すべりだい 5.2
天使ちゃんこと、花ちゃんと初めて出会ったのは、彼女が中学2年生のときだった。
当時、俺は大学に通いながら、夜は集団授業の塾講師をしていた。
学費を自分で稼がなければならず、時給が高いという理由で塾講師をしていた。
時給は5000円で週5とかで入っていたので、当時は月給換算すると30万ほどあった。(司法書士の事務員の月給よりも普通に高かったな。orz)
その塾に、塾生として花ちゃんがいた。
そうして塾講師と塾生という立場で彼女と出会った。
花ちゃんに話しかけた第一声は今でも覚えている。
初顔合わせの時に、一人ひとり名前を呼んで挨拶をするのだが、そのときに
花ちゃんの名前を呼んだ。
名前が初見では読みにくく、間違われやすいにも関わらず、俺は正確に名前を呼んだので、花ちゃんはびっくりしたとのこと。
そのあとふと、俺は花ちゃんに何げなく、
「ええ名前やな。」
と言った。それがとてもうれしかったのだと未だに言い続けている。笑
あと、断っておくが、その当時は断じて手を出していない。
断じてだ!(誰がロリコンじゃ!)
「そういやお前、国語ができたよな、じゃあ国語教えてくれ。」という塾長の安直な決断で、その当時俺は国語を教えていた。
そもそも論だが、国語ができる奴が「国語」を教えられるわけはないのだ。
たとえば現国の問題を解くとき、俺は「考えて解いた」ことなどない。
文章を読んで、問いを読めば、答えがわかる。
「文章読んだら解けるやろ?」なのである。苦笑
こればっかりは理由がない。
今まで読んだ本の量だとか、思考プロセスだとか、理屈っぽいとかっていう性格云々をひっくるめての話だからだ。
というわけで、俺は困ってしまった。
よりにもよって、国語かよ、と。(本当は数学とか理科がよかったのだが、塾長のテリトリーだったので、絶対に回ってこなかった。苦笑)
不覚にも「国語」なんていう捉えようのない科目且つ、日本で生きていくには最重要な科目を教えることを仰せつかった俺は悩みに悩み(5分ほど)、
結論として、
「国語は読解力の問題なので、成績いい奴には教えなくても点数取ってくるし、悪い奴には教えたところで理解しない。」
と悟り、娯楽に徹することにした。(あかんw)
エデュケーテイメントと勝手に名付けていたが、エデュケーション(教育)とエンターテイメント(娯楽)を合わせて、楽しく時間を過ごしてもらうことにした。
とは言っても、まぁ、授業っぽいことはした。
読解力はあっても、新しい漢字は覚えないといけないし、文法や古典の単語など、覚えれば点を取れることはやまほどある。
ただし、ただの漢字テストや古語テストなんかしてもおもしろくもなんともないので、漢字テストの例文を時事ネタやその当時流行っていた歌詞やドラマのセリフなどに変更して実施したりした。
そういった内申点対策などの必要最低限なことは極力楽しく覚えさせるなど工夫して、あとは授業時間ほぼ漫談した。
スタンダップコメディ講師である。
毎回毎回ネタ繰りするのはなかなか骨が折れたが、ウケがよかった。
生徒も増えた。アンケートの結果も上々でとんとん拍子に時給が増えていった。
自分に合っている職業だなぁと思っていた。
人を楽しませて、物を教えて、お金をもらう。
天職だとも思っていた。
ただ、若いからできているんだろうなとも感じていた。
まだ教え子たちと感性が近いので、ウケているだけだと。
年取って、感覚がズレていくと「何あのオヤジ、おもんなー。」ってなるんだろうと。
逆にずっと子供のままの感性なのは社会的にどうなんだろうと。
それに塾講師という職業、体力的にかなりハードであった。
50分3コマ、ほぼしゃべりっぱなし。
ある種のスポーツである。
代わりがいないので、風邪もひけないし、休みもできない。
これをあと何十年も続けていくだけの情熱は俺にはなかった。
そんな折、同じ塾内で付き合っていた彼女からフラれた。(1話参照)
突然パツキンになったりもした。
そんな折、やつれにやつれた俺を見かねた教え子から、バレンタインの時にかなりマジな求愛をされ、それが親御さんに知れて大問題になったりもした。苦笑
体調も崩して、授業の用意をしているときに輪転機の前で倒れたりもした。
そんなこんなで、卒業を機に塾講師をやめたのだ。
花ちゃんも、本人は隠していたようだが、その当時から俺に好意を持っているのはバレバレで、辞めたときはかなりショックだったようだ。
それでか、家が近所だったこともあり、俺が塾講師を辞めたあとも、俺の家に押しかけて遊びに来るようになった。
俺の方も、受験前に辞めてしまって最後まで面倒見切れなかったという思いから、遊びに来たときは話し相手になったり、勉強を教えてあげたりしていた。(重ねて言うけど、その当時は全く手を出していないですからね!)
そして花ちゃんは公立の高校へと進み、俺も家を出て一人暮らしをするようになったのを契機に、たまに近況報告をメールでする、ぐらいの仲に収束していった。
それから3年後、急に花ちゃんからメールがきて、高校を卒業したこと、卒業後は看護学校に通うことになったこと、卒業したからお祝いでもしてよ、という話になった。(今から考えれば図々しいやつだ。笑)
「それじゃ、飯でも行くか。」という話になり、その前に久しぶりに俺の部屋に遊びに行きたいと言われたので、実家の俺の部屋で何年か振りかに会うことになった。
それが全ての発端だった。笑
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