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『コーチ・プライム ~勝利の方程式~』S1-E1

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シーズン1, エピソード1「脚光を浴びるジャクソン州立大」


3シーズン続く作品の第1話目は、もちろん「コーチ・プライム」こと ディオン・サンダース の紹介から始まる。

MLB, NFLで活躍した選手時代の映像や、派手なスーツでTVに登場する映像などの後に、大学のコーチに就任した時の様子が映し出される。彼は、2020年HBCU(Historically Black Colleges and Universities)の1つ、ミシシッピー州にあるジャクソン州立大学(JSUタイガース)のヘッドコーチ(監督)となる。

翌2021年には11勝1敗という圧倒的勝利を挙げ、SWAC (*1) で優勝。だが、この結果と彼の人気に対し妬みと反感も買ってしまう。アラバマ大ヘッドコーチのニック・セイバンはテレビ番組で「ジャクソン州立大は、賄賂を送ってディビジョン1 (*2) の選手を獲得したんだろう」と嫌味を言っている。

これは、この後シーズン通して大活躍するトラヴィス・ハンターのことを言っていた。トラヴィスはこの時まだ18歳。高校ナンバー1選手だった。

これに対してトラヴィスが自身のSNSでコメントを出している。

"I got a mil? But my mom still in a 3 bed room house with five kids"

「100万ももらったって? うちは未だに5人兄弟で3部屋しかない家に住んでるよ」(字幕では「100万もない」「うちは貧しい」)

こんなことを言われてもディオンは気にもかけない様子で(内心は穏やかでなかっただろうが)、気まずい表情のニックに対し自分からにこやかに声をかけ、同じCMに出演している。

ディオンにとっては、周りの批判や中傷は何でもないことだ。彼には(特にチャンスの少ない黒人の)若者にチャンスを与え、社会に出て逆境にあってもくじけない強い人間を育てたいという強い思いがあるのだ。

強い選手を育てて結果を出し、あえて自分がマスコミに出るなど目立つことで、彼らの多くをプロとして世に送り出したいのである。NFL殿堂入り選手やスカウト、プロリーグのオーナーなどに積極的にアプローチし、彼らを大学に招いている。

こんな熱心なディオンであるが、シーズン3年目を目前にした2022年8月29日、思わぬ逆境に見舞われる。大雨でパール川が氾濫し、浄水場が被害を受けたため、ジャクソン市が深刻な水不足に襲われてしまったのだ。

消防活動にも支障をきたし、一般家庭でも飲み水やトイレ、シャワーに影響が出た。暑い夏の盛り、学校は閉鎖となったが練習をやめるわけにはいかない。飲み水とシャワーを求めて、チームはバスで水が出る町まで移動した。

大学側の計らいで5つ星クラスのホテルに泊まることができ、選手たちはこの恩に報いたいと勝利に向けて意気込むのであった。

シーズン最初の対戦相手はフロリダA&M大学(Florida Agricultural and Mechanical University = 農工大)。

期待の新人トラヴィスは、脚のケガにより手術を受け、未だリハビリ中。試合に出したいが、まだ全力は出せない。本人はコーチに聞かれ、回復は20%ほどだったが「90%」と答えてしまう。何しろ、フロリダは自分の出身地。家族や友人に活躍を見せたかったのだ。

コーチは思案した挙句、トラヴィスを出場させることにする。トラヴィスはコーチにハグして "Thank you for giving me a chance, Coach." 「チャンスをくれてありがとう、コーチ」と言うのであった。

コーチはよく息子たちや他の選手にも、ハグして "I love you."「愛してる」と言うのだが、これはアメリカの(数少ない)美しい習慣だと思う。日本だったら、監督やコーチは試合の前に励ましこそすれ、「愛してる」はもちろんのこと「お前を大事に思ってる」なんて甘い言葉はささやかないだろう。

コーチや親が自分を信じて愛してくれることが、選手らの大きな力になっているようで、いささか羨ましい光景である(と、私には思える)。

さて、このハグが効いたのか、水不足のストレスを発散させたかったのか、JSUタイガースは怒涛の攻撃と確かな守備を見せ、59対3点という圧倒的大差で初戦に勝利し、未だ水不足の続くジャクソンに戻るのであった。

(字幕翻訳 町野 健二さん)


(*1)  SWAC:サウスウェスタン・アスレチック・カンファレンス。SWACはHBCUと呼ばれる歴史的黒人大学で構成されているカンファレンス

(*2)  ディビジョン(Division):アメリカ最大の大学体育協会 NCAA (National Collegiate Athletic Assosication) に加盟する大学を「大学の規模」「体育会の規模」「種目数」「奨学金の数」によって分けている。ディビジョン1~3まであり基本的に入れ替え制ではない。実力別ではないものの、ディビジョン1はテレビ放映も多く力のある選手が集まりやすいと言われている。


著者:浦田貴美枝(映像字幕翻訳家)

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著書:『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
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