I WANT YOU
その日、俺達の乗ったヴィークルは車列の先頭を走り護衛業務を遂行していた。
「天国には何があると思う?」
「天国?」
目の前に座る髭面の兵士が妙な質問をこちらに投げかけてきた。
「いろんなやつに聞いてんだよ、運転手のジェレミー曰く天国には無料のアイスクリームがあるらしい」
車列は左右を崖に囲まれた隘路地域に突入し、無線機から警戒を促す放送が流れる。
「……天国には温かいコーヒーがあると思う、角砂糖とミルクが付いてるヤツ」
最後に飲んだコーヒーの味を思い出し、思わず喉が鳴る。最近はインスタントコーヒーですら贅沢品だ。
「そりゃあ良い、ヴァルハラにもコーヒーがあると良いな」
髭面は熊を思わせる人懐っこい笑みを浮かべる。
「ヴァルハラって?」
「故郷に伝わる天国みたいな所さ。『死した戦士はヴァルハラに招かれて最終戦争のためにブートキャンプに参加する』的な」
指を曲げるジェスチャーをしながら髭面はそう語った。
「死んだ後もブートキャンプとかそれこそ地獄じゃないか……」
脳裏にブートキャンプ時代の苦い経験が蘇り思わず顔をしかめる。それを見た髭面はさらに笑う
「新兵時代に苦労したクチか?でもまぁヴァルハラに行けたら食いっぱぐれる心配はないってのは確かだろ」
目の前に手が差し出された
「コーバック・ノーマンだ、生まれはスウェーデン」
数秒ばかり思案して手を握り返した
「俺は─」
その時世界が爆ぜた。
「手続きのため、貴官の氏名及び生前の最終階級をお願いします」
目の前に座った天使はやけに神経質な声をしている。
爆ぜたはずの世界は故郷にあった新兵勧誘窓口に姿を変えていた。
ここはどこだ?(見た目通りの新兵勧誘窓口である筈がない)ヴィークルや髭面はどこに?
「……まだ混乱されているようですね。よろしければコーヒーでも飲みますか?」
天使が立ち上がり、その背後の壁に貼られていたポスターが目に映る
『ヴァルハラの脅威迫る!求む志願兵』
まじかよ
【続く】