やっぱり、体と心はつながっている――『癒す心、治る力』
20代のはじめ、朝目覚めると、突然ものが二重に見えるようになっていた。もともと、高熱が続いて数日寝込んでいて、ようやく熱が下がってきた頃だった。寝ている間にどこかに頭をぶつけたのかと思ったが、頭には痛みも何もない。
実はこれは、目の神経が麻痺していることから出ている症状(複視)だった(正常な場合、2つの目で別々に見えるものを、目の神経が1つに見えるよう調整している)。
麻痺は目だけにとどまらず、1週間も経たないうちに、全身の神経が麻痺していった。後日、ギランバレー症候群と診断された。退院するまで1カ月かかった。
そのとき、検査を担当してくれた女医さんにこんなことを言われた。
「この病気になる前、疲れがたまってたり、すごく気分が落ち込んだりすることはなかった?」
その頃の私は、自己肯定感が低く、自分なんてどうでもいいやというなかば投げやりな気持ちで、大学に通いつつもアルバイトをガンガン入れていた。「そうですね」と答えると、
「やっぱりね。そういうときって、体が病気に負けちゃうのよ」
病気に対する体の抵抗力は「免疫力」と呼ばれる。それは体だけではなく、心のありようも関係しているのではないか、とそのとき思ったことを覚えている。
自分の中の「治る力」を呼び覚ます
「自発的治癒とはなにか」というサブタイトルがつけられたこの本は、体には治る力があり、それは心との相互作用も含まれる、としている。もっといえば、自発的治癒力を作動させるカギは心にあることが多い、としている。
医師に「これ以上できることはない」「治らない」と告げられても、「絶対治る!」という強い信念をもって、現代医学に代わる治療法を探し出したり、自分の体に合いそうなことをどんどん取り入れ、奇跡のような快復をした人たちの経験談が、それを物語っている。
でも、それは奇跡ではないのかもしれない。この本を読んでいると、心には、体以上の力が秘められていると思わずにはいられない。ときにそれは恋をすることだったり、あるいは抑圧していた怒りの感情を解き放つことだったりする。
興味深かったのは、タバコを吸っている男性が、禁煙をするたびに潰瘍性大腸炎になっていたケース。確かにタバコは体に悪影響を与える。しかし彼にとっては、タバコを吸うことこそがストレス解消になっていたのだ。解消されないストレスが別の場所(腸)に出現した、とワイル博士は推測している。
いくらタバコが体によくなくても、心にとってはストレス解消に欠かせないものだった。だから、単にタバコをやめるのではなく、タバコに代わるストレス解消法が必要だということになる。
現代医学と代替療法のいいとこどり
体にいい脂肪や悪い脂肪、乳製品の問題点、断食の有効性など、この本で紹介している栄養学の情報は、私がこれまでに取材してきた栄養療法関連の医師の主張とほとんど一致している。日本語版の刊行は1995年となっているが、情報の古さをまったく感じさせない。
本のなかでは、ハーブ療養やホメオパシーといった代替医療のほかに、イメージ療法やピプノ(催眠)療法などについても触れられている。こうした代替療法に興味がある人にとっても、この本はバイブルとも呼べるものだ。
ただし、ワイル博士自身は、現代医学を真っ向から否定しているわけではない。例えば手術でがんを切除することなどには肯定的だ。
おそらく「現代医学」と「代替療法」とを別々のものとして扱っている今の医療のあり方に、問題があるのかもしれない。現代医学には現代医学の得意分野があり、代替療法には代替療法の得意分野があるのだ。
体の不調が教えてくれること
訳者あとがきに、こんなエピソードが紹介されている。
大学の医学部で教鞭をとっていたワイル博士は、スポーツなどでけがをした学生に対し、こんな言葉をかけるというのだ。
「おめでとう。きみは大切なことを学ぶ機会を与えられた。そのけがの治癒のプロセスをよく観察するんだ。なにが治癒を促進し、なにが阻害しているのか。それをできるだけ細かく観察したまえ」
治癒を促進するもの、阻害するものに、食事や生活習慣だけではなく、そのときの心のありようも関係しているとしたら――けがや病気は、そんな自分の内面に気づくきっかけになるのかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?