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JW205 王子改名
【孝元天皇編】エピソード8 王子改名
第八代天皇、孝元天皇(こうげんてんのう)の御世。
紀元前209年、皇紀452年(孝元天皇6)9月6日。
先代こと、七代目、孝霊天皇(こうれいてんのう)の陵(みささぎ)が完成した。
そして、同じ9月のこと・・・。
孝元天皇こと、大日本根子彦国牽尊(おおやまとねこひこくにくる・のみこと)(以下、ニクル)のもとに、尾張建諸隅(おわり・の・たけもろすみ)(以下、ケモロー)がやって来たのであった。
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ケモロー「エピソード171以来だがや。」
ニクル「そのようなことを言いに来たのではあるまい?」
ケモロー「その通りだがや。今月創建された神社が有るでよ。その紹介のために来たんだがや。」
ニクル「今月創建された神社が有ると申すか?」
ケモロー「その名も、内原王子神社(うちはらおうじじんじゃ)だがや。」
ニクル「王子・・・。よもや、熊野(くまの)に関わる神社ではないか?」
ケモロー「その通りだで! エピソード119で紹介したように、熊野詣(くまのもうで)の人々に来てもらうため『王子』を名乗ったんだがや。」
ニクル「たしか・・・『熊野の御子神(みこがみ)』と称して、人々に来てもらおうとしておったのであったな?」
ケモロー「その通りだがや。」
ニクル「して、どの地に鎮座(ちんざ)したのじゃ?」
ケモロー「木国(き・のくに)だがや。二千年後の言い方をすれば、和歌山県日高町萩原(ひだかちょう・はぎわら)になるのう。」
ニクル「熊野からは、少しばかり離れておるな・・・。」
ケモロー「その通りだがや。ほんでも、この地も熊野詣の通り道になるんだで。」
ニクル「そ・・・そうなるのか・・・。」
ケモロー「ついでに言うと、高家王子(たいえおうじ)という別名も有るがや。」
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ニクル「高家王子? 内原は何処(どこ)に行った?」
ケモロー「これには深い事情が有るでよ。」
ニクル「詳(つまび)らかに申せ。」
ケモロー「元々、この神社は、高家荘(たいえ・のしょう)という地域の神社だったんだが。そういう理由(わけ)で、長らく『高家王子』と呼ばれとったんだがや。」
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ニクル「それが、深い事情で変わったのじゃな?」
ケモロー「そうだがや。西暦1948年、皇紀2608年(昭和23)に、宗教法人法(しゅうきょうほうじんほう)っちゅう法律が出来てしもうてよ。お上(かみ)に申請(しんせい)せんといかんようになったんだがや。」
ニクル「待て、待て・・・。高家王子と申し出れば良いだけのことではないか?」
ケモロー「それがよぉ。そんときの大阪管財局(おおさか・かんざいきょく)っちゅうところが、所属する公共団体の名前を付けろと、言うて来たんだがや。」
ニクル「に・・・二千年後の言の葉が多いのう・・・。して、そのときの団体とやらが、内原であったということか?」
ケモロー「そうだがや。内原村(うちはらむら)だったんだがや。」
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ニクル「待て、待て・・・。さきほど、日高町(ひだかちょう)と申しておったではないか・・・。」
ケモロー「実はよぉ。そんときは内原村で、西暦1954年、皇紀2614年(昭和29)に、周りの村と合併(がっぺい)してから、日高町になったんだわ。」
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ニクル「いろいろと移り変わっておるのじゃな・・・。」
ケモロー「変わり過ぎだがや。おかげで、解説が面倒くさくなったで。」
ニクル「では、高家荘が内原村となり、その後、日高町になったということじゃな?」
ケモロー「そうだで。」
ニクル「して、祭神は?」
ケモロー「天照大神(あまてらすおおみかみ)だがや。」
ニクル「ん? 天照大神と申せば、宮中(きゅうちゅう)で祀(まつ)っておる神様じゃぞ? なにゆえ、木国(き・のくに:現在の和歌山県)に鎮座しておるのじゃ?」
ケモロー「その辺はロマンだがや。」
ニクル「こ・・・これもロマンなのか・・・。」
ケモロー「でもよぉ。やっぱり最高神を祀っているだけあって、平安時代には、皇族の宿泊所や休憩所になっとるで。」
ニクル「そ・・・そうか・・・。我(われ)の子孫が、お世話になるのか・・・。」
ケモロー「では、これにて、内原王子神社の紹介は終わりだで。」
ニクル「解説、大儀であった。」
ケモロー「ところで、大王(おおきみ)・・・。海の向こうのことは、聞いとるかね?」
ニクル「海の向こう?」
ケモロー「秦(しん)っちゅう国が、中華を統一しとったでしょう?」
ニクル「それは存じておる。先年、始皇帝(しこうてい)が亡くなったことも聞き及んでおるぞ。」
ケモロー「それがよぉ。今年に入って、各地で反乱が起きとるみたいだで。」
ニクル「なっ! 反乱じゃと!?」
ケモロー「陳勝(ちん・しょう)と呉広(ご・こう)っちゅう民(おおみたから)が反乱を起こしてよぉ。それがきっかけで、いろんなところで反乱が起きとるみたいだがや。」
ニクル「民(おおみたから)が反乱・・・。秦は、どうなるのであろう・・・。」
ケモロー「滅(ほろ)びるんでないきゃ?」
ニクル「め・・・滅亡すると?」
ケモロー「民(おおみたから)が、そっぽを向いとるっちゅうことは、そういうことでないきゃ?」
ニクル「たしかに・・・。国の基(もとい)は、人じゃ・・・。他人事と思うてはならぬのう。」
ケモロー「その通り! 新たにヤマトに与(くみ)した者らも、大王の政(まつりごと)が酷(ひど)ければ、出雲(いずも)に戻るかもしれんでよ。気を付けにゃぁならんで!」
ニクル「分かっておる。先代に負けぬ政をおこなって参ろうぞ。」
ケモロー「その意気だがや!」
こうして、言うだけ言って、ケモローは帰っていったのであった。
つづく