とうとうファイナル!18thショパンコンクール イチオシコンテスタント【STAGEⅢ感想①】
ついにファイナリストが発表されましたー!
日本からは小林さん、反田さんが本選へ。おめでとうございます!!
おふたりとも経験豊富なピアニストでいらっしゃるので、これまでのソロの緊張感とはまた違った、大きなスケールの演奏を聞かせてくださるのではないでしょうか。
それにしても、ファイナリストの個性豊かなこと……!
前回大会のファイナリストは正統派で音色がキレイな方々が多かった印象があるので、今回は大分毛色が違うようにも思います。
前のステージでは素晴らしい演奏をしていた方が途中で精彩を欠いてしまったり、逆になんで残ったんだろう?と思った方がびっくりするような大変貌を遂げたり、が頻繁に起こるのがコンクールの常です。これはショパンコンクールに限ったことではありませんが、特にこのコンクールではそういった場面が多くみられるような気がしています。
つまり、ファイナルも何が起こるか分からない。
最後まで耳と目が離せません……!
さて、本選に残ったコンテスタントたちの、STAGEⅢの演奏の感想を載せていきたいと思います。ずいぶん長くなってしまったので(5000字オーバー!)、気になる方の部分だけ読んでいただいても◎
まずは12人のうち、これは間違いなく通過でしょう!コンチェルト絶対聞きたい!と思った5名について。全員無事通過が決まって、本当に嬉しい。審査員のようなプロ中のプロが聞いても、私のような極東の一素人が聞いても、誰が聞いても「素晴らしい」と思えた演奏をされた方々、と言い換えてもいいと思います。
※名前をクリックすると当日の演奏動画に飛ぶことができます
Leonora Armellini / Italy
幻想ポロネーズ Op.61
ブライトな音で導入。流れるような美しさがあり、そして大きな音楽。盛り上がるとこで一気に盛り上がるんじゃなく、ギリギリまで耐えることでダイナミックな対比が生まれる。ほとばしる情熱!歌う、ぶつける、叫ぶ、抱きしめる。なんて分かりやすくて気持ちのいい音楽。オペラのような絶頂。歌が優先されるから、変なところでフレーズが切れたりポソポソしたりしない。上手く構成を考えて弾かないと飽きられがちなこの曲を、こんなに山あり谷あり、そして愛を感じさせる曲に仕上げてくるなんて。お見事。
マズルカ Op.41-1,2,3,4
深い嘆きをたたえたマズルカ。ひとり孤独に打ちひしがれるような悲哀ではなく、愛の悲しみ。恋人に、腹の底から「どうして!」って叫んでいるような。もはやアルメリーニ劇場。人間味が溢れてこぼれている。
ソナタ Op.35(2番)
とても情熱的で切迫感のある導入。人間味あふれる音楽、大好き。それを聞かせてくれる演奏家が好き。多少大袈裟な感じはあるけど、作りこんだものではなく、彼女のありのままの感性で弾いてることが分かる。嘘のない音楽。
1楽章の迫り来るコーダ、鳥肌。素晴らしい。葬送でもまたちょっと鳥肌。これも魂の叫び。中間部ではひとつひとつの音を丁寧に、美しい響きで弾く。フレーズは長い、しかし呟くように歌う。再現部、ただ嘆くだけではなく、明確に意思を持った強い表現。そしてラスト、ただただ圧倒。ソナタなのに短く感じでしまった。
Alexander Gadjiev / Italy, Slovenia
幻想ポロネーズ Op.61
相変わらずマイペースで自由な雰囲気。この人って緊張とかするんだろうか。一つ一つのフレーズを等価に弾く印象。ここはメイン、ここはつなぎ、みたいな差別化をしない感じが新鮮。ペダルべた踏み×カワイの渋い響きが妙にピッタリ合っている。
マズルカ Op.56-1,2,3
不思議なリズム感。愛とかハグとか何それおいしいの?みたいな。変わったことしてやろう、とか俺様は我が道をゆくのだ!とかじゃなくて、本人はみんなと同じように普通に弾いてるつもりなのに、明らかに独自のカラーが出てしまうタイプ。リズム感がないようであるようで、崩れそうで崩れない。それでいて音が生き生きしてる。不思議。
ソナタ Op.35(2番)
これまた面白い演奏。森、といってもかわいい小動物がいて小川が流れて、みたいな森じゃなくて、ドワーフとかゴブリンとか、妖怪たちが乱痴気騒ぎしてる森……そうか、彼の描く世界は浮世じゃないんだ。そもそもこのソナタの構成自体、若干わけわかんない感じもあるし、そう考えると彼にピッタリな気がしてきた。もはや弾きたい放題。1楽章の展開部だったかな?キレッキレの左手、反則レベルでかっこいい。そういうのを何食わぬ顔をして挟んでくるのは、ズルいぞ!
