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テルミンを弾こう(1)

テルミンを弾きたいとか、なんとなくテルミンが面白そうだなあと思った人たちのために、テルミンのことを緩く書いていきます。そんなに頻繁には書けません。今回はテルミンを手に入れるところまで。

まずね、テルミンの何が面白いのかなあ、なんですよ。楽器に手を触れずに演奏するっていうのは、確かにビジュアルとしては面白いですよね。ちょっと魔法っぽいですが、原理は簡単な電磁気学に基づいています。ただ、そういう見た目の不思議さばかり強調してるとすぐに飽きちゃうと思うんですよ。やってるうちに、手を触れないことは当たり前になってしまいますから。入り口としては悪くありませんが、それだけでは続かないでしょう。

だから、テルミンで何をしたいかなんですよね。もちろん、当面の希望でいいんです。とりあえず「星に願いを」を弾ければいいというのでもかまわないし、ジミー・ペイジみたいに弾きたいのでもかまわないし、セミクラシックを弾きたいのでもジャズをやりたいのでも自由即興をやりたいのでもEDMをやりたいのでもなんでもいいんですよ。テルミンなんて所詮は楽器にすぎないので、工夫しだいでどんな音楽にも使えるはずです。どんな演奏でもできるというわけではありませんが(例えば、和音は出ませんから)、音楽のジャンルはなんでもいい。

ただ、当面やりたい音楽もないとなると、そもそもなんで楽器をやるのかという話になっちゃうので、とりあえず何か考えましょう。youtubeでテルミン演奏家の映像をいろいろ観るのがいいと思います。今は優れた演奏家の映像がたくさんあります。とはいえ、優れた演奏家の演奏なら誰が観ても面白いかというと、相性というものもあるわけで、いろいろ観てぴんとくるものを見つけるのがいいでしょう。アバンギャルドなのが気に入るかもしれないし、「星に願いを」が気に入るかもしれません。おいおいいろんな映像を紹介していくつもりです。

クララ・ロックモアは歴史上いちばん有名な演奏家です。クララの演奏映像もネットで観られるので、まだご覧になってないかたは一度観ることをお勧めしますよ。でもね、別にクララの演奏に感心しなくてもいいし、好きにならなくてもいいんです。クララはすごく癖の強い演奏をしますから、好き嫌いは分かれて当然です。もちろんめちゃくちゃにうまいんですが、上手下手と好き嫌いとは別なんですよ。自分の感性に合う演奏家が見つけられればそれでいいと思います。クララの演奏が嫌いでジミー・ペイジがいいなら、それでいいのです。正直な話、僕自身はクララの演奏が好きではありません。あの強烈なビブラートは音楽的ではないと思います。実際、彼女のビブラートに対しては強い批判もあります。でも、とりあえずテルミンに興味があるなら一度観ておく価値はあります。つまらないと思ったら、二度と観なくていいですが。

1940年代から50年代にかけて、テルミンはサスペンス映画やSF映画によく使われました。その演奏を一手に引き受けていたのがサミュエル・ホフマンです。というのも、ハリウッド近辺でテルミン奏者を名乗っていたのはホフマンだけだったからです。まあ、現代の基準からすればホフマンはうまい演奏家ではありません。それでも歴史的には重要な奏者なので、機会があれば演奏映像を探してみてください。

現代の演奏家なら、リディア・カヴィナ(Lydia Kavina)、パメリア・スティックニー(Pamelia Stickney)、カロリーナ・アイク(Carolina Eyck)あたりでしょうか。ホフマンの時代と違い、みんな強烈にうまい奏者です。僕の独断では今世界でいちばんうまいのはパメリアでしょう。ただ、やってる音楽がわりとアングラ寄りなので、一般受けはしないかもですね。カロリーナもびっくりするほどうまい奏者です。彼女が普通の曲を演奏している映像はうますぎてまったく面白くないのですが、声とテルミンによるオリジナル曲のパフォーマンスは素晴らしいので彼女のyoutubeチャンネルでぜひ観てください。精力的に映像をアップしていて、画質や音質にも気を配った映像が多く、どれも見ごたえがあります。リディアは20年前なら世界最高の奏者でしたが、パメリアやカロリーナみたいなモダン・テルミンの奏者が出てきている今聴くと古いかなあ。

日本では竹内正実、やの雪のおふたりが有名です。やのさんは最近ほとんどお見かけしませんね。竹内さんはたくさんのテルミン奏者を育てました。その功績はとても大きいと思います。僕も竹内さんに習ったのですよ。竹内さんに習ってからご自分で教室を開いているかたも多いので、「竹内流」は日本での一大流派を成しています。竹内さんご自身の師匠はリディアで、リディアはレフ・テルミン自身から手ほどきを受けました。竹内さんご自身はひと言で言えば端正な演奏をされるかたです。もうだいぶ以前に出されたCD「訪れざれし未来」はテルミン用に書かれたオリジナル曲を収録したとてもよい作品です。

日本はテルミン人口こそ世界的に見て多いものの、名の知れた優れたプレイヤーといえば外国のプレイヤーになってしまいます。不思議といえば不思議ですが、ある意味で納得といえば納得です。ぜひいろんな演奏家の映像を観て、この問題を考えてみてください。日本のテルミンはいささか箱庭的で、モダンな奏者が生まれづらいのではないでしょうか。

