勝たなければ、年は明けない ―決闘年越しそば【458文字/ショートショート】
「勝たなければ、新年は来ない。」
そう囁く噂を半信半疑で追いかけながら、私は木枯木枯らしの吹きすさぶ神社へやって来た。参道を踏みしめるたびに、過ぎ去った出来事の残響が靴底にまとわりつく。
それでも年越しそばの湯気に誘われるように、私は拝殿の奥へと進んだ。
闇の中、ぼんやり浮かぶ人影がある。ずっと背を向けていた、私の過去そのものだ。視線が合った瞬間、そばの湯気が鋭く刺すように揺らめく。
「そろそろ決着をつけよう」
相手は穏やかでも冷酷でもない、まるで裁きを告げるような声音だ。私は箸を握り直した。刀も拳も構えていない。ただ胸の奥に凝った後悔や執着を、互いに叩きつけるだけ。
鐘が響くたび、境内を突き抜ける衝撃が走り、意志の弱さを抉っていく。
最後の麺を飲み下した瞬間、相手はゆらぎながら消えていく。冷たい風が頬を撫でるが、不思議と身体は軽い。石段を下りるころには、夜空の端がうっすらと白んでいた。
もう振り返るまい。
そう思ったとき、鐘の音がまた一つ、遠くから静かに響き渡る。
私はその余韻を背中で受けとめながら、新年に向けて歩み始めた。
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またこのショートショートは、たらはかにさんの【毎週ショートショートnote】お題は【決闘年越しそば】でした。
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