもう一段上の機種も発売しています(日本での発売予定無し)。こちらも1インチセンサーではありませんが、全画素全方向PDAF対応の Sony LYT808 1/1.4型センサーを搭載しています。
OPPOはセンサーサイズ競争から少し距離を置いているようです。同社が「HyperTone」と呼ぶカメラシステムでは、ソフトウェアによる画像処理(コンピュテーショナルフォトグラフィー)や画面表示も合わせて写真の画質向上を図っています。Hasselbladとの協業では色表現を重視しており、老舗カメラブランドでも光学系も重視するLeicaとは少し性格が異なるようです。コンピュテーショナルフォトグラフィー(ソフトウェア処理)を突き詰めている Apple iPhone や Google Pixel と、光学系などのハードも重視しているLeicaコラボ機種(※)の、中間のような立ち位置ですね。
※Leicaのブランドだけ付けているのではなく、Leicaコラボ機種ではレンズはもちろん、イメージセンサーの選定にもLeicaが係わっているようです。
前述したようにセンサーは大きい方が画質を向上しやすいですが、光学系の設計が難しくなり、レンズ等を含めて大型化しやすいきらいもあります。また、センサーが大きいと被写界深度が浅くなって接写や近接撮影でピンボケしやすくなる側面もあって、用途によっては使いにくいカメラになってしまうこともあります。
スマートフォンのカメラは作品撮りだけでなく、フリマなどの物撮りにも使いますし、QRコード決済やeKYC本人確認(※)などでも使います。
様々な使い方をするスマートフォンのカメラとしては、大きなセンサーの弱点も考慮すると、少し小さな1/1.4型のセンサーを採用しつつも、全画素全方向PDAFに対応して使い勝手を優先する判断は悪くないと思います。あとは画質と使い勝手のバランスで各ユーザーが判断することになるでしょう。