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ま軍記 第二話「聖地:大塚」

関ヶ原から帰った翌日、まちだにLINEを送った。
「27日、大塚マジで行きます??」
まちだが返してくる。
「めちゃくちゃ行く気がする」

まちだとは長い付き合いで、とにかく女とアイドルが好きな奴だが、こんな風に地下アイドルへ興味を示すのは見たことがない。
鉄は熱いうちに打てということで、自分も仕事を休み、大塚へ行くことにした。
自分もアイドル好きではあるし、半年前に15年近く推していたアイドルがめでたくも結婚し、引退され、通う現場が少なくなっていたこともあった。

「退路を断つ」
そう言って、まちだは予約をしていた。
意味は分からないし、おそらく意味はない。

ちょうどその頃、大塚を舞台にした「ロマンス暴風域」というドラマに、元ハロプロの工藤遙さんが出ていたので、毎週視聴をしていた。
ついでに“聖地巡礼”を思い、中島を誘った。
180cm100kgの体格の坊主、ヒゲ、眼鏡。
工藤遙が好きな中島は、まちだや自分の古くからの知り合いである。

朝から家を出てお昼頃に大塚へ着いた。
近くに住んでいたことはあるが、あまり来たことのない街。
ライブは夕方からなので、それまでに「ロマンス暴風域」のロケ地を巡った。
聖地を探す場合、看板や標識が出てるものはそれを検索して探すことができるが、ただの公園とか手がかりがないことも多い。
その場合は、大塚の公園を虱潰しに歩いていく。
今回も、ロケで使われた公園や標識、街並みを探して、2人の到着を待った。

まちだは仕事帰りにスーツで現れた。
それでも前物販には間に合わなかった。
関ヶ原で出会った「LoveCherish」というアイドルグループ、彼女達の所属する事務所が「ベルエージェンシー」。
その主催の定期公演なので「ベルフェス」という。
フェスなので次々と演者が変わりながらステージをしていくのだが、その前と後に物販(特典会)がある。

その後、中島がやってきたので、聖地巡礼をしながら大塚の街を歩き回った。
まるで撮影会のように、まちだと中島を被写体として、大塚を風景を撮っていった。

ロマンス暴風域(モデル:中島)

LoveCherishのライブの時間になり、大塚Hearts+へ戻った。
大塚Hearts+はそれ程大きくないライブハウスで、そこにヲタクが犇めいていた。
関ヶ原は野外だったので気付かなかったが、とても人が多くて賑わっているように見えた。
特に前方へ行くこともなく、後方からLoveCherishのステージを見ていた。

まちだは赤のサイリウムを振り、自分はオレンジを振り、中島は酒を飲んでいた。
オレンジの兎丸ゆめさんはステージ上やフロアで何が起きているか、よく見えている人だと思った。
見えるだけでなく、それを動かそうとする意思を感じた。
こういう能力を持つ人は、おそらく面白い世界を見せてくれる、それが推そうと思った決め手だった。

ライブ後にヤマダさんが合流した。
ヤマダさんは何度も会っているが、未だに謎の人である。
今日来た理由もよく分からなかったが、ここに来るということは頭がおかしいし、頭がおかしい人とは仲良くできる。

まちだは赤の志田千鶴さんが好きだと言っていた。
「どこが好きになったの?」
「顔!」
ま軍の総大将は清々しい。
中島が「それはそうだな」と言うくらい、まちだの好みのど真ん中の人だった。

後物販でライブの感想を伝えた後に、飲み屋に入った。
この時点でもう、LoveCherishのこと、大塚の街が好きになっていたし、兎丸ゆめさんを追ってみたいと思っていた。

しかし、自分以上に「愛」が溢れて止まらなくなった男が隣にいた。
まちだは平日、休日を問わずライブに通いつめ、チェキを撮り続けるようになった。
まちだの勢いに周りのヲタクも巻き込まれていき、まちだを総大将とした「ま軍」は拡大を続けた。

そして、あの「EPS撮影会」がやってくるのである。

第三話「EPS撮影会@浅草周辺」へ続く

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