葬送の中間部はノーブルで大変美しい。透きとおった高音、こういうのも弾けたのか……そして再現部で思いっきり響かせて、ズドンズドン。迫力と美が共存している。ギャップ萌えでノックアウト。考えてみると、確かに4楽章は最終楽章ではあるものの、華々しくフィナーレ!という雰囲気ではない(個人的にTo be continued……だと思っている)。なので、3楽章の再現部にトップをもってくる解釈はアリだと思う。
そして4楽章。安定感。和声感も抜群で、もはや完全体。ラストは一切間をおかず一気に!!これマネする人絶対出てくる。彼の演奏でこんなに後ろ髪を引かれることになるなんて、前のステージでは思いもしなかった(むしろちょっと苦手だったくらい)。特に3~4楽章は繰り返し聞きたい。
Martín García García / Spain
プレリュード Op.28-17,19,23
キュートな音と深くて迫力のあるバスの音がちょうどよく混じり合って、とても気持ちがいい。Dur のプレリュードを連続で。甘く可愛く。とっても幸せな音。さらさら流れる小川ときらきらの木漏れ日、ひらひら舞う蝶とさえずる小鳥、が見えてくるよう。
ソナタ Op.58(3番)
1楽章、上を見上げて、歌う、というより呟いている?神に祈るような。ファツィオリの華やかで抜けるような響きがよく合っている。豊かな感情表現はそのままに、落ち着いて音楽が進むので安心して聞いていられる。ピアニッシモでも軽妙さと明るさは保たれたまま。
2楽章、まるで初夏の森のような爽やかさ。面目躍如。中間部ではひたすら祈りを捧げ続ける。たまにフランスものっぽい響きが聞こえてくるような。再現部で勝利確定!(?)。
3楽章では少女のように、少し悲し気に。マン~♪と気持ちよくテノールで歌う様子を見て、幸せにならない人がいるだろうか、いやいるはずがない(反語)。深く瞑想的な音が絶品。後半、人生の走馬灯のような……大変なこともあったけど、素晴らしい出来事もたくさんあったな、と微笑む老人の姿を描くような、そんなあたたかみ。ともすれば長くてダレがちな3楽章、音も表現も特段変わったことはしていないのに、どうしてこんなに心を打つんだろうか。このラルゴ、自分の葬式に流してもらいたい。
4楽章は比較的ねばっこく導入。和声感も抜群で、ポリフォニーもいい。湿度があって、人間的な感情に溢れたいい音楽。最後は冷静かつ大胆に!
マズルカ Op.50-1,2,3,4
また、ラーン♪って歌ってる……。歌と踊りが両立するマズルカ。とても優雅で華麗。表情豊かな2曲目、音は決して雑にならず、繊細できれいな弱音。オーバーリアクションだからといってオーバーな音になるとは限らないのだな。表情がくるくる変わるので、聞いていてまったく飽きない。変な表現だけど、生まれたばっかりの赤ちゃんみたい。美音とハッピーオーラにすっかり捉われていたけど、実はリズム感も突出しているコンテスタントであることに、改めて気づかされる。
プレリュード Op.45
大好きなプレリュード、彼の音でこの曲を聞けるのが幸せすぎる。彼のプログラムは、ただただ愛している曲をとにかく弾きたくて持ってきました!という印象。演奏を聞けば一発で分かる。寂しくて、それ以上に深い愛を感じるプレリュード。ショパンの姿が重なる。
ワルツ Op.34-3
フルコースの最後、デザートに猫のワルツ!プログラムの組み方が最高すぎる。もう、言葉が出ない。大好き。最高。彼は絶対猫好きと確信。
Aimi Kobayashi / Japan
マズルカ Op.30-1,2,3,4
哀愁を感じさせる音ではじまる1曲目。2曲目では、フォルテとピアノを交互に。無駄なことをせず、すっきりとまとめた強い表現。3曲目、ねばっこく、意志の強さを感じさせる音。この音の強さ、圧力、深さ、が彼女の個性だと思う。4曲目も入魂!
