KEY mixを極める❷ 信用ならぬソフトに代わって自分でKEYを解析する
前回はKEY mixをする際の相性のよいKEYの関係を、音楽理論を交えて掘り下げました。
Circle of Fifthに載っているスタンダードな関係調以外にも、様々な相性のよい関係があることがわかりました。また、混ぜると確実に不協和音になる「混ぜるな危険KEY」も紹介しました。
KEY mixの奥深さや、多くの可能性を実感していただけたと思います。
しかし待ってください。
そういった様々な関係調をDJプレイに活用するためには、そもそもDJソフトが正確にKEYを解析していることが大大大前提です。もし、その解析が間違っていたのなら、せっかく学んだ関係調も、せっかく作った「最強のCircle of Fifth」も全く意味がありません。
さあ、みなさん。DJソフトは正しくKEYを解析していると思いますか?
また、もしソフトが間違えていた場合、私たちはどのように対処すればよいのでしょうか。これが今回のテーマです。
デジタル技術がもたらしたKEY mix文化
本題に入る前にKEY mixの歴史を簡単に振り返りましょう。
DJプレイで「KEY mix」という手法が用いられるようになったのは、実は割と最近のことなのです。
アナログレコードが主流だった時代は、BPMを変える…つまりターンテーブルの回転数を変えると、当然KEYも変わってしまいました。DJ mixは基本的にはBPMを合わせることが最優先なので、回転数によってコロコロと変化してしまうKEYのことまで考えるDJはほとんどいませんでした。
ところが90年代になってDJ機器にデジタル技術が波及すると、BPMを変えてもKEYが変化しない「KEYLOCK」や「MASTER TEMPO」といった機能が登場します。これにより一部のDJがKEYを意識するようになりました。「KEY mix」時代の幕開けです。
2000年代になるとPCの性能の進化に合わせてDJソフトの技術躍進が目立つようになります。いつの頃からかDJソフトにはBPMだけでなくKEYも自動で解析する機能が盛り込まれました。つまり曲をソフトに読み込ませるだけで、その曲のKEYをソフトが割り出してくれるのです。
この技術により、難しい音楽理論などを知らなくても誰にでも簡単にKEY mixができるようになりました、とさ。
DJソフトのKEY解析は信用してはならぬ
めでたしめでたし、といきたいところですが、現実はそう甘くはありません。
オールジャンル……例えばアニメソングやPops、RockなどでDJをされている方はご存知の通り、それらには転調がやたらと出てきます。よく曲の後半に半音上がるアレンジがありますが、あれがまさに転調です。
転調は簡単にいえば1曲の中に複数のKEYが存在するわけでが、DJソフトは1曲につき1つのKEYしか解析できません。したがって、転調が多様される楽曲においては、ソフトが曲のどの部分のKEYを解析したのかをいちいち確認しなければなりません(めんどくせー)。
しかしですよ。ソフトが曲のどこかしらの部分を正しく解析していればまだマシな方で、転調曲を読み込ませた場合、ソフトは高頻度で解析ミスをします。例えば、正解はDなのにDmといったり、全く見当違いのコードを割り出したり。
ただし、これにはソフト側にも言い分があるようです。
「そもそもDJソフトはクラブカルチャーでの使用を前提に設計がされているので、コード進行が複雑で転調がやたらと出てくるアニソンやPopsでの使用は想定しておりません」と。
クラブミュージックのようにコード進行がシンプルで転調もなく展開が単純なアレンジであれば、DJソフトのKEY解析機能でも十分事は足りるでしょう。
しかし常にドタバタな展開でコード進行は複雑怪奇、おまけに転調多用がデフォなアニソンやPopsなどに対しては、現状のDJソフトのKEY解析能力は完全に力不足なのです。
・DJソフトは転調曲に対して複数のKEYを解析してくれない
・DJソフトは複雑な展開の楽曲に対してKEYを間違えて解析する
以上、2点の痛すぎるウイークポイントにより、オールジャンルDJでKEY mixを極めるのであれば
KEY解析は手動で行うべし!
