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「守護天使」
「HOLLY SHIT!」
俺は端末を手繰り電子武装を展開する。
ファイル名は
「对杀神的特殊补救措施ver.1.1」
旧PLAが大戦初期に開発したって触れ込みの対神霊兵装だ。圧縮され全編1秒になった「神の存在を否定する言葉」が各国語でリピート再生され辺りに響く。
こちらを触手で蹂躙しようとしていた天使の動きが一瞬鈍る。
しかしあくまで"一瞬"だった。
「…いけない子ですね、お姉ちゃんは悲しいです」
"天使"は何事もなかったように触手を振るう。
「悪い言葉を使ってはいけませんよ、お仕置きが……必要ですね」
端末が叩き壊される。……クソったれ!小銃で牽制射撃を浴びせる、天使用に調整された劣化ウラン弾頭が触手を打ち据える、そうして僅かに稼いだ時間を全て回避に費やす。
触手が僅かに掠るだけでも、多幸感と快楽で身動きが取れなくなりそうだ。
俺は奥歯に仕込んだニガヨモギ・エンハウンスメントを噛み締めなんとかそれに耐える。
「玩具が壊れてしまいましたね、でもお姉ちゃんにオイタをした貴方が悪いんですよ。さぁ……癇癪を起こすのは止めてお家に帰りましょうね……」
サイコパスめ……何がお姉ちゃんだ。こいつら天使達に"救済"された同業者たちの末路が脳裏によぎる。
「家に帰してくれんのかよ?天使サマは随分お優しいンですねぇ!」
俺はなんとか確保した間合いから意味のない虚勢を押し付ける。
「あぁ…貴方たちが"家"と呼んでいるのは危ない場所なんですよ、さぁ…お姉ちゃんが本当の"お家"に連れて行ってあげます」
触手が四方から押し寄せ、逃げ場のない"強制救済"が迫る。
…殺るしかねぇ、残された魔力を2つのデバイスに集中させる。
1つは汚濁手榴弾、瞬時に破裂し前方に迫る触手を退ける。しかしこのクラスの天使には焼き石に水だ。
「まぁ…花火ですか?火遊びは関心しませんね…お家に帰ったらお仕置きですね」
天使は俺の処遇を妄想し、顔を湿った悦楽に染める。
「……そんなに"お人形"を連れていきたければコイツを持ってけ」
魔力が枯渇する感覚に酔いながら、チャージが完了したもう一つのデバイスを前方に投擲する。
デバイスの名前は…「サモン・ゲート」
サモン・ゲートはLED光を発し、アスファルト上にホロ魔法陣を展開した。周辺の空気が歪み、そして凝縮する。
そして"ソレ"が姿を表した。
"ソレ"は瞬時に人型をとる…。いや、正確に言えば……ジェット戦闘機を天使の型にはめ込んだような姿に。
「機械で出来たのワタシたち……?」
天使から今までの余裕が失せる。
「………~♪」
奇妙なハミングを唄いながら"ソレ"は一気に加速。背部に展開した金属羽が触手を薙ぎ払う。
「止めなさい!貴方はなんなんですか!?」
天使は素早く触手を再生する。だが遅い!!
「"お姉ちゃん"そいつはな…俺の守護天使だ」
吐き気に耐えながらも、余裕ぶって告げる。
「……!」
"ソレ"…いや俺の守護天使「ベルゼビュート」は更に加速し、天使のすぐ前方に迫る。
守護天使。其れは悪魔の名を冠した人類最後の希望。
「ふざけないで!」
再生された触手がベルゼビュートに集中する。
「~~?」
ベルゼビュートは煽るかのように不明瞭な電子音を鳴らす、軽量化された華奢な腕部が天使に触れた。
「あっ……」
天使の体は文字通り「細切れ」になりコアを晒す、ベルゼビュートはコアを容赦なく握りつぶした。
「"天国"には一人で帰れ」
天使の断片は瞬く間に塵になる。
「……〜♪」
ベルゼビュートは満足気にハミングを再開し、こちらに駆け寄り…そして……その……俺を抱き締めた。
「ちょ…ベルビュート!」
「………"ベル姉さん"でしょ?」
ベルゼビュート…いや"ベル姉さん"はペタペタと体に触れながら不満気に言う。
「この前の報酬でそう取り決めましたよね?ちゃんと呼んでくれなきゃダメです」
自称"ベル姉さん"は俺に怪我が無いことを確認し離れる。
……なんでちょっと名残惜しそうなんだよ。
「……ベルゼビュートじゃダメなの?」
「ダメです!ベルは貴方の守護天使でお姉ちゃんだから"ベル姉さん"が正しい表現なのです」
……ベル姉さんが俺の姉という事実は無い。
俺は守護天使システムの欠点に思いを馳せながら、帰投ルートを探すことにした。
【続く】