さて、なんとなく当面のイメージが固まったら、テルミンを入手しましょう。テルミンには、大きく分けるとアンテナがひとつのものとふたつのものがあります。本格的に演奏したいならアンテナふたつです。ジミー・ペイジのはアンテナひとつですが、あれはいいんです。ジミーは別格です。ただ、ジミーっぽくやりたくても、アンテナふたつにしておいたほうが何かといいと思いますよ。

ふたつのアンテナのうち、垂直に立ってるのが音程をコントロールするピッチ・アンテナ、水平の(たいていは輪っかになってる)ほうは音量をコントロールするヴォリューム・アンテナです。音量コントロールはねえ、やっぱり必須ですよ。特にテルミンでメロディを弾きたい人は必ずアンテナふたつのを選んでください。マトリョミンにはヴォリューム・アンテナがありませんが、うーん、あれはおもちゃと割り切るべきだと僕は思いますよ。

ところが、アンテナふたつのテルミンは機種が極端に限られます。きちんと量産されているものはMoog社のEtherwaveとEtherwave plusそれにThereminiだけと言っていいでしょう。Thereminiはいささか特殊で、テルミン型のコントローラーを持つシンセというべきかもしれません。いろんなことができるので、これはこれで面白いとは思います。標準的な選択肢はEtherwaveのスタンダードかPlusです。Plusにはアナログシンセサイザーをコントロールするための出力がついているので、シンセにも興味があるかたはこちらを。音量調整のできるヘッドフォン・ジャックもついていますが、それだけのためにPlusを買うかは悩みどころですね。

youtubeを観ると多くの奏者がMoogのEtherwave Proを使っています。パメリアもカロリーナもそうだし、日本では大西ようこさんが使っておられます。でも、残念ながらこれは製造中止です。僕も最初期ロットのProを持ってはいたものの、重くて外に持ち出せないのと、どうしても「体についてこない感じ」が拭えないので売ってしまいました。

歴史的に有名なのはRCAテルミンという真空管を使ったもので、昔はテルミンといえばみんなこれでした。サミュエル・ホフマンの愛機もこれです。ぜひyoutubeで探してみて下さい。古い機種ですが、完動品はそこそこの数残っていて、その独特の音色に魅せられた演奏家が今も使っています。もっとも、僕自身はRCAの音がいいとは思わないのですが。他にはガレージメーカー的な製品もなくはないものの流通量はかなり限られます。

というわけで、現時点では初心者だろうがプロだろうが、ほとんどの演奏者はEtherwaveを使います。僕もこれをお勧めします。価格は6万円くらい。ギターと比べると入門用には高い気がしますね。でも、プロでもこれを使うのだから、プロ用の楽器としては破格に安いですよね。とにかく、事実上これしかないので、仕方ありません。昔はチープな音色だなあと感じていたのですが、今になってみるとそんなことはなくて、音色の面でも特に不満はありません。RCA的な音とは違うモダンな音色で、現代的な音楽にも合うと思います。

ところで、Etherwaveは単体では鳴りません。アンプに繋ぐ必要があります。このアンプの選び方がいささか曲者です。楽器用のアンプで入手しやすいのはギターアンプですが、実はEtherwaveの出力はライン出力といってエレキギターなどより相当大きいのです。そのため、ギターアンプによっては音が歪んでしまうことがあります。歪まないという意味で安心なのはキーボードを鳴らすアンプやDTMに使うモニターアンプです。あれはあれであまり「面白くない」ものの、無難は無難です。ギターアンプにも使いやすいものはあるので、とりあえずはモニターアンプで鳴らして、慣れてきたら楽器屋でいろいろ試してみるのもいいでしょう。

音色は実際にはアンプまで含めて決まります。私見ではEtherwaveにいちばん合うアンプはローランドJC120というギターアンプです。ギターアンプですが、テルミンを入れても歪まないので大丈夫です。ただし、これはものすごく出力が大きく、とても家での練習に使える代物ではありません。ライブハウスで演奏する機会があったら、これをお勧めします。どんなライブハウスにも練習スタジオにもひとつは置いてあります。

ほかに必要なものはスタンドとシールド(ケーブル)です。スタンドとしてはマイクスタンドを使います。あまり高いと弾けないので、低くセットできるものを選びましょう。僕はK&Mの199という三段タイプのものを使っています。いちばん上の段を縮めたままでちょうどいいくらいです。K&Mはネジが細いのでEthewaveを取り付けるにはアダプターが必要です。楽器屋さんで相談してみてください。シールドはエレキギター用で大丈夫。部屋で練習するだけなら、普通の3メートルのものでいいでしょう。エレキギター用のシールドにはピンからキリまであるのですが、Ethewaveに繋ぐぶんには安いもので問題ありません。

そんなわけで、今日はテルミンとアンプを入手するところまで。繰り返しになりますが、まずはいろんな演奏家の演奏映像を観て、イメージを持ってくださいね。当面なにをしたいのかがだいじです。

最後に僕の演奏映像をひとつ。これはあらかじめなんとなくメロディのイメージだけがあって、あとは半即興っていう感じの演奏です。テルミンでこんなこともできます。ちょっとだけ特殊奏法もやってます。

https://youtu.be/kiFvAT8NDrU

では、近いうちにまた。

#音楽 #テルミン #theremin

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