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帰る場所がなくなっちゃったと泣いた夜

大人になったら、わんわんなくことなんてないと思ってた?
ぜんぜんそんなことないんですよね、今年も30の代の歳をまた一つ取って実感しています。感情の対処の仕方が上手くなっただけで、泣きたいことはいくらだって起こるし、自分で許可を出した夜は声を出して泣いちゃう。それで翌朝、目がぽってりして心配されたりして…。まだまだ上手くないですね。

「そっちでの生活はどう?」
この質問にも、上手く答えられずにいました。表面上は論理的に元の生活との違いを話すんだけども、他人が私の口で喋っている感じ。自分の言葉を絞り出しても、「まだ実験中」「というか良いか悪いかもちょっと判断つかない…」みたいな言葉が歯切れ悪く出てくるくらい。

そもそも、元の生活ってなんだったっけ? 私って休日とか時間ができた時に何をしてたんだっけ? 誰の元に帰っていたんだっけ? 私ってこういう時にどうゆう反応をする人だったっけ??

転職と移住とそれに伴う生活の仕様変更と最適化をずーっとやっていたから、見事にストレスを受けていたみたいです。久しぶりにリアルな金縛りにあったり。変化を厭わない性分だと思っていたのだけれど、いやぁ東京から山口に1000km移動してきたというのはやっぱり大きな変化。

ある夜「もう、ほんとに、帰る場所が分かんなくなっちゃった。実家は両親夫婦の家であって私の部屋はもうないし、私を快く迎えてくれる東京や京都の友人宅も沢山あるし、もちろん自分の新しい部屋もあるんだけど、そのどこも家であって帰る場所ではない感じ。移動が絶え間なくて、どこにも帰れない〜なんだこの感じ、悲しい〜」と友人に電話してたら、「なんだそれ。帰る場所を無くす選択を自分でしたんでしょ、真っ当な反応だよ。美味しいもの食べてよく寝て」って笑われて、そうか〜と、よく分からないけどホッとしてぐっすり寝た夜をよく覚えている。
そういえば私は春までは、気ままな女二人暮らしで、毎晩帰ればお喋りしながら夕飯を食べたりドラマを見たり、近所のお祭りに、モーニングに銭湯を満喫していたんだっけ。これまで成り行きばかりで流動的だった私の過ごした時間を思い出しては、あらゆるアイデンティティらしきものを、掻き集めてしがみつきかけていた。

でもたぶんそこにヒントはなかったし、ここでの、今の私の、習慣を、生活を、意志を持った選択を、時には新しく発明していかないといけない。ようやく、ここに移り住んで5ヶ月が経って、ようやく、変化に心が追いついてきたみたい。

綺麗な山ぎわ。淡く明るい萩焼のような夕焼けに、コントラストの効いた紺碧の山々が抜けるよう。こんな素敵で山口らしい風景を、ある人が「学生時代は、山に囲まれ幽閉されている気分で、ここではないどこかに行きたいと常に思っていた」というようなことを言っていた。一瞬それを私も感じたことがあって、私は「箱庭みたいな街」だなと。
でも私は幸運なことに、山々を越えた繋がりや影響や、作用の仕方というものを知っていて、沢山の繋がりの糸の端を掴んだままここに来ることができた。その糸の存在をちゃんと体感として分かっていれば、私にとって不自由ないここでの暮らしは、寧ろ場所も時間も味方になってくれる。空回りしがちな私が空回りしなくて済む機構が揃っている。そう思うことが増えた。

なにがきっかけかは分からないけれど、私はここに居ていいんだ、と思えることが増えた。行きつけの作業カフェや、行きつけの美容室ができたからかもしれない。休日に誘える友だちが増えたからかもしれない。いや、確実にクリアしなきゃいけない日々の仕事や、求められる活動にとにかく応えていたからかもしれない。久々に自分の限界寸前までの力を振り絞ったし、そうしていたら、ここにきて着実にできることが増えている気がする。
それで私の何が具体的に変わったのかと言えば、たぶん、少し、自分の意見を素直に言葉にすることができるようになってきたと思う。伝えるところまではまだままならないけれど。まるでリハビリのよう。
思えば、この歳にして私は、意見を言う練習がまったくできていない。まぁ意見を言っても無駄なのではと挫かれた経験があり、寛容な自分を良しとし、全く芽が摘まれてしまっていたまま練習もせず放置していた、と言うことに気付いた。自分のハンドルを自分で握らないとね。とりあえず教習所に行って10年ぶりに運転をものにするところからスタートです。

できないことができるようになりたい、その欲は強い。楽しい。その加速アップデートの先に私はどんな夢見ましょうか。そろそろ次の景色を描いていきたい。
あと、数年後私はどこにいてなにをしているんだろうってちょっと前の私はちょっと俯きながら首を傾げていたけれど、今はここって案外いいところみたいという確かな実感とともに、上を見ながらちょっと長居するかもなと首を傾げています。

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