小説|左の窓 #9
「元は一つだった」
「じゃあ、他に誰が結城不動産屋を襲ったっていうんだ??」
「人体実験にされた子達だよ、1週間前に一緒に檻から脱獄してきたからね」
少し外の時間が経ったのか、部屋の中が薄暗くなってきた。
「脱獄って……まさか」
「そう結城不動産屋の地下に僕らはいたんだ20年以上もずっと………言ったでしょ?結城不動産屋は人体実験をしていたから」
「今日は、僕等が自由になった日」
「どういうことだ?」
内田は、恐る恐る尋ねる。すると、ユウキは眺めるように内田を上から下まで見ている。
「うんやっぱり……僕が黒髪で、肌の色が健康で肉付きよかったら、君と瓜二つだ……君は僕等の……」
ユウキはとんでもない事を告げた。
「君の心臓を僕に頂戴……」
「僕は君のクローン、君の心臓を喰らえば僕は君に成り代わって人間としての人生を歩める」
ユウキの目は歓喜のあまり、喜びを隠さなかった。また目は念願が叶ったような、獲物を捕らえたような鋭いものだった。
「は!?………そっ、そんな、言っている意味が分からないぞ!!」
クローンとは自分と同じ遺伝子を持つ者が存在すること。そんなことは内田にも理解できていた。しかし、目の前にいる《ユウキ》という人物がまさか自分のクローンだと言うのだ。
「君の心臓を食べれば、僕等は完全体になって人類の頂点、人間を超越する………《父さん》はそう言っていたんだ!!」
「内田直哉!!君は赤ん坊の時に研究員達の独断によって遺伝子を盗まれた!その遺伝子でできたのが僕等《ユウキ》だ!!!」
内田は後ずさりし、頭を抱える。
「わけわからない!わからない!!……なんでそう言い切れるんだ!!頭おかしいんじゃないかアンタ等は!!」
「それは君に知らされていないからだ!《僕等》の両親は研究員の一員で当時赤ん坊だった君が被験者にされたんだよ!!」
「君は《戦争》に利用された人間、そして僕等が生み出された!」
「じゃ……母さんがこの結城不動産屋を勧めたのは……
人体実験の続きをするため……………!!?」
20年以上、育ててもらった母親がまさか、息子を実験の材料にしていたとは。信じられない、という気持ちからユウキを疑う。
「はははは…………驚いたよ、よくもそこまで妄想で語れるな!」
「何をそんなに怖がっているの?ダメだよ、誤魔化そうとしても。嘘じゃないよ?」
「証拠がないじゃないか!!デタラメ言うな!!」
「証拠ね……」
そう言うと、ユウキの隣から歪みのような得体の知れない物体が表れ、そこからユウキに似た人間の青年が現れる。ユウキと似た顔、同じく白髪で色白の細身、来ている衣服も同じだった。
「ねえ、あの人間やっとヤッテきたよ」
「ありがとう」
内田がなんだソイツはと言いたそうにしていたのに、気づいたユウキは言った。
「仲間だよ、僕等は《ユウキ》なんだ」
もう一人の《ユウキ》は何やら女性の頭部……生首の髪を掴んで《ユウキ》に渡している。その手は赤い血の色で染まっていた。
「ほら、これ………証拠になるでしょ?」
内田に見せたその生首は自分の母親であった。
「…か、母さん……!?」
目の前でユウキと少女は笑っている。
「ねえ、君の額…汗の水でびっしょりだよ?……そうだよね、これから僕等に心臓を差し出すんだもんね??」
「ははははっ」
「なんで《左の窓》が割れたか君にはわかる??」
ユウキがこちらへ迫ってくる。いよいよその時かわ来たのだと感じられた。
ハハッと笑う2人に背を向けて、有り余る力を振り絞り、内田は玄関へ向かって走り出した。
死にもの狂いで走った最後の一歩はむなしく、目の前には青年の方のユウキが立ちはだかっていた。その瞬間《左胸》に激痛が走った。ユウキが内田の心臓を手にもっていた。
内田の《左胸》は大きな空洞が広がっていた。
しかし、その痛みは一瞬ですぐに暖かくなった。仰向けに倒れ、視界にはもう2人はいなかった。散り散りになっている《左の窓》の破片が自分の血の海に浸っていた。薄れゆく心臓の動悸だけが内田の耳に入っていった。
「ねえ《ユウキ》、窓の請求書、結局誰が?」
「《母さん》が証拠隠滅するために直哉に押し付けたんだよ」
「まったく、子供達の扱い酷い両親だよな」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?