ソフトクリームマシーン
ソフトクリームマシーン?それともソフトクリーム製造機?名前は分からないけどアレがほしい。
快活CLUBやシェーキーズでよく見かける。初対面がいつのどこだったかは分からない。ただあの鉄製の複雑な箱が小さなころからほしくて、でも幼心にも金と場所を取ることが分かっていたから、たとえどっかの店頭で販売されていても親にねだらなかっただろう。
結局、冷蔵庫で作れる氷を入れて、手動で削るかき氷クラフター?を買ったけど、あれはソフトクリームでもマシーンでもない。冷たくて美味しいところだけが似ている。そう、見た目と名前はぜんぜん違うのに、感じさせてくるものは同じな、不気味なものだった。肝が冷えた。腹もね。
しかしより詳しく記述してみれば「牛乳っぽい味がする」「滑らかな舌触り」といった表現で差異を認識できるだろう。僕ら動物はそれらを感じることができる。でも僕ら以外は考えることができない。考えるということは言葉を使うものなので。しかし、言語能力のレベルが低いと却って混乱する…………不思議なものだ。
もう一つ不思議なのは、僕が脳内の自分の部屋にソフトクリームマシーンを置いたとき、ひどく違和感を覚えたということだ。ああ、マシーンなのに電線がないからか?と思って電線とコンセントも追加してみたが、どうにもおかしい。
ヘソくらいの高さの小さな机を用意して、その上に置いたソフトクリームマシーンでソフトクリームを作る。作る?おいおい、コーンがないぞ。僕は手に乗せて食べるつもりか?それもそれでいいが。
側にコーンをセットして、それを取って、ソフトクリームを作る。黒くて少し厚いゴムに覆われたレバーを引くんだ。それで時計回りにソフトクリームをコーンへ垂らす。マクドナルドのソフトツイストとは違って、中にもたっぷりと入れる(あれは100円だから商品としてはいいよ)。
できたてのソフトクリームをほおばったが、その自分を俯瞰してみてもやっぱりおかしい。あ、光源がなかった。
ベランダを作って、ガラスの扉を開けて、白く薄いカーテンをかけると、それが靡く様がさわやかで心地よかった。ひまわりのような陽光がカーテンで和らげられたまま部屋と僕とソフトクリームマシーンを照らした。なぜかその日は初夏か晩夏だと確信していた。
アホみたいに突っ立っているのも自分のことながら滑稽なのでソファチェアを用意して座ってみる。フローリングが硬いからスリッパも履く。冷たいものは風呂上がりに食べたほうがおいしいから風呂に入ってきたことにした。ホテルみたいにバスローブを着ちゃったりしてね。
最後に、友人を用意した。
「おい、お前ソフトクリームマシーンなんて買ったのか?」
「いいだろ?いつでもソフトクリーム食べ放題だ」
「一人暮らしだっていうのに。しかも、親に仕送りをしてもらっている立場で」
「親は喜んでくれるよ。俺が幸せになるための投資なんだから、ソフトクリームマシーンは。それに、1人はもうやめる。一緒に住もう」
「ええ?」
「その方が安く済むし、なにかと便利だろ。なにかあったらいつでも助け合えるし、すぐに遊べる。話す場所が欲しいだけで入ったカフェのよくわからない味のコーヒーに400円も使う必要はない」
「………………………」
「それに、ソフトクリームマシーンがある」
「………………そうだな。ソフトクリームマシーンがあるもんな」
友人はコーンをとって僕と同じ時計回りでソフトクリームを垂らした。そしてほおばるとき、「俺の椅子は?」と聞いてきたから「じゃあソフトクリームマシーンの代金半分払えよ」と返してやった。
僕はソフトクリームマシーンがほしかった。でもソフトクリームマシーンだけがほしかったわけじゃない。ソフトクリームマシーンを置ける部屋も、ソフトクリームをおいしく食べられる環境もほしかったし、なにより、一緒に食べてくれる友人がほしかったんだな。
晩夏とはいえまだ熱く、ソフトクリームはおいしかった。僕の食べかけのソフトクリームはすっかり溶けていた。