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ドイツにおける幼児教育者の教育方法


PiA-Ausbildungの授業科目に「EBg」というのがある。

これは、Erziehung und Betreuung gestaltenの頭文字をとった略称である。

Erziehungは”教育”、undは”and”、Betreuungは”世話”、gestaltenは"形成する"という意味である。

なので、EBgは「教育と世話の形成」であり、簡単に言えば、幼児教育の方法論を学ぶ授業である。


教科書におけるこの分野の該当箇所の例には、


・森の幼稚園の説明


・教育の目的


・先生の教育スタイル


などが挙げられる。


この授業を通じて、「教育とは何ぞや?」ということを学べるし、「先生としての在り方」や「多様な教育方法」を知ることが出来るので、このEBgという科目が結構好きである。

自分としては、PiA-Ausbildungが始まる前に、自分の教育観を約6万字使ってまとめておいたけど、毎回の授業で新たな視点を学べているのが、とても嬉しい。


これまでに3回のBFgの授業があった。

1回目(9月13日)は「教育的基本スタンス」と題して、「自分の教育観がどのようにして形成されたのか?」をいくつかの質問を通じて解き明かし、その結果を他の人達と互いに話し合った。

2回目(9月20日)はその続きで、教科書に記載してある一般的な教育スタンスについて勉強した。これはつまり、ドイツという国が、ドイツ全土の幼児教育に関わる人達に求めている教育スタンスであることを意味している。

個人的には、このドイツが求めている教育的基本スタンスを知ることが出来て嬉しい思いである。ドイツの森の幼稚園の先生になる為に、ドイツでAusbildungをしているのだから、この教育的基本スタンスを自分の体に染み込ませたい。

3回目(9月27日)は、2回目で少し学んだ「Erziehung」についての補足の後に、「Betreuung」と「Bildung」について勉強した。

この授業内容は自分にとって理解はしやすかった。なぜなら、事前にErziehungとBildungの違いについて予習していたからである。


これまでにEBgという授業を3回受けて、個人的に特に面白かった部分は、「教育についての定義」についてである。

3回目の授業で、担当の先生がこの表を示した☟


これは、幼児教育の仕事がどういう領域で成り立っているかを示した図である。

BildungとErziehungは前述した記事で示したように、

・Bildung:自己研鑽

・Erziehung:躾

を意味する(ここでいうBildungの自己研鑽とは、先生の自己研鑽ではなく、”子ども達”の自己研鑽を意味する)。

そして、Betreuungとは上述したように「世話」を意味する。この「世話」とは、子ども達に対して、マズローの5段階欲求でいうところの、1段目から4段目を満たしてあげる行為である。


そして、このBetreuungというのは、3つの行為、つまり「Pflege(世話)」、「Schutz(保護)」、「Fürsorge(ケア)」から成り立っているのである。

1番目の「Pflege(世話)」とは、「適切な服装、健康的な食事、十分な休憩(睡眠)、衛生の保持」といった”生理的欲求”の解決を目指す。

2番目の「Schutz(保護)」とは、「危険を遠ざけて、身体的無傷を達成する」という”安全の欲求”の解決を目指す。

3番目の「Fürsorge(ケア)」とは、「愛情を与えたり、興味関心を示したりすることで、子ども達が身体的かつ精神的に成長できる環境を整える」という”所属と愛の欲求”と”承認の欲求”の解決を目指す。

このBetreuungで4番目の”承認欲求”までが満たせてこそ、子ども達は5番目の”自己実現の欲求”に取り掛かることが出来るのである。

その自己実現の欲求の過程において、先生が「Erziehung(躾)」をして、子ども達に社会的態度を身につけさせたり、子ども達が「Bildung(自己研鑽)」できる信頼関係を構築するのである。


上記のような教育論理なので、下の図を見て頂くと分かるように、

Betreuung(世話)が基盤を成していて、その上にErziehung(躾)とBildung(自己研鑽)が乗っかっている。


これはつまり、先生としての仕事の基盤はBetreuung(世話)であること意味している。


個人的には確かにそうだなと、実習の経験から感じる。

子ども達からの「お弁当のフタを開けて」、「靴ひもを結んで」という些細な要求を解決したり、「一緒に遊ぼう!」と誘われて一緒に遊んだり、「見て!」に対応して子ども達の自尊心を認めたりする過程で、子ども達の1段階目から4段階目までの欲求を、自分は満たすことが出来ていた。

