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事故物件専門調査員桑津の管理ファイル【とあるマンションの話 ①】

「よし、これで完成っと。」
その夜も俺は美味しく出来上がったアヒージョをアテに、いい感じでKP(乾杯)して程よく酔っぱらっていた。
ワインのボトルを空けて、もう一本飲もうかと新しい I BALZIに手をかけたその時、Twitterから通知が来た。

何やら@付きでリプライが来ているようだ。

フォロアーでもあり、リアルでも仲良くさせてもらっているどんとこい違法業種ちゃん(女)からだった。

お祓いしても、出てくる男性の霊だって?
その時点でかなり手強いじゃないのww
どうしましょう、じゃないよw
俺は霊媒師じゃないってば。笑

他の人もリプ入れてるようだが、ご指名なので、俺もリプを返してみる。

極めて常識人の見解を述べました。笑
だって私、一般人ですから。
それにこれよくあるケースだもん。
急な病気で変な声が聞こえたり、変なものが視えるようになるんだもん。

とはいえ、せっかくどんちゃんが@つけて送ってきてくれたのだから、期待には応えねばなるまい。

実をいうと、俺はこういった類の人が視える人なのである。
それもあって俺は今までも色々と不思議な体験をしてきた。それなりに危ない目にも遭った。

視える人なのだ、とか言っておきながらなんだが、俺はあの世の世界などこれっぽっちも信じてはいない。
実家は浄土宗であるが、墓すら必要ないと公言しているくらいだ。盆休みも不要だ。信心などまったくもってない。
人は死んだら、無に還る。
それだけだ。そう思って生きている。

それでも、視える。視えてしまうのだ。
高校2年生のとき、実家の3階から誤って転落したことがあった。
幸いにも下に置いてあったお隣さんの車の上に落ちたおかげで、車は大破してしまったが、骨折などもなくほぼ無傷だった。
ただ落下のショックでなのか、ドーパミンやらβエンドルフィンやらの脳内麻薬が瞬間的に大量に放出されたらしく、お脳の方が一時的にクラッシュしてしまったらしい。

そこからだ、視えるようになってしまったのは。

だから可能性の一つとして考えられるのは、事故によって俺の脳に何らかの障害が残ってしまった結果、視えるようになったのだろう、いうことである。

だからこそ、どんちゃんにも確認したのだ。
その人、病気じゃないかって。

実際に、3階から落下したときに救急で運ばれた先にいた、おねぇっぽいしゃべりをしたおっさんのお医者さんもCTの写真を見ながらこう言っていた。

「お脳がすんごく腫れちゃってるのよね。
 ここ、ちょうど視床下部のところだから、
 今後何か支障が出るかも〜。
 ま、生きてるだけでラッキーな事故だから、
 ありがたく生きてね♪」

ありがく生きてね♪ ってw
あのおねぇのおっさん、元気にしてるかな。
そんな思いに耽っていたら、どんちゃんから返信が来た。

ほう、本人だけでなく、お子さんにも視えているのか。
じゃあ・・ということで返信。

すると、こんな返信が。

ほうほう。
前回の話って、これかな。

俺が視える人たちはいわゆる地縛霊みたいにその場にとどまっているのではなく、結構動いてらっしゃる。
マンションの一室で死んだ人たちでも、その部屋から普通に出て、廊下も歩いてる。
なんならチーンいうてエレベーターのドアが開いたら、そこにいらっしゃることもよくある。笑
だからこそ売買でも賃貸でもマンションのとある一室で心理的瑕疵が発生した場合は、違う部屋を扱うときでも告知すべきという意見に俺は激しく賛成してる。

だって、移動するんだもん。
(そんな理由、他人には言えないけど。)

なるほど。
生活に支障がでるのはかわいそうだなぁ。
せっかく購入した新居だというのに。

さっきも言ったように、俺は死後の世界とか信じていない。
だからこそこういう相談が来たときは、まず他に原因があるんじゃないかといつも考えている。
実際に日当たりが悪いマンションで鬱になることもあるし、建物全体が傾いているせいで平衡感覚に支障をきたし体調が悪くなることもある。
俺が調査を依頼されたケースでも、90%は何らかの科学的証明が出せるものだった。

ただなんだろう、実はちょっと前から少しずつ目の奥が疼き出している。
何かが視えそうな予兆だ。
現地にも行かず、話を聞いているだけで、視えてくるケースというのは中々ない。
脳の奥でチリチリ何かが燃える匂いがする。

このリプを見た瞬間、あるイメージが脳内で再生された。
川の流れる音が聞こえる。近くに川があるのか。
・・マンションが視えてきた。
結構高いところに、俺は浮遊している。
ベランダが視える。
男が険しい顔をして、そこに立っている。
ただ、怨念は感じない。
何かを警告しているようにも感じる。
何階だろう・・下から数えてみる。
そこでイメージが途絶えた。
途絶える前に、何階かはわかった。

返事はすぐに返ってきた。

わぉ、ビンゴか?


安請け合いしちゃったけど、これ、かなりヤバいかもな。
経験上、話聞いただけでここまでイメージ視えるのは稀だし、視えた男性の表情が妙にひっかかる。
彼は何を伝えたいんだろう。

一気に酔いがさめた俺は、引き続きどんちゃんからのDMを待ちつつ、チリチリし始めた脳を休ませるために、2本目の赤ワインのコルクを開けた。

続く


PS
もう2年くらい前の話なんですが、
かじるさん、その節は本当にすみませんでしたw


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