ahamo増量への各社対抗状況
NTTドコモのオンライン手続き専用プラン「ahamo」が、2024年10月より料金据置で20GB→30GBに増量されました。150%(5割増)の大増量に驚きましたが、国内シェアの35%を握る最大手のNTTドコモの料金設定は他社にも大きな影響を与えるため、2021年3月に「ahamo」が登場したときは各社が対抗を余儀なくされました。今回はその「ahamoショック」が再来しそうです。
なお、本稿では「ahamo」そのものについては割愛します。詳しくは下記の記事を参照してください。
真っ先に対抗した日本通信SIM
ahamoの大増量に真っ先に対抗したのは、MVNO(他社の通信インフラを借りてサービスしている仮想通信事業者)の「日本通信SIM」でした。
元々「合理的30GBプラン」が通話5分定額付きで月額2,178円だったので、元の料金でもahamoの新料金よりだいぶ安くて競争力がありそうですが、ahamoの増量よりも1日早い2024年9月30日に、料金据置で167%に増量され、「合理的50GBプラン」にリニューアルされました。既存ユーザーにも自動適用されています。
同社のahamoへの対抗意識もさることながら、大胆な料金設定に度肝を抜かれました。
また、日本通信SIMでは月額1,390円(通話5分定額付き)の「合理的みんなのプラン」が従来10GBでしたが、これが200%(2倍)に増量されて20GBになりました。これも既存ユーザーにも自動適用されています。
MVNOなので昼休み時間帯などの速度低下はあるものの、ahamoの半額以下で毎月20GB使えるのは驚異的な安さ。これだけ安いと、月間20GBで充分という人は乗り換えたくなるのではないでしょうか。
日本通信SIMは空いている時間帯は快適に使えますが、MVNOなので昼休みと朝夕の速度低下に要注意。昼休みにコンビニや飲食店でナントカPayを使うくらいならば問題ないですが、用途によっては厳しい時もあります。例えば筆者はオンライン会議や地図などを使うので、速度低下が起こる時間帯はpovoに切り替えるなど、端末のデュアルSIM機能で使い分けています。
日本通信SIMの「合理的みんなのプラン」「合理的50GBプラン」は安いのに無料通話が付帯していて、5分定額と70分無料通話を選べます。どちらを選んでもいいですが、筆者のおすすめは70分無料通話。5分以上の通話をすることは時々ありますが、月に70分以上も通話する人は多くないと思います。
逆に通話が多い人には、5分定額では物足りないでしょう。そういう人には通話かけ放題オプションを、「合理的50GBプラン」には1,200円で、「合理的みんなのプラン」には1,600円で追加できます。つまり、月額3,378円で通話かけ放題とデータ通信50GBが使えるわけです。すごいですね!
そして、ahamoは着信転送と留守電が塞がれているので通話機能に難がありますが、日本通信SIMは着信転送できるので、「スマート留守電」なども問題なく使えます。しかも転送通話料にも70分無料通話が適用されるので、毎月の通話料は大抵70分無料通話で収まります。
筆者も通話に使う回線は「日本通信SIM」を使っています。ドコモ回線は全国の広いエリアで使えるので、通話用にはとても便利です。
こんなにお得な「日本通信SIM」ですが、MVNOにとっての課題は使い勝手と知名度でしょう。
使い勝手については、混雑時間帯の速度低下は前述しましたが、端末のデュアルSIM機能を使って複数回線を入れ替えることで対策している人も多いと思います。しかしiPhoneユーザーは「構成プロファイル」を入れ替えないといけないのが地味に面倒です(MNOは構成プロファイル不要で自動認識されます)。筆者はAndroidメインなので困っていませんが、iPhoneでは回線切り替えが億劫です(ずっと同じ回線を使っているなら問題ありませんが)。
また、ドコモ等の圧倒的な知名度に対して、日本通信SIMは知らない人が多いと思います。街中にショップがあるわけでもなければ、高額なTVCMなどもしていませんからね。
つまり、サポートや広告宣伝にかかる費用を抑えることで、ドコモ回線を使うモバイル通信サービスを安価に提供できているわけですから、知名度が低いのはある意味当然。仮に格安SIMが大手のような広告宣伝費をかけて知名度を上げれば、値下げも増量もできなくなってしまうでしょう。
この構図はなかなか変わらないでしょうから、詳しい(自分で勉強する)人はかしこく格安SIMを使い、知らない(自分で勉強しない)人は割高な大手キャリアの「メインブランド」を使う、という構図になっています。
しっかり対抗してきたKDDI
MNO(自らインフラを持っている通信キャリア)では、KDDIがahamo対抗プランを投入してきました。
10月18日から、「povo 2.0」に「データ追加360GB(365日間)」26,400円の定常トッピングを追加。1年分を前払いする必要はあるものの、1ヶ月あたり約30GBを2,200円で利用できます。さらにahamoと条件を揃えて通話5分定額を付けても月額換算2,750円なので、ahamoよりも安くなります。povoは通話機能でも着信転送を使えるようになったので、「スマート留守電」なども使えて安心です。
