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小論文の「ズレ」講座
お久しぶりです。菊池です。今回は大学入試小論文における「ズレ」について扱います。おりしも学校推薦型選抜や総合型選抜も佳境なので、参考になればと思います。
次の入試問題に対する「答案」には様々な意味での「ズレ」があります。この場合の「ズレ」は大学入試における小論文における、答案としての不整合な点だと考えていただければと思います。架空の「答案」にどのような「ズレ」があるか、考えながら読んでみてください。
問題
最近スマートフォンの普及をはじめ、あらゆる分野でインターネットの利用が増えるなどの情報化が進んでいます。情報技術が発展することで、とても便利な世の中になってきました。一方で、ありとあらゆるところで個人情報が流出したり、インターネット上で特定の人物を中傷したりという問題点もあります。わたしたちはこのような情報化社会でどのようにインターネットなどを利用すべきか。あなたの考えを400字以内で述べなさい。
(岡山商科大学法学部法学科)
答案例
近年、あらゆる分野でインターネットの利用が増え、情報化という現象が進んでいることを聞いたことがあるかもしれない。私はこのような情報化社会においてはインターネットを利用するべきだと考える。その理由は次である。
一番最初に、私はいつもスマートフォンを利用しているからだ。スマートフォンによって情報に触れることができ、自分からも情報を発信する人がいるらしい。これを使わない手はありません。
ではなぜ、スマートフォンを利用するべきなのか。それはスマートフォンを使ったほうが良いからだ。確かに、スマートフォンを使うことでマイナス面が生じることもあるだろう。だが、そのマイナス面を補うことができればよりよいデバイスになると感じる。「必要は発明の母である」ということわざにあるように。
私たちは多くの場面でスマートフォンに頼っている。私は、この素晴らしい機器を利用して情報に触れ、よき大学生になり貴学で学びたいと考える。
(400字)
ズレ① 問題反復ズレ
近年、あらゆる分野でインターネットの利用が増え、情報化という現象が進んでいる…
これは「問題文の反復」です。小論文では「自分の考え」を書かなければなりません。単に問題文にある文言を反復しただけでは、字数稼ぎと思われるかもしれません。
ズレ② 伝聞型ズレ
…情報化という現象が進んでいることを聞いたことがあるかもしれない。
ネットニュースによくある書きぶりですが、小論文ではNGです。この文章は小論文の「答案」であって、読み手の興味を引くためのニュース記事ではありません。そもそも「情報化」は問題文の中にすでに出てきているので、その点でも不適切です。
ズレ③ 問題応答ズレ
私はこのような情報化社会においてはインターネットを利用するべきだと考える。
この問題で問われていることは、「どのようにインターネットなどを利用すべきか」ということです。「インターネットを利用すべきか否か」を聞いているわけではありません。これは重大な間違いです。「どのように」に対して答えるのか、「イエス/ノー」で答えるのかなど、問題が何を問うているのかを分析しましょう。
ズレ④ 論点ズレ(話題縮小型)
一番最初に、私はいつもスマートフォンを利用しているからだ。
問題は「インターネット」について問うているのに、答案では主題が「スマートフォン」になっています。これは問われている事柄の一部を取り上げているだけで、問題にきちんと答えることができているとは言えません。
ズレ⑤ 論理ズレ(経験語り型)
一番最初に、私はいつもスマートフォンを利用しているからだ。
解答者がスマートフォンを利用しているからといって、それが他の人に一般的に当てはまるわけではありません。小論文は作文とは違い、読む相手を説得し納得させる文章です。自分の経験は基本的には他の人に当てはまらないため、説得材料としては不十分です。
ズレ⑥ 表現ズレ(重言型)
一番最初に…
「最初」とは「最も初めに」という意味です。これに「一番」をつけると意味が重なり、表現として不適切です。「馬から落馬する」のような表現を「重言」と言い、避けるべき表現です。
ズレ⑦ 主述ズレ
スマートフォンによって情報に触れることができ、自分からも情報を発信する人がいるらしい
この文の主語は前の文から考えて「私」なのに、いつの間にか主語が「自分ではない他の人」になっています。これは読み手を混乱させる書き方です。
ズレ⑧ 伝聞ズレ
…自分からも情報を発信する人がいるらしい
「…らしい」、「…のようだ」、「…と聞いたことがある」などの「伝聞表現」は不要です。小論文は自分の意見を書く場です。他からの伝聞だという情報は無駄な情報です。
ズレ⑨ 語尾ズレ
これを使わない手はありません。
小論文は基本「~だ、である」調(常体)で書くのが基本です。また、文中に「~です、ます」調(敬体)と常体が入り混じるのは表現として不適切です。
ズレ⑩ 問題提起ズレ
ではなぜ、スマートフォンを利用するべきなのか。
スマートフォンを利用すべきか否かは誰も聞いていません。自分で勝手に「論点」を設定するのは誤りです。論点は出題者が求めているものに沿うようにしましょう。
ズレ⑪ 因果関係ズレ
ではなぜ、スマートフォンを利用するべきなのか。それはスマートフォンを使ったほうが良いからだ。
後ろの文が「なぜ~か」という文の「理由」になっていません。小論文では論理的であることが重要視されます。この場合の「論理的」とは「前後の文を読んで納得できること」と捉えてください。因果関係においてズレが生じるのは小論文として致命的です。
ズレ⑫ 譲歩逆接ズレ
確かに、スマートフォンを使うことでマイナス面が生じることもあるだろう。だが、そのマイナス面を補うことができればよりよいデバイスになると感じる。
「確かに…だ。しかし~だ。」は「譲歩逆接」と呼ばれることもあるもので、自説に対する反論を汲みつつもそれに再反論をして自説の説得力を増す効果を持つことがあります。しかし、この部分では「確かに」で示した「マイナス面がある」という反論(懸念)に納得のいく再反論ができていません。これは無駄な表現であり小論文として逆効果です。
ズレ⑬ 論理ズレ(感想型)
だが、そのマイナス面を補うことができればよりよいデバイスになると感じる。
「よりよい」という表現はあいまいすぎます。これでは何を言いたいのかわかりません。また、「…と感じる」というのはあなたの感想です。小論文では少なくとも「考え」を述べるようにし、「フィーリング」は避けましょう。
ズレ⑭ 表現ズレ(修辞型)
「必要は発明の母である」ということわざにあるように。
まず、小論文では「自分の意見」が求められているため、「必要は発明の母」のような「ことわざ、格言、名言」は不必要です。また、この部分では「倒置法」が使われていますが、修辞は小論文にはない方がいいです。その方が簡潔な文章になります。
ズレ⑮ 論点ズレ(熱意型)
私は、この素晴らしい機器を利用して情報に触れ、よき大学生になり貴学で学びたいと考える。
この文章は小論文であり「志望理由書」ではありません。したがって、小論文の中で「熱意」を伝えても全く無意味どころか逆効果です。
おわりに
挙げていくと15のズレがありました。何かの参考になることを祈ります。気に入ったら、いいね・コメント・Twitterでのシェア・リツイートなどしていただけますととても喜びます。
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