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海辺のカフカ【エッセイ】六〇〇字
嬉しいことがあった。中学二年生の次女が図書館で私が傾倒する村上春樹の「海辺のカフカ」を読んでいるらしい。
娘は学校帰り近くの図書館で勉強をしている。その合間に読むのだという。私の蔵書にある文庫版を読めばいいのに。気に入ってくれて他の村上春樹作品にもふれて欲しい。できたら長編は全て読んで感性を磨いて欲しい。
「海辺のカフカ」は主人公の田村カフカ少年と準主人公のナカタ老人の物語が交錯するも最後の最後まで実際にふたりは交わらずニアミスで終わる作品である。少々のネタバレをご容赦で、ナカタさんは猫と話をすることができる。
私は「海辺のカフカ」を三回読んだ(うち一回はAudibleで聴いた。木村佳乃さんの朗読はすばらしいのでおすすめ)が、カフカに引っ張られて娘たちに「俺は猫と喋れる」と吹聴していた。
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次女は私が猫と喋れると半信半疑ながらも信じていたらしい。かわいいけれど、少しだけかわいそうなことをした。
「大塚さん(*)、かわいいな」
と笑顔で語る娘が愛しい。もっと娘と村上春樹作品の話をしたい。
(*)大塚さんはナカタさんと会話する猫の名前。ナカタさんが成り行きで勝手に名付けた。野良猫たちはたいてい名を持たぬがナカタさんは猫の名が無ければ気が済まずに勝手につけてしまうのだ。しかも律儀に『大塚さんとお呼びしてよろしいでしょうか?』と許可をとる。微笑ましく好きな場面だ。未読で気になる方は面白いので本編をぜひお読みください。