そのような色んな世話をしてあげてた子どもと、そうじゃない子どもの反応を比べると、前者の子どもの方が明らかに自分に対してポジティブな感情を抱いてくれている。

自分に対してポジティブな感情を子ども達が抱いてくれているということは、子ども達が自分の言葉を素直に受け入れてくれたり、自分の真似をしてくれたりする”土壌”が作られているということである。

そうなれば、自分が子ども達にErziehung(躾)したとしても、子どもはしっかりと理解してくれるし、子ども達のBildung(自己研鑽)の手本として自分が機能することが出来る。

だからこそ、幼児教育の先生として大前提の仕事は、子ども達との関係性を構築するBetreuung(世話)であると言える。その前提条件を成し得た後に、ようやく、子ども達に対してErziehung(躾)したり、Bildung(自己研鑽)のサポートしたりすることが可能となるのである。


で、この「子ども達との関係性の構築」において、1回目(9月13日)の授業で習った「教育的基本スタンス(pädagogische Grundhaltung)」が重要となってくるのである。

この教育的基本スタンスとは、Carl Rogers(1902~1987)という人の考えが元になっている☟

カール・ロジャーズ(Carl Ransom Rogers, 1902年1月8日 - 1987年2月4日)は、アメリカ合衆国臨床心理学者来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始した。カウンセリングの研究手法として現在では当然の物となっている面接内容の記録・逐語化や、心理相談の対象者を患者(patient)ではなくクライエント(来談者:client)と称したのも彼が最初である。1982年、アメリカ心理学会によるアンケート調査「もっとも影響力のある10人の心理療法家」では第一位に選ばれた[1]学生時代に1度、その後も2度来日している。


彼は、「どんな人間も自己実現したり、問題解決したり、ポジティブに成長していく能力を有している」と考え、その能力を発揮する為には、「その人が、その人らしくいられる”ポジティブ”な人間関係が大切」だと主張した。

その人間関係を作るために彼が編み出した方法が「教育的基本スタンス」である。

彼はそのスタンスの核となる要素を、

・Kongruenz bw. Echtheit bzw.Authentizität(一致、あるいは、真正、あるいは、正真正銘)

・Empathie bzw. einfühlendes Verstehen(共感、あるいは、相手の気持ちに寄り添った理解)

・bedingungslose positive Zuwendung bzw. Wertschätzung(無条件のポジティブな愛情、あるいは、尊重)


と定義した。

そんなCarl Rogersの影響を受けて、Reinnard Tausch(1921~2013)

ラインハルト・タウシュ( 1921 年11 月 6 日 ブラウンシュヴァイク生まれ、† 2013 年8 月 8 日ヴュルツブルク生まれ) は、20 世紀後半で最も重要なドイツの心理学者の 1 人です。ハンブルク大学の心理学の教授として彼は妻のアンヌマリー・タウシュとともにドイツ語圏諸国で会話心理療法を研究し、普及させました。…著書「教育心理学」は当時広く普及し、学校教育学と教師養成に大きな影響を与えました。多くの専門的な議論の基礎として使用されたため、学術界を超えて広く知られるようになりました。その功績により、タウシュはフーゴー・ミュンスターベルク勲章と第一級 連邦功労十字章を授与された。

Anne-Marie Tausch(1925~1983)夫妻が、ポジティブな感情を生み出す関係の構築に必要な3つの基本的スタンスを定義した。

①Wertschätzung:尊重(=教育される者に対して、暖かい言動・尊重・気遣いといったポジティブで思いやりのある行動をすること)


<具体例>
・他人を尊重する
・他人を認める、他人を歓迎する
・他人に対して親しくする、他人を気に掛ける、他人を愛情持って接する
・他人を鼓舞する、他人を信頼する
・他人の味方をする
・他人を援助する、他人を慰める、他人を元気づける

