気胸ジェンヌ誕生秘話③ーーいよいよ手術!
(前回までのあらすじ)
健康診断のレントゲンで、ある日突然発覚した肺気胸。自覚症状がほとんどないまま、紹介状を手に訪れた病院で入院を勧められる。肺にチューブを入れて空気を抜くという3泊4日の入院治療でしぼんだ肺は元通りになり、無事退院! めでたし、めでたし……とはならなかった。
肺に感じていた違和感
退院から10日後。肺にチューブを入れていた(胸腔ドレナージ)部分の抜糸のために、再び病院を訪れる。
しかしすでにこのとき、イヤ~な予感がしていた。
今回の入退院で、気胸については自分なりにいろいろと調べていた。そのなかで必ずといっていいほど書かれているのが、再発の多さだ。特に胸腔ドレナージの場合、50%はその後再発するという情報もあった。
気胸の闘病ブログもいろいろと見てみたが、胸腔ドレナージをしても肺の膨らみが戻らず、そのまま手術になったという人もいて、最初から手術の可能性もあると思っていたのだ。だから胸腔ドレナージだけですんだのは、正直拍子抜けしたような気分だった。
しかし、それまで自覚していなかった違和感を、退院後1週間くらいで徐々に感じるようになる。
・胸に圧迫感がある
・空咳が出る
・肩甲骨や背中側が少し痛む
・前傾姿勢になると、肺のあたりがコポコポする
これらは気胸の典型的な症状だ。「もしかして再発!?」という恐怖におびえながら数日間を過ごし、いよいよ抜糸の日、診察の前にレントゲンを撮った。
「まな板の上の鯉」になるしかない
「うーん……再発してますね」
レントゲンを見た医師に言われ、「やっぱり」と思った。覚悟はできていたので「じゃあ、手術ですか?」と自分から聞いてしまった。こうなった以上、悪あがきしても時間のムダ。その日のうちに手術の説明や検査などを済ませ、仕事先にも連絡をとり、手術日を決める。
今回の手術は、脇の下3箇所を数センチ程度切開し、そこから器具を入れておこなう胸腔鏡手術。入院期間は5日間程度とのこと。
やれやれ、また入院か……と思いつつも、3年ほど前に子宮筋腫と卵巣嚢腫の手術で腹腔鏡手術を経験済みだったため、基本的にやることはあれと同じでしょ、と思っていた。甘かった。
全身麻酔、ナメてました…
結論からいうと、以前受けた腹腔鏡手術より、今回の胸腔鏡手術のほうが5倍キツかった。一番キツかったのは、術後の吐き気だ。
(以下、食事中の方はご注意ください)
腹腔鏡手術、胸腔鏡手術とも全身麻酔だったのだが、当日立ち会っていた家族によると、以前の腹腔鏡手術は1時間程度、今回の胸腔鏡手術は3時間半くらいかかったそうだ(その間、私は意識がないのでわからない)。
全身麻酔の副作用に、吐き気、嘔吐があるという説明は受けていた。腹腔鏡手術ではじめて全身麻酔を使ったときは、術後1度吐いたらスッキリした。今回も吐き気はあるだろうと予想はしていたのだが――。
意識が戻ってから常に吐き気があり、1時間に1回は吐いてしまったのだ。一晩に7、8回は吐いたと思う。しかも術後ということでベッドを起こしてもらえず、寝たままで……顔を横向きにしながらの不自由さ、そして肺の手術をしているのに腹筋を使わねばならないとは!
単純に考えて、手術時間が長ければ、それだけ使う麻酔の量も増える。たぶん私は体質的にも麻酔が合わなかったのだろう。術後、吐き気止めの薬も使ってくれたようだが、あまり利いた気がしない。
手術から一夜明け、普通食を出されたときは、病院のあまりのスパルタぶりに驚いた(もちろん味噌汁くらいしか飲めなかった)。ちゃぶ台返ししたいくらいだったが、当然そんな気力もなかった。
息をするのがつらい
術後は点滴で痛み止めも入れていたようだ。それでも、呼吸するたびに肺が痛む。手や足なら、痛みがある場所をかばって使わないようにできるかもしれないが、肺はそうはいかない。そのうち、肺を大きく動かさないように浅めに呼吸するというコツをつかんだ。
繰り返す吐き気と痛み。寝返りも打てないまま、ただ朝が来るのを待った。あれほど時間がたつのが遅いと思ったことはない。
手術の翌日、歩けるかをチェックして、ようやくいろいろな管から解放される。もちろん今回も肺にチューブが入っている(手術で肺に入った空気を抜くためらしい。このチューブは次の日抜いてもらった)。
昼頃、元の病室に戻る。
びっくりしたのは、驚くほど手術した側の腕が上がらないことだった。顔を洗う、歯を磨くといった動作も一苦労。一生このままなのでは!? と暗い気持ちになる(術後4カ月たった今は、少々違和感は残るものの、ほぼ以前と同じように動くようになってきている)。
もう1つつらかったのが、痰。これまた全身麻酔の影響で、術後は痰が増えるのだ。いや、吐き気に比べれば痰を出すくらいどうってことないのだが、なにせ肺を切っているもので、痰を出そうとするたびに激痛が走る。この痰には数日悩まされた。
よくなったり、悪くなったりを繰り返して
手術から3日後、予定通り退院。もう1日くらいいられるのかもしれないが、なんとか年内に娑婆に戻りたかったのだ。とはいえ、自宅に戻ってからも、起きているのがつらくなって横になることが多かった。
手術の傷跡の痛みだけでなく、メスを入れていない胸の前側の痛みにも悩まされた。肋骨の間を切っているので、肋間神経痛が出てくることがあるらしい(これも今はほとんど改善している)。退院してから2週間ほどは、痛み止めのロキソニンにお世話になった。
痛みだけでなく体調全般についていえることだが、病気というのは単純に右肩上がりによくなるものではないんだな、というのが今回一番勉強になったことだ。
もちろん、長いスパンで見れば、回復している。ただし、細かく見ればそうではない。
「今日は体調がいい。もう痛み止めいらないな」と思っても、次の日には痛みが強くなり、「えっ、悪くなった!?」と凹む。しかしその次の日にはまた少しよくなっていたりする。これの繰り返し。小さなジグザクを描きながらも、徐々に右肩上がりになっていくというイメージ。
そういう経験をしたことで、1、2日程度の変化では、あまり一喜一憂しないようになった。これは病気だけでなく、ほかのことにも通じるように思う。
よくなったり、悪くなったり。でも、長い目で見ればいい方向に向かっているから大丈夫。そう、自分にいいきかせている。
(補足)
このnoteは、私と同じく気胸手術を受ける人がいるかもしれないと思って書いた。かえって手術に恐怖心を持たれてしまったら申し訳ないと思いつつ、医師が監修している気胸の記事では出てこない情報を伝えたかったからだ。
腹腔鏡手術にせよ胸腔鏡手術にせよ、入院期間が短い、術後の回復が早いといったことはいわれているけれど、やはりメスを入れることは体にとって一大事。さまざまな薬を使うことの副作用もある。
デスクワークならすぐに仕事に復帰できる、といった情報もあるけれども個人差もある。私の場合、本調子に戻るまでに3カ月かかった。どうか自分を第一に、くれぐれも無理はしないでほしい。世界に一つだけの、あなたの大切な体なのだから。
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