【小説】赤い家(九)
その日の晩、長らく現れなかった赤い家の夢を見た。しかしいつもと様子が違った。遠くからあの相模一星が人を食ったような表情でこっちを見ていた。
ネットはすべて監視されているとの流星の忠告があったため、相模一星のことを検索しようと思って止めた。
彼は超有名人だったからある程度のことは知っていた。
彼の手がけたITスタートアップの数は尋常ではなかった。スピード感が凄い。もちろん全てがうまくいったわけじゃないが、損切りのスピードが早かった。ある程度のメディア露出はしていたが正体は誰にもわからなかった。どこに住んでいるかもわからない。T大学に籍があるのは確実なようだが、休学中らしく最近校内で彼を見かけた者はいなかった。
向こうがこっちのことを隅から隅まで知っているのにこっちは何も知らないと言うのはとてつもなく気味が悪い。
流星に話を聞く前後で私の人生は大きく変わってしまった。常に誰かに監視されていると思って生きるのはとても辛い。
幼い時にクリスチャンならよくあることだが一時期神に監視されていると思って生きていた。イエスの救いを受け入れるまでそれは続いた。その時のことを思い出していた。
元々、友人関係は希薄だったがますます希薄になった。自然とつるんでいた同級生もいたが少しずつ距離をとって行った。
流星と私が付き合っているとの噂は瞬く間にキャンパス内に広がった。流星も学内では有名人だったからだ。
何人かの大学デビューしたと思われる歪なメイクのギャルがショックで学校を休んだり、私に嫌がらせを仕掛けようとした。もちろん相手にしなかった。連中はなぜK大学にいるのだろうというくらいに頭が悪かったのでかわすのは容易かった。
そんなことより相模一星である。やつの呪縛を解くためには少年漫画の主人公よろしく元凶のラスボスたるやつを倒さなければならない。
現実世界でそんなことが順次よくできるのだろうか。
そうやって悶々と暮らした一週間。ついに私の前にひとりの刺客が現れた。