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月下美人の一夜

  私は月下美人という花が好きです。その名前は、夜に咲く白くて美しい花を月の光に照らされた女性に例えたものだそうです。しかし、その美しさはとても儚くて、朝になるとすぐにしぼんでしまいます。そうなのです、たった一夜咲かすだけなのです。そんな月下美人を育てるには、愛情と忍耐と希望が必要です。

 3年ほど前に、私は一枝の月下美人を知人からいただきました。鉢に挿し木をして、家の玄関先で育てることにしました。毎日水やりをして、花が咲くのを楽しみにしていました。しかし、一年間待っても花芽はつきませんでした。二年目に花芽を付け6輪の花が咲きました。
ですが、その年の冬越し時に霜に当ててしまい枯れてしまう寸前までになってしまいました。

 一時は、枝や葉が茶色くなって枯れたようになってしまいました。もう駄目だろうなと諦めなければいけないだろうなと思いました。それでも私は諦めきれませんでした。植え替えをして土を入れ替えたり、肥料を与えたり、日当たりや風通しを考えたり、水やりの方法を工夫しました。

 今年の7月初旬のある日、約20個もの花芽が去年出た葉茎にズラリと並んでいるのに気が付きました。私は嬉しくて飛び上がりました。これからどんどん花が咲くのだろうと想像しながら、ワクワクと毎日観察しました。

 しかし、残念なことに開花まで行かずに、赤く変色をしてすべての花芽が落ちてしまいました。私はショックを受けました。もしかしたら、この花は、もう私には咲いてくれないのかもしれないと思いました。

 そう思いながらも一縷の望みをもって世話だけは続けていた、7月下旬になって花芽がついているのを見つけました。今度は4個ほどでしたが、前回よりも大きくて元気そうでした。私は期待と不安で胸が高鳴りました。今度こそ咲いてほしいと祈りました。いいえ、咲かすぞと意気込みました。

神秘的です



 そして昨夜(8月29日深夜)、とうとうその日がやってきました。夕方から香りが漂ってきて、つぼみがぐっと天を指すように上向きになり、つぼみの周りの細い弁のようなものが少しずつ開いていくのが分かりました。開花の始まりです。


4輪同時に開きました




 私は玄関先に台を置いてそこに月下美人の鉢を乗せました。
時間の経過に従って何度も確認をしていました。時計の針が20時を指した頃、つぼみが徐々に大きく開いて行きました。白い花が、月の光(昨夜は満月に近い)に照らされて輝いていました。花びらは重なり合って、中心には長い雌しべと雄しべが飛び出していました。香りは甘くて強くて、鼻をくすぐりました。私は息をのみました。それはまるで夢のような光景でした。

 私は花に近づいて、優しく触れてみました。花びらは柔らかくてしっとりしていました。私は花に話しかけました。「こんなに美しい花を咲かせてくれてありがとう。私はあなたが大好きだよ。」私は感動しました。枯れそうになった月下美人が蘇ったのです。嬉しかった・・・・!!

見事に開きました!


 
 私は花を何度も見に行き深夜の一時頃まで観察をするために玄関先へと往復しました。そして翌朝早めに起きて見に行くと、花はしぼんでしまっていました。香りも失われて、昨夜の美しさが嘘のようでした。私は少し寂しくなりましたが、また来年咲いてくれると信じています。

 月下美人は、私に大切なことを教えてくれました。美しさは永遠ではなく、一瞬のものだからこそ美しいし尊いということ。花を咲かせるために努力することの意味と喜びということ。そして、希望を持ち続けることの大切さということです。月下美人は、私の人生に色と香りを添えてくれた素晴らしい花です。

 どうぞ来年もいい花を咲かせてくれますように🙏

霜にも夏の暑さにも負けずに🫶 

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