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私と彼の、ありえるかもしれないカタチ
彼にまたがって、高ぶりが最高潮になったとき、心臓にナイフを突き立てたらどうなるんだろうと考えたことは1度や2度じゃない。
実際に殺してしまったら、その後がめんどくさいからやらないけど。
たぶん、警察の取り調べとか、裁判とか、知らん奴らが私と彼の間にずけずけと入ってくるんだろう。
隠そうとしても、死体の処理の仕方がわからない。私の歯と味覚は人間を食べるのに向いてないし、倫理的にも問題だろう。
じゃあもし、男の人を味わえる体と、それが許される世界があったとしたら?
小野美由紀先生の最新作「ピュア」はSF作品。
遠い未来、地球軌道上の人工衛星で暮らす女性たちは、国を守るために子供を産むこと、そのための妊娠を義務付けられていた。ただしそれには、地上に棲む男たちを文字通り「食べる」ことが必要とされる
鱗に覆われた体、岩をも噛み砕く強い牙、一撃で敵を撃ち殺す長い爪。
をもち、女性はクニを守って男食って、子供産んで、育てるのが義務になっている。セックスは補食の形で行われ、男を食べないと受精しない仕組みだ。
好きだから殺したい
「子供をつくるために」愛する相手を食べたいかと言われたら、答えはNoだ。妊娠ってどうすることなのか実体験として分かった頃から、子供は欲しくないと思ってる。
「『子供を産むこと、我が国を守ることは、みなさんに課せられた素晴らしい使命です。しっかりと全うしてください』……だって。知らんし、まじで。クニのことなんか知らねえしまじで」
これにとても共感する。
クニのことなんかどうでもいい。彼と私だけいればそれでいい。
小説の世界で、人類で最初に男を食べた女性は、恋人を愛していなかったのか、という問いにこう答えた。
「愛してたわよ!……彼だけじゃない。食べた相手全員、いい人だったわ。だから食べたの。食べなきゃいけなかったのよ」
愛してるから食べる。シンプルな話だ。
「どれくらい好き?」という恋人からの質問に、「殺したいくらい好き」と答えたことがある。歪んでるなぁ、と笑われたけど、これが一番しっくりくる。
もしかしたらこれから先、お互いより魅力的な相手が見つかるかもしれない。結婚しても、浮気や離婚の可能性がある。いま最高に好きな気持ちがどれだけ続くか分からない。だんだん好きな気持ちが無くなっていくかもしれない。だったらいっそ、気持ちが最高潮のときに殺した方が幸せなのでは?
もし地震が起きて食べれなくなったら嫌だから、食事の時は好きなものを最初に食べるっていうのと同じ理屈だ。
人工衛星ユングの少女たちは、こう教わっている。
男と見れば襲う事。
性交はできるだけ速やかに終え、後は即座に捕食すること。
しかし、主人公のユミは、あるときエイジくんという男に出会い、定期的に言葉を交わすようになる。食べないと約束しているが、
好き。食べたい。一緒にいるには食べられない。でも、他の女に食べられるのは、もっと嫌。
と葛藤する。
私も、犯罪だからとか、相手が望んでないからとか、余計なことは置いていて、他の女に取られるくらいなら殺したいと思う。けど、殺してしまったら、触ったり、会話したり、一緒に過ごせなくなる。その後も私の人生は続いてしまう。
途中まで、ユミの気持ちわかるなぁ、と思いながら読んでいたのに、彼女はあっという間に成長する。エイジくんとの関係や、生きている世界と折り合いをつけてたくましく生きていく。私の願望と、ありえるかもしれない未来を見せてくれた。
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