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ふしぎなしごと

「聞く人」として様々な仕事をしておりますが、最近関わったお仕事は特に不思議なものでした。「音」に関するとあるプロジェクトに関わっているのですが、ある人の「思い出にまつわる音」を収集する、というものです。

今回の仕事では、Aさんという方と汐留駅で待ち合わせをしました。Aさんにはピンマイクを付けてもらい、その数メートル後ろから収音マイクを持ってついていきます。この「同意の上での尾行」は、まるで探偵になったような気分です。

Aさんは近くのビルにあるエレベーターに乗り、上層階へ向かいました。そこからは元築地市場と浜離宮恩賜庭園が見え、初めて来た場所だったので、「こんなところあるんだ~」と得した気分。

その後、展望台を降りて汐留駅方面へ。日テレ前の広場にあるお店でAさんはソフトクリームを買い、外のベンチで食べはじめます。その数メートル離れた場所で収音マイクを手にしている自分。シュールです。

ソフトクリームを食べ終わったAさんは再び歩き出し、その後を追います。どうやら浜離宮庭園に向かう模様。途中警官とすれ違うと、なんだか悪いことをしているような気分になりましたが、悪いことはしてません、同意の上での尾行ですから。音を録ってるだけですから。

浜離宮庭園に到着。思えば初めて足を踏み入れたのですが、まさかこんな状況で来ることになろうとは。Aさんは淡々と歩を進められ、中にある御茶屋へ。外で待っていましたが、結果30分ほど待つことになりました。一緒に入っても良かったなと思いつつ、ゆったりとした時間を過ごしました。

その後Aさんは庭園をぐるりめぐり、汐留駅に戻りました。駅の改札で挨拶を交わし、ピンマイクを返してもらいました。自分としても不思議で、当然Aさんも不思議な思いを抱いたことでしょう。


あくまで憶測なのですが、Aさんの足取りから察するに、過去に誰かとデートをした思い出を辿っているのだろうと思いました。
展望台で景色を眺め、ソフトクリームを食べ、庭園をめぐり御茶屋でゆっくりする。そんなん、デートに違いない。

このような形で思い出の音を追体験する仕事は、とても不思議で忘れがたいものでした。



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