という結論に至らざるを得ません(あぁめんどくせー)。
KEY解析の助けとなるアプリやプラグイン
KEY解析を手動でやるぞ!という重い決断を下す前に、KEY解析に特化したアプリやプラグインがないかを探してみました。楽ができるのなら、それに越したことはありません。
結果はかなりの数のアプリがヒットしました。あまりにも多すぎて全てを確認するのは諦めましたが、傾向として以下のようにざっくりと分類できると思います。
❶ 曲をアップロードして解析するタイプ
❷ 作曲ソフトのプラグインとして機能するタイプ
❸ 曲を数秒間流しそれをマイクで拾って解析するタイプ
❶ 曲をアップロードして解析するタイプは、曲をまるまるアップロードするので、曲全体に対してKEY解析がおこなわれます。つまりこのタイプはDJソフトと技術的に同じと考えてよいでしょう。当然転調曲のような複数のKEYが存在する解析には不向きで、解析ミスも予想されます。したがって除外します。
❷の作曲ソフトのプラグインとして機能するタイプは、まず作曲ソフトを所持する必要があります。
機能的には解析したい箇所を細かく選択するタイプが主流のようで、これなら転調曲でも正確なKEYを割り出せそうですね。
ただ、KEYを解析するというだけのことにDAWソフトを立ち上げ、曲を読み込ませて、そこにアプリをアサイン……といった手間を考えると、私は除外かなぁ。
❸の曲を数秒間流しそれをマイクで拾って解析するタイプが個人的には一番使えそうに思いました。Auto-Key Mobileというアプリのリンクを貼っておきます。
転調曲の場合は解析したい箇所を絞って複数に分けて解析すれば、それぞれの正確なKEY情報が得られます。
解析するまでに数秒の時間を要することや、KEY解析の候補が2つ表示されるなど、個人的にやや不満もありますが、無料でお手軽という点が非常に好印象です。
全てを手動で解析することに不安を感じる方は、このようなアプリを使って転調曲や複雑なアレンジ楽曲のKEY解析に臨んでみるのもよいでしょう。
さあ、ここから先は「頼れるものは我が耳のみ」という方に是非読み進めていただければと思います。
完全手動のKEY解析、その方法はいかに……。
まずは主音当てクイズに挑戦!
みなさんは「主音」というものをご存知でしょうか。
例えばCスケールは「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」で構成されていますが、このCスケールの主音はドになります。
ではEスケールはどうでしょう。
Eは「ミ・ファ#・ソ#・ラ・シ・ド#・レ#・ミ」ですので、この場合の主音はミということになります。
これはマイナースケールも同様で、例えばAmスケールは「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」なので、この場合、ラが主音となるわけです。
主音とは、スケールの始りの音であり、最終的に帰ってくる音のことを指します。
この主音こそがすなわち、DJソフトでいうKEYにあたるわけです。
つまり、曲を聴きながらその曲の主音を探し当てることができれば、DJソフトに頼らずにKEY解析ができる!ということになります。
ではいったい、どのような方法で主音を見つければよいのでしょうか。
一度聴いただけでその曲のスケールがわかる絶対音感をお持ちの方は、簡単に主音を見つけられますね。しかし、残念ながら神様はそのような能力を一握りの人にしか与えてくれませんでした。
そこで、私のような凡人の方のために、誰にでもできる主音の見つけ方を紹介いたします。
①まずはKEYを解析する曲をご用意ください。例えばこれです。
②次に、曲に合わせて「ドレミファソラシド〜♪」と歌ってみてください。この場合、正確なドレミ…つまりCスケールのことではなく、今流れている曲にマッチする長音階としてのドレミです。
探しにくいときは逆に「ドシラソファミレド〜♪」と下がって歌っても構いません。色々試しているうちに、ぴったりとハマる長音階が見つかるはずです。
③「ドレミファソラシド〜♪」と、うまく曲に合わせて歌えたら、ピアノのような鍵盤楽器の前に移動して(バーチャルピアノでも構いません)、そのドレミのドにあたる音を鍵盤上で鳴らして確認します。その音がその曲の主音になります。
ちなみにこのアイカツ曲の主音、みなさんわかりましたか?
