EQの代わりにフィルターを使う 〜フィルターmixのすすめ〜
DJ mixをする際、EQを使って混ぜていくのが一般的ですが、EQの代わりにフィルターを使っても全く問題はありません。
EQ操作で一番大事なのはLOWカットです。その理由はボリュームの大部分は低域で占められているからです。
2つの曲をそのまま混ぜてしまうと、音量超過で音割れや歪みになってしまいます。そうならないようにEQでLOWをカットしていくのですが、これはフィルターでも代用が可能です。
今回はDJエフェクトとして有名なフィルターを少し違う角度から掘り下げます。
フィルターって何?
そもそも、フィルターというエフェクトの役割はなんでしょうか。
フィルターにはいくつか種類がありますが、どのフィルターにも共通していえるのは「特定の帯域をばっさりカットする」ということです。ローパスフィルターは高域をばっさりカットし、ハイパスフィルターは低域をばっさりカットします。
特定の帯域をカットするという部分において、フィルターとEQは非常に似ています。先ほど「mix時はLOWカットが大事」と書きましたが、ハイパスフィルターを使うことで、EQのLOWカットと同じような効果を作ることができます。
フィルターノブを回すと…
試しにフィルターノブを12時の位置(エフェクト効果無し)から徐々に右に回してみましょう。
効果を図で表すと上のようになります。
カットされる帯域が低音から中音、そして高音に向かって広がり、最終的には超高音だけが残ります(ノブを回していくとフィルター特有の高揚感のような効果が音に加わります。フィルターがDJに人気な理由はまさにこれ)。
帯域をカットするという部分はフィルターとEQは非常に似ていますが、この「カットする帯域の幅を可変できる」という部分は、フィルターだけが持つ特徴といえます。
さらに、このエフェクト効果を1つのノブ操作だけで生み出せるのも特筆すべき点です。後半で詳しく解説します。
独立したフィルターの登場
少し長くなりそうなので、箸休めの余談を1つ。
DJミキサーやmidiコントローラーにはチャンネルごとにフィルターノブが設置されています。しかも縦フェーダーの真上というミキサーの中でも特等席にレイアウトされています。
見慣れたこの並びですが、実は割と最近の傾向なのです。
TRAKTOR KONTROL S2を例にあげると、MK1(2011年発売)には独立したフィルターノブはどこにも見当たりません。しかしMK2(2015年発売)で上部GAINと兼用(意味不。使いにくいでしょう)、そしてMK3(2018年発売)で晴れて縦フェーダーの真上に独立して鎮座…といった変遷がみられます。
これはNative Insturmentsだけでなく、他のメーカーのDJミキサーやコントローラーにもみられる業界全体の共通した変化です。
余談の余談ですが、私がDJに興味を持った90年代はフィルターやアイソレーターはマスターにかけるもの、というのが一般的で「独立したチャンネルフィルター」という発想はまだあまり浸透していませんでした。しかしVESTAXだけは割と早い段階からチャンネルエフェクトにこだわっていたように思います(例えばPMC-CX)。
VESTAXの話をすると悲しくなりますが、当時の開発者たちは今のDJ機器を見て「やはり自分達は正しかった」と感じているはずですね。
時代はチャンネルフィルターを求め、DJ達の強い要望により今では特等席に配置されています。そんなフィルターを使わない手はない!…とお後がよろしくなったところで後半戦に突入です。
フィルターをEQの代わりに使う
例えば、クラブユースな4つ打ち曲でロングミックスをする場合「次曲のハットから混ぜたい」、もしくは「シンセのブリブリ音から入れて次にハイハット、最後にキックを…」といった具合に、音のパーツを個別に出し入れするライブパフォーマンスのようなmixを考えることがあります。
この場合はHIGH、MID、LOWと別々に周波数帯をコントロールできるEQを使うのがやはり最適です(逆にいえばフィルターはLOWから順番にカットをしていくかHIGHから順番に増やしていくか、の二択しかできないので不向き)。
