junaida展 夢が帰る場所
今日は、立川で開催されているjunaida展へ。
ずっと行きたくて行きたくて、なかなかタイミングが合わなかったのですが、やっと行けました。
junaidaさんを知ったきっかけは、大好きな北杜のヴィーガンレストラン、キッチンオハナさんに置いてあった、幾冊かの絵本。
見た瞬間に、わあ、何ですかこれ?と声に出してしまったほど、ひとめで心惹かれてしまった、美しい世界。
junaidaというお名前も、なんて魔法の呪文みたいな不思議なお名前なの… 何人なのかしら… と思っていたら、なんと「あいだじゅん」さんとおっしゃる日本の方。
姓名をひっくり返してくっつけるだけで、こんな幽玄の響きをもつなんて。
展覧会は、約350点の原画という、圧巻のボリューム。
体がジュナイダさんのファンタジーでたぽたぽになるまで、浸りきることができました。
入口にあった、ジュナイダさんのことば。
「真っ白な紙、鉛筆、絵の具、これさえあれば、僕はいつでも満たされた気分になります。なんなら紙は真っ白じゃなくても、たくさん絵の具がなくても、一本の鉛筆と、何かの切れっ端でも手元にあれば、もうご機嫌です。」
このことばに、わたしがジュナイダさんを好きになった理由が、ぜんぶ入っていました。
ただ描きたいと思ったもの、
ただ美しいと感じたものを、
ただただずっとずっと描いている。
その純粋で透明なこどものままの喜びが、そのまま指先から絵に滴り落ちているからこそ、ジュナイダさんの絵は人の心をまっすぐ捉えるのだと思います。
ほとんどこの数年間で描いたとは信じがたいほど膨大な作品群の、最初に展示された作品を目にした瞬間からもう、わたしの心の奥のこどもが、嬉しくて嬉しくてふるふる震え出した、junaidaさんの世界。
さほど大きくない画面に、虫眼鏡で見たほうが良いかも?と思わせるほどにすみずみまで描き込まれた、細やかなモチーフのどれもが、どれも愛らしく丁寧で美しくて。
ああそうだ、小さい頃はこんなふうに、無限に繋がって続く脈絡のないファンタジーのなかに暮らしていたな…と、涙が出てしまうほど心震えました。
ジュナイダさんの世界の美しさは、色、かたち、光、影。
つるりとしたまるさと、
つんとした感じが同居した
よどみのない
均整のとれた、鉛筆の線。
濁りのない美しい色彩。
それは、
どれほど彩度が低くなっても透明度が変わらなくて。
青も、赤も、緑も、
鮮やかながらもどこかヨーロッパ的なニュアンスをおびた、
透明な美しい色あい。
教会のフレスコ画すら連想させる、
均質な風合いの印影。
光と影の関係が放つ物語。
光によって影が生まれ、
影によって光が生まれる。
ただそれだけで、物質の世界は、その美しさを顕現させるのだ…と感じさせる、光と影の相関。
こまかなこなかなファンタジーのつまった、
たくさんのたくさんの反復するモチーフたち。
極大と極小を自由に行き来する、
無限かつ自在のスケール感。
どこまで広げても、
どこまで小さくしても、
どのサイズのどの領域にもいつも豊かな物語があって、
そのすべてがどこかで回廊のように繋がっている。
そして、ファンタジーは、どこか遠くでなく、
日常のすぐとなり、
すぐそばにある、見えない透明なドアでいつも隣り合わせであること…
junaidaさんの魅力の質をことばにするなら、そんな感じなのかな。
こどもの頭の中がそのまんま、みずみずしい息吹とあたたかな優しさとともに、紙の上に吹きつけられたようで。
それでいて、どこか天使を描いた宗教画も思わせるような、古典的ですらある洗練もあり。
実物に触れることができたこと、本当に幸福でした。
それと、見ていて気づいたのは、驚くことに、わたし自身の絵との共通点。
わたしがときどきふと落書きのように鉛筆で描く、乙女や少年や人魚と、ジュナイダさんのそれとが、とても似ていて。
シンプルでつんとまるい線の感じや、横顔が多く現れるフォルム、あどけない存在が醸す独特の佇まい。
描き込まない、輪郭だけの、流れるような、どこか星の王子さまを思わせる金髪。
それらを取り囲む、空想的な動植物や、宇宙の夢のようなモチーフ。
わたしはジュナイダさんのように細かくモチーフを書き込んだりはしませんが、不思議なほど近いものも感じて、ぜんぜん違うところで関係なく絵を描いていても、そういうことってあるのだな…と、不思議な気持ちになりました。
ジュナイダさんがエンデを好きらしいのも、とても頷けて、そうそう、という気持ちになりました。
わたしは作家としてのエンデも愛していますが、思想家としてのエンデにもとても共感を持っています。
時間も場所も超えて、生物種も超えて、見える見えないも超えて、あらゆるものが意志をもち、話し、心を通わせ、関係を結び、意味を与えあい、満たしあう、ファンタジーという世界。
エンデは、ファンタジーは非実在ではない、と書いていますが、ジュナイダさんの手から滴り落ちる世界も、同じ地下水脈から溢れている感じがしました。
人間の想像力の園は、どこかで底が繋がっていて、どこか日常の目では見えないすぐそばで、わたしたちの心の奥を繋ぐ異世界が、本当に存在しているのかもしれません。
そう、
ここは知っている世界、
わたしたちの大切な夢が帰ることのできる場所。
心の奥底にあるいちばん大切な場所を新しい光で照らされたような、幸福で、なんだかもはや神々しい展覧会でした。