山陰旅行記 ①玉造温泉
久しぶりに山陰へ行ってまいりました。前回行ったのがC85(2013年12月)で頒布した乗りバス本の取材だったので、かれこれ10年以上前になります。あの頃は当然温泉むすめというコンテンツ自体ありませんでしたし、本を完成させるために我武者羅に路線バス乗っていたので温泉入っている余裕もありませんでした。思えばあの本が一番取材大変だったなあ……。仕事終わってから夕方宮崎空港に飛んで延岡へ移動し宿泊、翌朝高千穂見て都内へとんぼ返りみたいな滅茶苦茶な旅行していました。皆生(かいけ)温泉へ行ったのもその時だったので、あまりゆっくりはしていません。
寝台列車を松江駅で降りてさっそく駅前の観光案内所へ。歌えるイラストレーターしぐれういの手がけた松江しんじ湖しじみちゃんです。堀川めぐりの船頭を務めることもあるそうで、名産品ストレートの名前が面白いですね(笑)。SNSに写真を上げるとステッカーをもらえるほか、駅構内の土産屋でグッズを販売しています。
水の都、松江。宍道湖から中海に注ぐ大橋川によって市街地は南北に分断されており、川沿いに柳並木が続く風光明媚な都市です。もうちょっと付近を散策していたかったですが、時間の都合により路線バスでそのまま玉造温泉へ。それにしてもこのバス路線、松江しんじ湖温泉駅から玉造温泉を結んでいるので、温泉むすめの2温泉地を行き来しているのですね。
玉造温泉到着後、まずは夜行列車の疲れを癒すために温泉へ。玉造温泉の一角にある不思議な形状のモダンな建物こそ、温泉むすめのイベントも開催された「ゆ~ゆ」です。5階に日帰り温泉があり、勾玉を模した内湯やサウナ、階段状になった不思議な形状の露天風呂と一通り揃っています。
玉造温泉は今から1300年前、奈良時代初期には存在していたといわれています。出雲風土記の中に「ひとたび濯げば形容端正しく、再び 浴すれば万の病ことごとに除こる」と記載されており、「日本最古の美肌の湯」「姫神の湯」として知られています。
泉質はアルカリ性の硫酸塩・塩化物泉。メタケイ酸の含有も基準を超えており、確かに肌に良い泉質の基準をクリアしています。溶存物質量が1.8g程度とアルカリ性泉にしてはわりと濃いめで(アルカリ性のお湯は成分を溶かし込みにくいので単純温泉になる傾向があります)、ゆ~ゆ内風呂の湯口には白い温泉析出物がびっしりとこびりついていました。
夜行列車で冷えた体が温泉でぽかぽかになりました。温泉街を散策します。玉湯川に沿って両側に温泉街が並ぶシンプルな構造の温泉街で、歓楽色はなく、落ち着いたカフェや歴史的建物、瑪瑙の土産屋や古事記にまつわる置物が点在しています。玉造温泉は当時瑪瑙の産地でもあり、勾玉を作っていた職人が多くいたことから「玉造温泉」の名前が定着したと言われています。1500年前の陸上火山であった花仙山は安山岩溶岩でできており、瑪瑙や碧玉がよく採取できたそうです。
瑪瑙採掘、そして硫酸塩泉。ここでピンと来ました。玉造温泉はいわゆる「グリーンタフ型」の温泉ではないでしょうか。
以前、「伊豆のほん」で伊豆の温泉地を研究した際に、土肥金山のある土肥温泉は「グリーンタフ型」の温泉だということを調べました。多彩な泉質のある塩原温泉内でも、グリーンタフが多く見られる大網地区は硫酸塩泉なのです。
西日本はグリーンタフの分布が少なかった気がしますが……。地図を見てみると島根や鳥取の沿岸部のみグリーンタフが分布しているようで、どうやらビンゴです。
グリーンタフとは緑色凝灰岩のことです。火山活動による噴出物が海底に蓄積する際に、圧力とマグマ残留熱で岩石が「変質」します。これにより、もともとは白っぽく珪酸の多い安山岩や流紋岩が緑色に変色してグリーンタフになるのです。そういえば瑪瑙の主成分も二酸化ケイ素ですね。
難しい話をしてもアレなのでざっくり話すと、海水成分の一部がこうしたグリーンタフに閉じ込められ、硬石膏(硫酸塩鉱物)となります。長い年月を経てグリーンタフが地表付近に出た際、地下水にその成分が染み込み、硫酸塩イオンを含む温泉として湧出するのです。
こちらにもっと詳しく説明したサイトを掲載しますので、興味ある方はぜひ覗いてみてください。
つまり何が言いたいかというと、土肥温泉で金山があること、玉造温泉で勾玉造りが盛んなことは単なる偶然ではなく、その温泉水の成分と関係が深くあるということです。温泉もその土地の名産品もすべて因果関係のある地球が生んだ我々への贈り物なのです。これを神へのお供え物として扱う文化が奈良時代から存在しており、現代科学でも玉造温泉は美肌の湯と証明されています。温泉を研究すると地球の神秘とそれを享受してきた先人たちの文化が密接に関わっていることがわかって大変興味深いのです。
美肌の湯である玉造温泉。美肌グッズも多く生産され、温泉内の各店舗で販売されています。その一つがこちら、玉造アートボックス。温泉むすめ「玉造彗」のグッズ(ルームキー)が販売されているということで訪れてみましたが、2階にmame cafeという飲食店があるとのことで、ここでついでに昼食を摂ることにしました。
おしゃれな小物類がたくさん並ぶ店内。奥のスペースにおしゃれなカフェがあり、軽食や各種ドリンクを楽しめます。注文したのは味噌漬け豆腐のハンバーグサンドと生姜の豆乳チャイ。マフィンやチーズケーキなどもあり、湯巡りの小休止に活用できそうです。
ヘルシーなハンバーグサンドをいただいたあとは日帰り入浴へ。
吹き抜けのガラス越しに日本庭園を眺められる「月照の湯」。1階と2階が男女日替わりとなっていて、2階は1階大浴場の上に浮いているような構造になっていました。小さい露天風呂の湯船があり、こちらも風情たっぷりです。
ちなみに、こちらの宿の売店にこんなコーナーがありました。特に温泉むすめとコラボしている宿ではないのですが、コスメグッズと温泉むすめがコラボしていて、なんだか嬉しい気分になりました。
高校時代に古事記の授業があり、日本神話は勉強した記憶があったので、玉造温泉の町中を歩いてなんだか日本神話の聖地巡礼をしている気分でした。
数寄屋造りの大型高級旅館が多く並ぶ格式高い温泉街。日本神話のファンにはたまらない場所ですし、近年では温泉むすめ「玉造彗」が「松江しんじ湖しじみ」と共に松江観光大使に任命されました。現代風のおしゃれなカフェも点在しているので、歴史と文化を味わいに訪れてみてはいかがでしょうか。
帰りは玉湯川沿いを30分ほど歩いて玉造温泉駅まで向かいました。このあたりは桜の名所らしく、春になると爛漫な景観の中を散歩できるそうです。玉造温泉入口バス停からバスに乗ることもできますし、駅前にタクシーが常駐していますので、アクセスはかなり楽だと言えます。
こちらから特急スーパーまつかぜに乗車し、倉吉を目指しました。