【エッセイ】ラブアンドピース(1100)
職場の昼休み。
私の前職は急に廃業した。だから前職が同じだった人が同業他社である現職に同じ人の斡旋で紹介してもらって数人いる。彼らとたいてい昼食を一緒に摂っている。
前職でほとんど喋ったことがなかった女性とそのよしみでよく話すようになった。
転職すると誰もが多かれ少なかれ味わうであろう不満。
今日の彼女はいつにも増して饒舌だった。もうひとりの同僚と私に向かって現職の人間関係の愚痴をぶちまけた。私たちはほとんど黙って聴いていた。
奇しくも私は今朝の通勤中にオーディブルにて「ノルウェイの森」を聴いていた。
主人公・ワタナベトオルとヒロイン・直子が最初で最後のSEXをする前に直子が思い出したくない過去の記憶をある人物やある物事を避けて無理をして喋り続けるというシーンだった。1000万部以上も売れてるからネタバレいいだろう。
彼はこの作品をボールペンでイタリア旅行中に1ヶ月かけて少しずつ書き溜め、第一稿はボールペンで早朝から深夜にかけて休みなく17時間続けて書き切ったと言われている(wiki)。えぐい。勝てない。否。勝とうとするんじゃない。
このシーンは私が知りうる全ての文学作品の中で最も虚しく最も悲しくそれでいて最も美しい描写だ。
ここを読んで私は決定的に村上春樹に惹かれて行った。
同僚の女性が直子と重なったのだ。もちろん寝たいって意味じゃなくて、延々と虚しく喋り続ける様が、である。
なぜ人は不満を抱くのだろうか?
大別してふたつだと思う。
①期待するから。
私は「裏切られないために誰かに期待するなんてことはしない」ってスタンスが大嫌いである。
それは真理なのかもしれない。しかし、必ず儲かるからって詐欺まがいの行為では絶対に稼がないのと同じくらいの理由で、期待して思い通りにしてくれなくて不満を抱くくらいならはなから期待しないっていうスタンスは取らない。バカみたいだ。
村上春樹の小説の主人公はそんなスタンスの空虚な人間なので全員大嫌いだ。なんの魅力も感じない。その代わり村上春樹作品の脇役が非常に魅力的なのだ。だから読むのだ。
私は思う。村上春樹のマジックはその主人公の極端な平凡さを下地に素晴らしく魅力的な脇役の個性を際立たせて光輝かせているのだと。もちろん。異論は大いに認める。そして聞かせて欲しい。
②嫌いだから
この解決法は簡単である。
2000年くらい前にキリストが勧めた。
「敵を愛せ」
私はもうひとりの同僚と愚痴をぶちまけた女性について話していた時にふと閃いたのだ。
解決法はただひとつ!全肯定。
ラブアンドピース
殺したいくらい憎いあいつらも。炎上商法の有名人も。みんな好きになっちゃえばいいんじゃない?
なんて簡単な・・・、ことか??