しかし、アニソンやPopsなどを扱うオールジャンルmixでは、上述したような「楽曲をパーツごとに捉えそれを抜き差しする」手法を選択することは非常に少ないです(そもそもロングミックスが稀)。
大抵はLOWを切り、あとは順番にMID→HIGHと切るか(音量の占める割合の多い順に切っていく)、LOWを切った後に縦フェーダーを下げる、といった動きになります。
つまりこれ、そっくりそのままハイパスフィルターで代用できてしまいます。
ここで再度、ハイパスフィルターを使った音の変化を聞いてみましょう。
では今度はEQを使ってLOW→MID→HIGHとカットをした同じ音源を聞いてみてください。
大半の方があまり違いを感じられなかったのではないでしょうか。
では今度は実際にmixをした音源を聞いてみましょう。
まずはハイパスフィルターを使ったmixから。
お次がEQを使ったmix。
ほとんど違いはありませんね。それどころかフィルターを使ったmixの方がEQより高揚感がある…と感じる方も少なくないはずです。
これはカットする帯域をなめらかに増幅できるフィルターならではの効果がmixにプラスに働いているからです。
フィルターmixの利点
さて、ここまでフィルターの特性をEQと比較しながらみてきましたが、ここからはmix時にフィルターを使うことで得られる様々なメリットを挙げていきます。
操作はノブ1個
アニソンやPopsなどを扱うオールジャンルmixでは、基本的にはサビの後のブリッジ8小節(32拍)でmixをすることが多いです。これは時間にするとBPM128では約15秒、BPM170で約10秒と非常に短いです。
場合によっては4小節(16拍)でショートmixをしたり、1小節(4拍)でクイックに繋ぐこともあります。こうなるとmixに費やせる時間はさらに短くなります。
例えばBPM170の曲で1小節のカットイン的な繋ぎをやろうと思ったら、与えられた時間はなんと1.25秒!これを3つのEQを使ってやるのはきっと不可能でしょう。しかしこれ、フィルターならば動かすノブは1つだけなので容易にできてしまいます。
HIGH、MID、LOWという3つのEQを忙しく使うスタイルを私は否定はしませんが、1つのノブで同様の効果が得られるのであれば、mix時間の短いオールジャンルにおいてフィルターをEQの代わりに使うことは、実はとても理にかなった選択だと思います。
細やかな変化から大胆な変化まで
フィルターmixは1つのノブ操作でおこないます。小さな変化を狙う場合はゆっくりノブを動かします。また、大胆な可変がしたければグイっとひねればよいのです。
やり過ぎてしまった場合は少し戻したり、逆も然り。実際に出音を聞きながら簡単に微調整ができるのもフィルターmixの利点です。
ミスの軽減
初心者がよくやりがちなミスに「EQの戻し忘れ」というのがあります(EQを絞ったまま戻さず次の曲を流してしまう)。特に忙しいオールジャンルmixではこのEQの戻し忘れが頻発します。
しかしフィルターmixの場合、使うノブは1つです。片付けるものが1つだけならミスはそんなに起こらないでしょう。
操作をできるだけシンプルにしていくことがミスの軽減につながります。
余裕ができたら他の操作も
ノブ1個の操作でできるフィルターmixは、EQ mixに比べて手に余裕が生まれます。その余裕を他の操作に回してみるのもおもしろいかもしれません。
例えばエフェクトをONにしてパラメーターを弄ったり、バックスピンをしたりLOOPボタンを押したり、酒を飲んだり!
フィルターmixで生じた余裕によって、よりDJのパフォーマンスに広がりが与えられます。
EQの良いところ
最後にEQの良いところも少しは書いておきましょう。
あの「グリグリDJやってる感」はEQならでは、なんだな。
フィルターmix…、ノブ1つの操作なので見た目が地味。
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