「心が叫びたがってるんだ。」にハマって(6)
6.3 テーマの大局観
全体をおおくくりに見ると,本作の内容の構造は重層的であると感じます。いくつかの層が重なっているのです。それを表面的な方から順に上げると,次の4層です。
◇表 層:苦みも甘さもの学園青春ドラマ(青春てすばらしい&ほろにがい)
◇第1層:言いたいことがあるならはっきり言えばいいの。という「メッセージ」
◇第2層:人は救済される(ことがある)。という「希望」
◇第3層:人を動かす原動力のひとつは性的衝動。という「原理」
のようになっていると感じます。この作品を見てどの層が自分に届きそうか,によって,受け手の見方は変わるのでしょう。
私も視聴3,4回目くらいまでは,「恋愛要素をもっと減らせばいいのに」と思って観てました。しかし,その後,視聴を重ねるにしたがって,作者が描きたい核心は上記の第2,第3であって,表層はおろか第1層でさえも(極言すればですが)「核心を描くための素材にすぎない」のかもな,という気がしてきました。そうでないと,えぐいオープニングも,高2女子が一人であの廃墟の奥深くに入り込んで好きな男子と廃ベッドの前で対峙する,というぶっとんだ設定も(とても一般受けしそうもない設定),あちこちにこれでもかと,くどいくらいに散りばめられた恋愛・性がらみの小ネタも,とても説明がつかないかな,という気が今はしています。
一般受けするだろう「表層」(と第1層)を上手に整然と語ることを曲げても,それが成功してもしなくても,主張したいことを盛り込むことを優先した(だろう)ことに,作者の根性(クセ,とも言えそうか...)をわたしは感じます。人によってはこれを,「作家性が強い」と表現するようです。
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