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2024年ベストアルバム 第5位 - 『Bando Stone and the New World』 Childish Gambino

「僕が好きなロックンロール、パンク・ロックは、バカな風でバカじゃなくて、不真面目な風でどこか真面目で、どこか間違っているようで、なんか一理ある、みたいな感じなんです。ギャグやユーモアという観点を見失うと、ロックンロールの本質も見失うことになりかねません。」

(真島昌利 2022 ロックンロール・レコーダー)

チャイルディッシュ・ガンビーノ(ドナルド・グローヴァー)の音楽や映像作品に触れると、毎回とても複雑な感情にさせられる。美しいと感じる瞬間がある一方で、目を背けたくなるような残酷な表現もある。涙腺を刺激される感動的な場面があるかと思えば、ふざけすぎていて呆れてしまうこともある。彼の作品は、常にこちらの予想を裏切る形で展開する。個人的に最も印象に残る「ふざけた」表現は、ドラマ『アトランタ』に登場する「黒人のジャスティン・ビーバー」だ。「もしもお騒がせセレブが黒人だったらどう感じるか?」というアメリカ社会における人種問題への風刺が込められているが、その描写は必要以上に誇張され、デフォルメが施されている。

もっと分かりやすくかつ適度な表現をしてくれたら助かるのにと思うこともある。しかし、こうした表現でしか伝わらないものがある。現実の複雑さをできる限り作品に反映させようとする真摯な姿勢が、チャイルディッシュ・ガンビーノの表現の裏にあるのだと思う。

このアルバムは、ドナルド・グローヴァーがチャイルディッシュ・ガンビーノ名義で発表する最後のアルバムであり、公開予定の同名映画のサウンドトラックでもあるという。タイトルの「Bando Stone」とは、彼が映画で演じるシンガーの役名だそうだ。
映画のトレーラーによると、物語は人が消えた新しい世界を舞台に、残されたBando Stoneと女性、そしてその娘の3人が超常的な生物からサバイブするという筋のようだ。主人公の本名はおそらく「Cody LaRae」で、Bando Stoneは彼がシンガーとして活動する際の名前という設定だと推測される。いうまでもなく、Cody LaRaeがドナルド・グローヴァー、Bando Stoneがチャイルディッシュ・ガンビーノとなるのだろう。

リードシングル「Lithonia」は、全盛期を過ぎたシンガーBando Stoneの心象風景を描いた楽曲だ。「I feel liberated(自由になったと感じる)」と歌う一方で、「overmeditated(薬を多用している)」「let me outta here(ここから解放してくれ)」といった歌詞は、彼が複雑な状況にいることを表し、サウンドも教会音楽のようなイントロと歪んだギターサウンドで、解放と抑圧の双方を表現している。

対極的なテーマを持つ曲がある一方で、ストレートに愛を歌う「Real Love」のような曲もある。このような流れの中で、真実の愛を歌われるとグッとくるものがある。曲自体も素晴らしい。

アルバム最後のトラック「A Place where Love Goes」では、We found the place where love goes(我々は愛が向かう場所を見つけた)と歌われる。Childish Gambinoとして生きた機関に対する複雑な感情を交えながらも、愛が向かう場所を見つけたことが示唆される。一方で、Kendrick LamarのAlrightからの引用とも思われる表現(All my life I had to)もあり、含みのあるAlrightの可能性も合わせて示唆される。このように一筋縄では理解できない表現には感服せざるを得ない。

一方で、映画のサウンドトラックという面もあり、アルバムとしては評価しにくいのか、2024年を代表する音楽として挙がってきていないように見られるが、個人的には音楽的にもテーマ的にも充実した作品として評価したい。最高。

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