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本当に暗い気分で出てきたすごい展覧会(褒めている)森美術館 ルイーズ・ブルジョワ展 感想
森美術館のルイーズ・ブルジョワ展を見てきた。感想を端的に言うと「地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」(この展覧会の名称であり、自分の日記をもとに作成した作品に刻まれた一節)となるかもしれない。
彼女の作品は対象の二面性に注目したものが多い。森美術館のある六本木ヒルズに長らく存在している、おそらく日本では一番有名な彼女の作品の蜘蛛の立体作品のタイトルは『ママン』で、身に纏った卵を守る優しい母親の姿と、攻撃的で獰猛な姿の両面が見られる。
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そんな相反する両面とどのように向き合っていくか、作者の苦悩とともに鑑賞している私達までも苦しめるような作品たちだった。例えば『カップル』は、男女それぞれの周囲を渦巻き状の存在が取り囲んでいる。互いに巻き込み一緒になろうとしているようにも見えるし、互いに微妙な距離をとっているようにも見える。
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横柄で不倫していて、長年関係に悩んでいた父親。そんな父親に復讐することを表現した作品には、決して大げさではなく生々しい方法での攻撃が作品になっていて、人が人に対する恨みの重さや残酷さがリアルに表現されていた。負の感情を表現する作品はあらゆる作家によって無数にあるけど、大体の作品は「怒りだなあ」とか、「悲しい場面だなあ」という感じで、こちらに伝わってくるまでの間にパワーがいくぶん減退している。一方で彼女の作品に込められた思いはものすごく高い効率でこちらの感情訴えてきて、心にダメージを受けるくらいだった。
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人がどこまで人を愛せるんだろう?分かり合えるんだろう?といった、自分の限界について向き合って悲観的になった。罪と向き合う姿や攻撃的な姿、悩みに向き合った姿を自分と重ね合わせてその痛ましさ、醜さ、そして心の片隅にいつもいるという自覚にとても苦しくなった。これまでになかったくらい心に傷を負うような展示だった。
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本当に暗い気持ちになる展示だったのだけど、これほど自分に向き合う時間はなかったので、新鮮な思いもあった。楽しいものを求めていくのには全くおすすめできないけれど、ぜひ行ってみてほしい展覧会だと思う。それでは。
※今回の写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。