②Verstehen:理解(=教育される者の内心世界、感じ取ったこと、主観的世界の想像的考えに寄り添うこと)


<具体例>
・相手の状況を評価したり、判断したりすることなく、寄り添いながら傾聴する
・相手に対して真剣かつ共感的な関心を寄せる

③Echtheit:真正(=教育を行う者の思考と言動が一致しており、その人が嘘偽りのない状態で、教育される者に対して向き合うこと)


<具体例>
・考えていることや感じたことを言う
・本当の自分を出す
・役割に縛られずに振舞う
・自然体の自分でいる
・自分の思考や感情の変化を熟知している
・自分自身に対して正直である
・他人に対してオープンである


この3つの教育的基本スタンスを、幼児教育に携わる人が行うべき指針としてドイツでは掲げられている。


ドイツにおける幼児教育者の教育方法をまとめると、

①「Wertschätzung:尊重」、「Verstehen:理解」、「Echtheit:真正」の態度で子ども達と接し、「その子が、その子らしくいられる”ポジティブ”な人間関係」を構築

②その過程において、子ども達の「Betreuung:世話」を行い、欲求段階の4番目までを実現

③「Erziehung:躾」をしたり、「Bildung:自己研鑽」の手本となったりすることで、子ども達が”自己実現の欲求”に取り組む過程をサポート


という風になる。


自分としては、「Q3 森のようちえんで何をめざしていますか?」という質問に対して、

「その子がその子らしくいること」


と答えているので、Carl Rogersの「その人が、その人らしくいられる”ポジティブ”な人間関係が大切」という主張に強く共感した。

そして、個人的には、その関係を作るために必要な「Wertschätzung:尊重」、「Verstehen:理解」、「Echtheit:真正」というのは、結構出来ていると思っている。

子どもからの「見て!」には絶対に応えるようにしているし、子どもと接する時は機嫌良いし、相手の感情を理解していることを伝えた後に自分の考えを言っているし、オウム返しを多用している。

「Echtheit:真正」の部分は、「他人に対して嘘をついてもいいけど、自分自身に対しては嘘をつくな」という信条で生きているので、問題はない…笑


今の実習においては、実習5日目にして両隣を埋めることが出来たし、自分がやり始めた遊び(泥団子作りSpieß作り)を子ども達が真似することがある。

これからたくさんの時間を共に過ごすことが出来れば、子ども達とは良い関係を築けると確信している。

コチラとしては、

ゴール(「Betreuung:世話」から「Erziehung:躾」や「Bldung:自己研鑽」に行くとう流れ)が分かっているし、

それに辿り着く過程(「Wertschätzung:尊重」、「Verstehen:理解」、「Echtheit:真正」の態度で子ども達と接する)は何度もやってきたことなので、

逆に失敗するイメージが湧かない状態である…笑


個人的には、これがPiA-Ausbildungの良い所だと思う。

つまり、週3日で行われる学校の授業で学んだことを、週2日の実習の日に試すことが出来るのである。

PiA-Ausbildungとは別に、「Schulische Ausbildung」という形態もあるのだが、それは、3年間の内の最初の2年間は学校に通い、最後の1年間は実習するという流れなのである。

どっちが良いかは人それぞれだと思うけど、自分としてはPiA-Ausbildungを選んで良かったなと思っている。



<ちょっとしたお願い>


自分は日本の教職課程で勉強していませんし、保育士の試験を受けたことがありません。そのため、日本で先生になる際に、どのようなことが教えられているのか興味があります。

今回の記事で書いた内容を、日本とドイツで比較出来たら面白いなと思っております。

なので、以下の質問について、ご存じの方がいらっしゃいましたら、是非ともコメント欄に書いて頂けましたら幸いです。


①教科書にCarl RogersやReinnard Tauschは出てくるのか?

②日本における「Betreuung:世話」、「Erziehung:躾」、「Bldung:自己研鑽」の説明はどうなっているのか?

③ドイツだと「Wertschätzung:尊重」、「Verstehen:理解」、「Echtheit:真正」といった「教育的基本スタンス(pädagogische Grundhaltung)」が大事にされているが、日本の場合はどうなのか?


どうぞよろしくお願い致します!

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