答えは「シ」です。コード表記ではBになります。
この主音を探しは慣れてくると瞬時に見つかるようになります。まずは数をこなしましょう。
ではこちらはどうでしょうか。
この曲の主音は「ミ」になります。コード表記はEです。
どんどんいきます。
これは簡単ですね。そうです、「ド」が主音です。コードはCになります。
もう1曲いってみましょう。
ちょっと難しいかもしれませんが、この曲の主音は「レ#」、D#です。
ここまでの主音当てクイズは、楽しい雰囲気の長音階(メジャースケール)ばかりを取り上げました。では悲しい雰囲気の短音階(マイナースケール)の場合はどうすればいいのでしょうか。
短音階は「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」ですから、これも先ほどと同様に曲に合わせて「ラシドレ〜♪」と歌いながら、その曲のラの音が実際の鍵盤で何の音になっているかを確認すればよいのです。
まずは前回も取り上げた、わかりやすい曲からいきましょう。
この曲の主音はソ#です。コードにするとG#mとなります。
マイナースケール、どんどんいきます。
この曲の主音はドになります。コード表記にするとCmです。
ではこれはどうでしょうか。
少し難しいかもしれませんが、主音はシ、コード表記にするとBmになります。
主音探しにはピアノやバーチャルのキーボードでもいいのですが、このような安価なおもちゃの鍵盤が非常に便利です。
事前にマジックで8Bなどの解析記号、もしくはCなどのコードを直接鍵盤に書き込んでおきます。そうすれば、主音を確認する際に瞬時にDJ用のKEYを割り出すことができます。
転調曲のKEYを自分の耳と鍵盤で解析
主音探しに慣れてきたところで、いよいよ本丸の転調曲の解析に挑戦してみましょう。まずはこの曲から。
この曲は冒頭からBメロまでの主音はレ#(D#)ですが、サビはファ(F)に転調します。
ではこちらはどうでしょうか。
これは冒頭の前サビ部分がファ(F)で、イントロとA、Bメロがレ(D)になります。その後のサビがファ(F)、そしてブリッジがレ(D)という転調アレンジになっているのがわかります。
もう1曲いってみましょう。
こちらは冒頭のイントロからA、Bメロまでがド(C)で、サビとブリッジがレ(D)というアレンジになっています。
転調曲の場合、構成する全てのKEYを片っ端から解析するのではなく、必要な部分だけを解析するとよいです。要はmixで使う箇所のKEYが把握できていればいいので、基本的にはイントロとブリッジのKEYを解析します。
上述した「なかよし!○!なかよし!」の場合、イントロのKEYがD#でブリッジはFですね。つまりイントロを使ってKEY mixをするのであれば必要なKEY情報はD#ですし、そのあとのブリッジ部分でもKEY mixをするとなると、必要なKEY情報が今度はFになります。
このように、使いたい箇所のKEYが異なる転調曲の場合は、事前にソフトのコメント欄などに「D# F」などと複数のKEYを手入力しておきます。
転調曲の中にはイントロとブリッジのKEYが全く同一の場合も多々あります。その場合は把握するKEYは1つで構いません。例えばこの曲です。
この曲はイントロからA、BメロまでがDで、サビで転調しFになりますが、ブリッジでは再び元のDに戻ります。立派に転調曲ですが、イントロで繋いでブリッジで次曲に混ぜる通常のmixスタイルであれば、必要なKEY情報はDだけあれば事足ります。
ただ、場合によってはサビのあとカットインで次曲に繋ぎたい、またはラスサビ部分を使って次曲に繋ぎたい……などと考えるDJもいるはずです。この場合、必要となるKEY情報はDではなくF になります。
このように、転調曲はmixの方向性によって必要となるKEY情報が変わってきます。したがって、必要に応じたKEY情報を取得することがとても重要になります。そして、取得したKEY情報は必ずメモをするなど、後から認できるようにしておきます。
みなさま、今回もお疲れ様でした。手動でKEY解析をする方法をあれこれ解説してきましたが、いかがだったでしょうか。
DJソフトは日々進化しています。いつかは手動解析などをする必要もないほどの高精度なKEY 解析機能が登場するとは思いますが、現状はこのやり方が最も正確です。
ただ、全ての楽曲の解析を手動で行うのは骨の折れる作業ですよね。時間も根気もない……という人も多いことでしょう。
であれば、「基本はソフトの解析を信じ、違和感を感じたところだけ手動で解析」といった具合に、必要に応じて使い分けをすればよいのです。大事なことは、「俺はいつでもKEY解析を手動でできる!」ということです。それはきっとKEY mix好きには強力な武器になるはずです。
さて次回はもう一回だけKEY mixを特集しようと思います(まだやるんかい)。
KEY mixの応用編で、裏技特集のような内容になるかと思います。お楽しみに!
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