プレリュード Op28-1~24
前回出場時と比べて、音楽的な表現については深み、ないし軽妙さを身に着け、非常に洗練された印象がある一方で、彼女自身の「こうありたい!」意志をよりむき出しにしてきたような印象を受ける今回。プレリュードの導入、ぐっと掴みかかるようなパッセージからスタート。聞き進めていくにつれて、ショパン、というより彼女自身の苦しみを通奏低音として、この24曲を構成しているように聞こえてきた。15番「雨だれ」では、ペダルの響きを生かしつつ、静謐で祈るような世界観を構築。憂いをまとった柔らかい音。そしてバスをドーン!の暗い表現と低音ピアニッシモ……誰もいない石造りの廃墟でボーン、ボーンと響いているような。どんどん沈みこんでいって、もう上がって来れない、いやそもそも上がる気がない、なんてことを考えてしまう。
落ち着いた表現と伸びのあるキラキラした音の23番から、対比的にラストの24番へ。気迫。もうズタズタで立ち直れない、といった様相で最後の音。両脇の鍵盤を左手で押さえて、指3本。1曲1曲ひたすら入魂で、緊迫感が全く切れなかった。すごいものを見てしまった……。
Jakub Kuszlik / Poland
ファンタジー Op.49
他のコンテスタントたちが何気なく濁らせてしまう音がクリアだったり、美音に関しては明らかに一線を画している。少し歩みが進むとテンポが一段階上がる解釈も面白い。深層から表層へ、そして現実世界に出てくるような?単なる場面の変化にとどまらず、音楽がたゆたいながら動く。フォルテでも音が潰れないどころかキラキラが増して、魅力倍増。そして祈りへ。悲哀をたたえながら静かに神へ捧げるような…曲が盛り上がっても変にルバートがかかったりダレだりすることがない。あたたかいけど冷静で、少々のことでは動じない器の大きさ、を感じる。
マズルカ Op.30-1,2,3,4
mollからDurへ入れ替わりがとても自然で、非常に透明感のあるマズルカ。「踊れるマズルカ」と「聞くマズルカ」は両立するんだなと気付かされた。シンプルで余計なことはしない、無駄のない自然な美しさ。3曲目のフォルテの箇所、バスをどーんと響かせる弾き方でダイナミックに表現する人も多いなか、彼は一段階弱めた音量で凛とした表現に仕上げていた。4曲目は静かでキラキラした音で。聞いている私の体が自然と動いてしまう。悲しみと喜びが同居する美しさ。
ソナタ Op.58(3番)
あたたかさと美音はそのままに、ひとつひとつを丁寧に弾くスタイル。ところどころでうっとりしてしまう。2楽章の冒頭はキレキレでスタート。パラパラでつぶつぶに、和声感もしっかりと。
3楽章、優しくてしっかり鳴る、豊かな音色。本当に音楽性が素晴らしい。彼の音楽は自己顕示欲みたいなものを一切感じさせないので、スッと入ってくる。それでいて癖の強い人たちの音楽とも差別化ができてるんだから、もう恐るべしとしか言いようがない。傷ついた心を優しく慰めて、撫でてくれるような……この楽章、落ち込んでる時に聞いたら間違いなく泣くと思う。ショパンも地元の人がこんな素敵に演奏してくれて、嬉しいだろうな。このソナタは3楽章の出来で決まると言っても過言ではないと思っているんだけど、彼の音楽は全くダレない。なんならこのまま1時間くらい聞いていられそうな気がする。
4楽章、気持ちいい!踊れそう。おかしみと勢いが混沌としていてかっこいい。ここまで長時間弾いているのに、ニュートラル。まさに泰然自若。全てが彼の中に納得したかたちで収まっていることが分かる。本当に素晴らしい、質の高いプログラムを聞かせてくれてありがとう。彼のインプレションと思索によって生み出された、自然で知性的な音楽だったと思う。