ahamoなどは歴月計算で余りは切り捨てなので、月に30GBと言っても目一杯使うわけではなく結局余らせている人が多いと思いますが、povoは1年分(365日)や半年分(180日)などまとめて購入し、いつでも買い足せるので、うまく買えば余すことなく目一杯使い切ることができます。「300GB(365日間)」24,800円(月平均25GBを1年間使えて月額換算2,067円)などもあるので、月に30GBも使わないという人でも自分に合うデータ量を組み立てて使うことができます。利用が休日に偏っている人は「データ使い放題(24時間)」330円などを別途購入すれば、普段使うデータトッピングはもっと小容量でも足りるかもしれません。
このように自分で組み立てるのが「面倒」と感じるか「自由」と捉えるかは人それぞれだと思いますが、工夫するほどお得な手応えを得られるのが魅力です。工夫する際には、筆者のまとめサイトが参考になるかと思います。
自分で組み立てるのが「面倒」と感じる人には、歴月計算の「UQモバイル」が向いています。こちらは11月12日から、ahamo対抗の「コミコミプラン+」を受付開始。月額3,278円で30GBと10分通話定額が付帯します。ahamoより若干高いですが、キャリアショップも利用できますし、歴月計算で余った分は翌月まで繰り越して使えます。
ahamoより2ヶ月ほど遅れますが、従来の「コミコミプラン」から料金据え置きで、20GB→30GBに増量されます。ただし、月に50GB以上使うと128kbpsに制限される改悪条件が追加されるため、既存契約者はプラン変更手続きが必要。とはいえ、1Mbps制限で20GB以上も使う人はごく一部でしょうから、多くの人には改善でしょう。
povo・UQは回線品質と廉価なプランを両立
NTTドコモは5Gエリアの展開期に「瞬速5G」にこだわりすぎて、都市部での使い勝手が悪化しています。あまりに悪化して問題になり、渋谷等の一部繁華街では後にテコ入れされて改善しましたが、筆者の行動圏でもドコモ回線はいまだに使い勝手が悪い場面が多く、アンテナピクトはたくさん立っているのに反応が悪い場面も少なからず。
VoLTE通話にはQoSが働くので、アンテナピクトが立っていれば快適に通話できますが、データ通信は人が少ない山間地では良いものの、人の多い都市部でのドコモ回線の使い勝手は褒められたものではありません。
先述の「日本通信SIM」はドコモ回線を使うので、全国の広いエリアで使える利点はありますが、ドコモ回線は首都圏など人口が密集する都市部での使い勝手はいまいち。使えないことはない、程度です。格安SIMならば割り切って使えますが、メインのデータ回線に使うのはちょっと…という気もします。
ahamoの増量は評価できるのですが、ドコモにはまず通信基盤の改善に全力で取り組んでほしいですね。通話メインならばエリアの広いドコモが便利なのですが、ahamoは着信転送が塞がれていて通話用回線には不向き。さらに今のデータ通信品質を考慮すると、ahamoを積極的に選ぶ気にはならないように思います。
一方、都市部での使い勝手はソフトバンクが先行していましたが、KDDIは2024年春夏に一挙に5Gエリアを拡げ、とても使いやすくなりました。
ソフトバンク回線は都市部ではとても快適に使えますが、郊外に行くと使い勝手が悪くなるのが玉に瑕。しかも料金がお高め。
その点、au回線は都市部から山間地・観光地まで広くカバーしていて、料金面の選択肢の広さも魅力になります。
通信料金は安くしたいけれど、通信品質にもこだわりたい人には、au回線をお得に使える povo 2.0 がおすすめです。
対抗できていない他社
2024年10月17日の本稿執筆時点で、MNOの中ではソフトバンクと楽天モバイルがahamoに対抗できていません(※)。
ソフトバンクはオンライン専用の「LINEMO」で、2024年7月30日に新料金プラン「ベストプランV」を始めたばかり。20GBで2,970円、通話5分定額込みという、(当時の)ahamoを強く意識した料金設定になっていますが、20GBを越えると3,960円に跳ね上がります(上限30GBまで)。ahamoが料金据え置きで30GBに増量されたことで、「ベスト」とは名ばかりになってしまいました。
※2024年10月25日にソフトバンクもようやく対抗しました。
楽天モバイルも20GBまでは2,178円で使えますが、20GBを少しでも超えると3,278円に勝手に値上がりします。
楽天は地下鉄や観光地などで使いにくいことと、使い放題が売りなので大容量ユーザーが多く、場所によってはヘビーユーザーに占拠されていて使い勝手が悪いこともあって、通信品質のムラが大きいのも注意点。
まあ経営体力のあるMNOは構わないのですが、問題は薄利の「格安SIM」で経営体力の乏しいMVNO。「日本通信SIM」が真っ先に対抗したことは前述しましたが、他のMVNOは「ahamoショック」になかなか対応できていないようです。
それでもユーザー目線では安くなるのは大歓迎…なのですが、長い目で見ると、競争相手であるMVNOが脱落していくようなことになると、大手MNOの寡占に戻ってしまいます。
MVNOは競争政策を担っている側面もあるので、ここが脱落するようだと将来に禍根を残しかねません。モバイル通信の競争政策を担う総務省には、接続・卸料金の引き下げなどでMVNOが市場競争に参加できるよう、強くバックアップすることが求められます。
(追記)
2024年10月25日にソフトバンクも対抗したので、改めて記事を書きました。
(この記事は『きまぐれ手記』の該当記事を再構成したものです)
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