JW84.1 日子八井は主人公
【阿蘇開拓編】エピソード1 日子八井は主人公
紀元前578年、皇紀83年(綏靖天皇4)4月、神八井耳命(かんやいみみ・のみこと)(以下、カンヤ)が死去した。
皇族や大臣の死を薨去(こうきょ)ともいう。
さてそれより、時は十年ほど前に遡(さかのぼ)る。
すなわち、紀元前592年、皇紀69年(神武天皇69)のある日、それは起こった。
日子八井命(ひこやい・のみこと)(以下、ヒコヤ)が宮中に呼び出されたのである。
神武天皇(じんむてんのう)こと狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)が存命の頃なので、宮は橿原宮(かしはら・のみや)ということになる。
ちなみに、橿原宮(かしはら・のみや)は、現在の橿原神宮(かしはらじんぐう)のことである。
ヒコヤ「父上・・・いやっ、大王(おおきみ)。何事にござりまするか?」
サノ「うむ。ヒコヤよ。汝(いまし)に命じたいことがある。」
ヒコヤ「ははっ。何なりと・・・。」
サノ「これより、筑紫(ちくし:今の九州)に向かってもらいたい。行き先は阿蘇(あそ)じゃ。」
ヒコヤ「な・・・何のため、阿蘇に向かわねばなりませぬか?」
サノ「筑紫を治めるためじゃ。」
ヒコヤ「筑紫を治める? されど、高千穂には三毛入野(みけいりの)の伯父上がおられまする。エピソード35.5と35.6で語られておるではありませぬか。我が向かう必要など無いのでは?」
サノ「うむ。ここからは『記紀』にも伝承にも書かれておらぬことじゃが、語っておこうぞ。」
ヒコヤ「ははっ。」
サノ「我らが、ヤマトの国は、高千穂(たかちほ)より中つ国に入って建国された。」
ヒコヤ「聞き及んでおりまする。」
サノ「高千穂から菟狭(うさ)、崗(おか)、安芸(あき)、吉備(きび)、難波(なにわ)、名草(なくさ)、熊野(くまの)を経由して、中つ国に入ったわけじゃが、気になるところはないか?」
ヒコヤ「気になる・・・。海岸沿いを進んでいることでしょうか?」
サノ「じゃが(そうだ)。我らの東征は、海の道をつなぐものだったのではないかと、作者は考えておる。出雲の協力を物語る伝承もあったが、ほとんどは海沿いで物語が展開しておるのじゃ。」
ヒコヤ「そ・・・それは、言い換えれば、海沿いではない地域は、まだ統合されていないということでしょうか?」
サノ「じゃが(そうだ)。考えてもみよ。汝(いまし)が、これから派遣される阿蘇は、我が高千穂とは、目と鼻の先。山を越えたところにある地じゃ。そこに赴かせるということは、近くでありながら、未だ統合されていない地域と見るのが妥当であろう。」
ヒコヤ「えっ? 一合戦(ひとがっせん)あると?」
サノ「そればかりは分からぬが、海の道が統合された今、次は山の道が統合されねばならぬ。新しき豊かな国を創るためには、どうしても必要なことなんやじ。特に阿蘇は、火山の影響を受け、耕作の厳しい土地柄じゃ。この地を開拓せよ。」
ヒコヤ「か・・・かしこまりもうした。」
こうして、ヒコヤは九州の阿蘇に派遣されることになったのであった。
父からの命を受け、重責に苛(さいな)まれるヒコヤの元に、弟のカンヤと神渟名川耳尊(かんぬなかわみみ・のみこと)(以下、ヌンちゃん)がやって来た。
ついでに、腹違いの兄、手研耳命(たぎしみみ・のみこと)(以下、タギシ)もやって来た。
タギシ「ヒコヤ、阿蘇のこと頼んだぞ。」
カンヤ「兄上。気を付けて行ってくんない。」
ヌンちゃん「まあ、厳密に言うと、阿蘇と高千穂の中間地点に位置する、奥阿蘇(おくあそ)と呼ばれる地域なんやけどな。」
ヒコヤ「タギシの兄上、カンヤ、ヌンちゃん・・・。もう会えなくなると思うと淋しうござる。」
ヌンちゃん「何言うてんねん。『ヒコヤにいやん』は、奥阿蘇に行ったおかげで、『タギシにいやん』との争いに巻き込まれずに済むんやから、ええやないか。」
カンヤ「ちょっ! ヌンちゃん! そいは、異国(とつくに)の言葉でフライングっちゅう・・・。」
タギシ「わしを複雑な思いにさせるな!」
ヌンちゃん「せ・・・せやけど、もう読者には分かってることなんやさかい・・・。」
タギシ「それでも、今は紀元前592年、皇紀69年という設定で、話を進めねばならぬ!」
カンヤ「タギシの兄上の言う通りやな。何も無かった感をまき散らすっちゃが。」
ヒコヤ「((´∀`*))ハハハ・・・。仲が良かった頃を垣間見ることができて嬉しうござる。では、そろそろ筑紫に向かいまする。」
ヌンちゃん「もう行くんかいな。」
ヒコヤ「作者いわく、紙面の都合との由(よし)。」
こうして、ヒコヤは筑紫に向かった。
当然、高千穂に立ち寄ったはずである。
そして、高千穂では、三毛入野の息子たちが出迎えてくれたはずである。
御子太郎(みこたろう)「長男って分かるよね。高千穂にようこそ!」
二郎(じろう)「次男やじ。阿蘇に行くち、聞いたけど・・・。」
三郎(さぶろう)「三男やじ。まこっちゃ(本当)?」
畝見(うねみ)「どっちにしろ、長旅、お疲れ様っちゃ。御飯は何がええ?」
照野(てるの)「焼肉にするか? 『戸村(とむら)のタレ』が有るじ!」
大戸(おおと)「それか『高千穂峡のつゆ』で鍋でも良かよ!」
霊社(れいしゃ)「それより聞いてくんない。わしなんて、音読みやぞ!」
浅良部(あさらべ)「ホントだ。霊社だけ音読みだ。」
ヒコヤ「い・・・従兄弟のヒコヤにござる。以後、お見知りおきを・・・。」
御子太郎(みこたろう)「さて、わしら八人兄弟なんやが、いちいち書いてたら『よだきいかい(面倒くさいから)』凝縮することにしたじ!」
ヒコヤ「ぎょ・・・凝縮?」
御子太郎(みこたろう)「凝縮して、タカチホズと表記するんや! こんな感じっちゃが!」
ヒコヤ「タ・・・タカチホズ?」
タカチホズ「どうやろ? これで紙面を割くこともなく、活躍できるはずやじ。」×8
ヒコヤ「活躍とは?」
タカチホズ「伝承には登場せんが、わしらも付いていってやるじ!」×8
ヒコヤ「おおっ! 心強い!」
こうして、三毛入野の息子たちが参加し、阿蘇に向かうことになったのであった。
つづく