小説|左の窓 #3
「不思議な請求書」
アパート契約から1週間後、引っ越し当日。
内田直哉は自分の車を運転して走らせていた。引っ越しは一人で行う。
実家の母親はアパート契約の日、突然「父親に会いに行ってくる」と置手紙を残し1週間自宅に帰ってきていない。なんでも、「父親が単身赴任先で事故にあったから、お見舞いに行ってくる」というのだ。
内田自身も父親のお見舞いに行きたかったので、母親にメールを送ると「父さんのことは母さんだけで大丈夫よ、お引越し頑張ってね!」と返信が帰ってきた。
もう20年も会っていない父親は無事であるか。父親の緊急事態であるが、父親の顔がはっきりと思い出せない。唯一の記憶は父親の自室。赤ん坊の時にベビーベッドに仰向けになる内田を覗いている父親がぼやけているがなんとなく覚えてる。あれから20年以上も経っているから今はもっと老け込んでいるはずだ。
「さて、鍵開けて荷物運ぶか」
涼しい朝方、内田が駐車場に車を止め引っ越し先の物件に荷物を運ぼうと、車から降りる。
まず初めに、物件の鍵を開けようと扉へと急ぐ。
「あ、一応ポスト確認しておくか…何にも入ってないだろうけど」
ポストは雨風をよけるために、アパートの裏に配置されている。青年は建物の裏側へ回り不動産屋から教えてもらった暗証番号をダイヤルで回す。
「うわっ!!何これ……!!」
ポストの中身は物件の修理の請求書の控えばかりが、50件程入っていた。それらが一気に雪崩て青年の足元は請求書で埋め尽くされてしまった。
「おいおい…なんなんだこれは…請求書がこんなに……これから住むっていうのにおかしいだろ……」
「しかも請求書の日付が2~3カ月前のものがあるじゃないか、前の入居者は郵便物の住所変更してないのか??」
青年は散らばった請求書の紙を一枚ずつ広い集めていく。ある一枚の請求書の封筒を手に取り、急に手が止まる。
「この請求書、日付が昨日じゃないか…!なんで…?」
「最近何か修理でもあったのか??」
急いで封筒の中身をその場で開けると、書類が3枚入っていた。青年は1枚目の書類を上から読み上げる。
「なに、破損物修理の請求書だと?」
「依頼内容は窓の修理……」
「修理依頼は4日前……」
「業者が修理したのは3日前……」
「依頼したのは不動産屋……」
「請求先は……」
「……内田直哉……!?」
「俺の名前……!!!……どうして!?」
内田はあまりの衝撃に声を上げてしまう。
内田が困惑していると近所の人らしき女性がこちらを不思議そうに見つめている。叫び驚いている場面をたまたま見てしまったのか、こちらの様子をうかがったいる。
内田は女性に気づき、慌てて自分の車が止まっている駐車場へ走って戻っていった。
「バタンッ」
強く車のドアを閉め運転席に座り、ため息をつく。
「…はあ……今の女の人にめっちゃみられた…」
「いやっ、それより窓の修理なんて……知らないぞ、そんな報告、不動産屋からもなかったのに」
「いくら俺が契約した入居者だからといっても、日付が引っ越し前だぜ??普通こういうの不動産屋が何とかしてくれるものじゃないのかな?」
「修理代は…」
2枚目の書類を確認すると、そこには「500,000円」という金額が記されていた。
「50万て………!!!」
「おいおい!!窓の修理で50万……高すぎやしないか?!!」
一度冷静に戻るために車の中で5分程休憩を取ったのち、結城不動産屋へ連絡することを決意した。
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