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忘年怪異が整える、透き通る朝【ショートショート/450文字】

年末、街は喧騒に満ちている。年賀状や掃除、忘年会で人々は走り回り、それなのに不思議なほど心が軽そうだ。おれも今年はいろいろあったはずなのに、気づくと胸がすっとしている。いつからそう感じたのかも曖昧だ。

大晦日の夕方、外に出る。さっきまでの賑わいが嘘のように、人通りは減り、ビルの谷間まで静まり返っている。まるで、全員が家にこもり、次の一日をひそかに待っているようだ。この静けさの中で、おれは奇妙な空想を抱く。「年末、誰もが無意識に吐き捨てた後悔や苦味を、何かがさらっていくのかもしれない」と。

根拠はない。ただ、もし名前を付けるなら「忘年怪異」と呼ぶだろう。誰もそんな言葉を使った覚えはないが、おれが勝手に考えたそれは、すべてを腑に落ちさせる。余計な荷物が消えているなら、何者かが片づけたに違いない。

元日の朝、街は透き通った光に包まれ、人々は穏やかな顔で歩き出す。おれも、昨日までの澱みを思い出せない。あの「忘年怪異」のおかげかどうかは分からない。だが、もう十分だ。軽くなった心で、新しい年へ踏み出そう。



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またこのショートショートは、たらはかにさんの【毎週ショートショートnote】お題は【忘年怪異】でした。


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菊池ショートショート|SF×エンジニア
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