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朝と夜−短編小説

ある保湿性。
−ウィンター・スキャナーウッド

ある田舎道に大きなリュックを背負った、ヒッピーみたいな格好の、二人の若者が立っていた。
すでに日は暮れており、東の空は真っ赤に燃えていた。周りには野原が広がり、何本かの木々が等間隔に連なっているだけで、人の気配はまったくなかった。

「このまま一台も車が来なかったらどうする、ロイド?」
小柄な方の青年が、木の幹に背をもたせかけながら愚痴った。
「来なかったら、待つまでだ。明日になったらまた、探せばいい。」
大きい切り株の上に座りながら、もう一人の青年が言った。バルザック並みに堂々とした体格だ。
「いやいや、僕は待てないよ。夜になるまでに乗せてくれる車を探さなきゃ。そもそも、今夜泊まる場所はどうする?」
「いいかテル、ヒッチハイクで国境を越えようと言ったのは君なんだからな、文句を言っても仕方ない、諦めるんだな。」
「あーあ、腹が減ったよ。何か食べるものでも買ってくりゃ良かった。それにしても、今夜は冷えるぞ、寒くなってきた。」
「焚き火でもしよう、テル。何か燃やすものはないかな。」
「君のバタイユを、、、」
「なんてことを!そんなことは許さないぞ!バタイユは英雄だ。それなら君のペトラルカをやればいいじゃないか。」
「覚悟(書く語)の違いで燃えにくいからな。ちょっと待てよ、向こうから小さい光の玉が近づいてくるぞ!おーい!」

二人の目の前に一台の大型バンが停まった。

「すみません、俺らこの先の国境を越えなきゃならないんで。乗せてってもらっても良いですか?ただのヒッピーでさぁ。」
「悪いがロイド、僕はバンには乗らないよ。君は先に行っていい。僕はここに残る。」
「どうして?」
「僕は次のランボールギーニに乗ると決まってるんでね。」
「冗談はよせよ。くるわけないさ。」
「いいから、君は先に行っててくれ。あとでまた会える。」
「分かったよ。じゃ、またな。」
「綺麗な星たちの瞬きだ、良い夜になりそうだな。」

こうして二人は別れをつげた。しばらくしてから、小柄な青年の前に、反対側から一台のスポーツカーが停まったことは言うまでもない。
あとで分かったことだが、二人がそれぞれ寄りかかっていた木々は、リンゴとオレンジだった。そしてロイドは東の方向、つまり朝を目指し、テルは西の空、つまり夜を目指して行ったのだった。
               by 宮島春








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