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素晴らしい曲 #1 Elvis Costello & the attractions 「I can’t stand up for falling down」(1980)

好きな曲の素晴らしさを紹介するシリーズ。
第一弾は、エルヴィス・コステロ&ザ・アトラクションズの「I Can’t Stand Up for Falling Down」。
この曲のオリジナルは、サム&デイヴが1967年にリリースしたスローなソウルナンバー。一方で、エルヴィス・コステロのバージョンでは大胆なアレンジが加えられ、アップテンポなノーザンソウルに生まれ変わっている。

この曲の魅力は、歌詞とサウンドが関連し合いながら、新しい意味が立ち上っていくところにある。
歌詞だけを読むと、かなり暗い内容が綴られている。それに反して、曲は明るくアップテンポで楽しいダンスナンバーのアレンジがなされている。サム&デイヴのオリジナルとは異なり、歌詞と曲のミスマッチが起きている。

I'm the living result
俺は既に終わってしまった男
I'm a man who's been hurt a little too much
俺は少しばかり深く傷ついてきた男
And I've tasted the bitterness of my own tears
自分の涙の苦味を感じ続けてきた
Sadness is all my lonely heart can feel
悲しみだけが、この孤独な心が感じられるもの
I can’t stand up for falling down
倒れるために立ち上がることはできない
I can’t stand up for falling down
倒れるために立ち上がることはできない

うーん、暗い。非常に暗い。このアレンジの演奏が無ければ聞けたもんじゃない。
歌詞の暗さに反して、曲が異様にイキイキとしている。何かがおかしいと思わせながら、曲は続いていく。

Simple though love is
愛はシンプルなものだが
Still it confused me
それでも私を混乱させる
Why I'm not loved the way I should be
なぜ私は本来愛されるべき形で愛されないのだろう
Now I've lived with heartaches
心の痛みと共に生きてきた
And I've roomed with fear
恐れと共に過ごしてきた
I've dealt with despair
絶望に立ち向かい続けて
And I've wrestled with tears
涙と格闘してきた
I can't stand up for falling down
倒れるために立ち上がることはできない
I can't stand up for falling down
倒れるために立ち上がることはできない

まだまだ暗い。ひたすら暗い。
清々しいくらいに暗い。ここまで暗いと才能を感じる。
ようこんなに暗いことをここまで明るく歌えるものだ。

しかし、ここまでずっと暗い内容を歌いながら、次のブリッジで今までの語りが変化する。

The vow that we made
私たちが交わした誓いを
You broke it in two
君は二つに壊してしまった
But that don't stop me from loving you
それでも、君を愛する気持ちは止められない
I can't stand up for falling down
倒れるために立ち上がることはできない
I can't stand up for falling down
倒れるために立ち上がることはできない(立ち上がるのは倒れるためではない)

ずっと報われず、つらい時を過ごし、絶望していたとしても、それでも君を愛する気持ちは止められない。立ち上がるけど、それは倒れるために立ち上がっているのではない。君を愛する気持ちを胸に立ち上がるんだ。
序盤では、ただの絶望のフレーズに聞こえていたI can't stand up for falling downが、後半では実は希望のフレーズだったことが判明する。stand upとfalling downが明らかな対比となっているが、「倒れ続けてきたから立ち上がれない」という意味に読ませておいて、実は「倒れるために立ち上がることはできない(愛するためになら立ち上がれる)」という意味に転換するのだ。
ここでようやくこのサウンドの意味がわかる。跳ねるリズムやギターやオルガンの音の意味がわかる。この曲が実は希望の曲だったと言う事がここでわかる。辛く厳しい時を過ごしてきたけれども、人生の結果は見えているけれども、それでも立ち上がるという意味をサウンドが支えている。

なんと言う素晴らしい構成、なんと言う素晴らしいアレンジ。
今までしんどい時を過ごしてきたけれども、未来への希望を捨てていない心境が、時間経過とともに明確になるが、実はサウンドで事前に予告されていたのだ。アレンジと演奏によって、オリジナルを超えたカバー。名曲中の名曲。

令和の価値観で読むと、ストーカーの曲としても聞ける。

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