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穏やかな夜

ピカが入院しているのに、ここまで心穏やかな夜は初めてかもしれない。
病院から呼び出される心配もないし、ピカの容体の心配もない、と言ったら嘘になるけど、少なくとも今朝会ってきたピカの様子なら、もう大丈夫だって安心してる。
今日は久しぶりにゆっくり湯船に浸かった。
早く寝たらいいのに、まだ起きてる。
心配で眠れない訳じゃない。
明日の午後の仕事の打ち合わせの準備もあったし。
夕方、ピカを迎えに行くまでに、そういう”ピカ以外のこと”を色々消化しなくてはならない。

今日はとても清々しい気持ちだった。
朝、病院から「ピカちゃん、昨日とは見違えて落ち着いてます」と連絡が来るまでは、落ち着かなかったけど。

昨日は、これまで通った24時間看護のA病院と散々迷って、今のK病院を選んだ。
抗がん剤治療をここで受けようとK病院を訪れたものの、夜間は誰もいないので、万が一急変して朝出勤したときにスタッフが気付くという、病院でかつひとりぼっちで亡くなる可能性もゼロとは言えない、という事を先生に確認され、かなり狼狽した。
そんなわたしに先生は、以前の病院に電話して、相談して決めてもらってもいいですよ、と言ってくれた。

病院に電話する前に、姉に電話したが出なかった。その後母に電話したけど、やはり母はわたし以上に困るばかりだった。A病院に電話した。これから行って今日の抗がん剤治療は受け入れ可能だという。ピカの現状の様子と、既に1週間前に抗がん剤を投与していることから、始めるならもう今日にも始めなくてはならない、時間はない。姉との連絡が繋がった。姉も猫を飼っているし、わたしの性格もよく分かっていて、こういう相談は姉が頼りになった。一緒にとても迷ってくれたし、気持ちはすごくわかるよ、と言ってくれて、答えをもらうわけでなくても有り難かった。どちらを選んでも、あんたが後悔しないように決断しないと、と言われた。
悩ましかった。検査結果が出たら連絡しますと言っていたはずのA病院担当医への信頼が、最後の診察で落ちてしまったのもある。こちらから何度も連絡してやっと繋がったことや、その際に「どうでした?他の病院行ってみました?」と聞かれたこと、「検査結果が日曜の夜に出た」と電話では言っていたけど、結局月曜の夜、おしかけるように検査結果を聞きに病院に行ったら、検査結果の書類にはその前の金曜の日付でその先生宛になっていたこと、抗がん剤治療に関しても積極的な説明はしてくれなかったこと、など。病院までタクシーで30分の移動も、緊張屋さんのピカには大きな負担になった。
24時間看護が魅力的なのは、副作用が大きく体調の急変が起きやすい、最初の抗がん剤で入院するときだけだし、24時間看護という部分以外は、こちらのK病院で治療をすすめるメリットのほうが多かった。そもそも、もしその副作用が起きてしまったら、ほとんど手立ては無いという。看取れるのか、看取れないのか、という事だ。だから、ピカなら絶対乗り越えてくれる!とピカを信じて、K病院に決意した。
午前中には投与しなくてはならないのに、わたしが決断できたのはもうすぐ正午になるくらいの時間だった。姉に報告すると、よく決意したね!きっと、その決断で間違ってないよ!と言ってくれた。

それでも昨日の抗がん剤投与後、担当医からピカちゃんがかなり危ない状態だと電話が来て、自転車を飛ばして駆けつけて、目をひん剥き、口を開けて舌を震わせ、泡を吹きながら呼吸している様子を見た時は、ああ、やっぱりあっちにすれば良かったのかもしれない、と何度かは思った。
数時間後におさまったものの、一時はわたしも軽く覚悟したほどの状態だったから、夜の間に何もないとは思えず、病院から電話が来ることはないにしても、ピカ、今頃落ち着いて眠れているのだろうかと不安だった。
おかげで1時19分、3時22分、5時22分ときっかり2時間刻みに目が覚めてしまった。自分の睡眠サイクルのバカ正確さと、22という数字に起きる猫バカぶりに、ひとりでちょっと面白くなっていた。

そんな昨日。

そして、話は戻って今朝。
天気もいいので散歩がてら、病院までは歩いて向かって20分で、10時ほぼきっかりに着いた。昨日の至急の時も自転車飛ばしたら5分で駆けつけられたし、やはり近いというのは良いし安心できる。
面会したピカは落ち着いた様子。でもごはん食べられてないのが気になった。入院直前まで食べていたし、つい日曜にも食べてた、大好物のにぼしをあげたけど、にぼしでもダメだった。いつもフガフガ言いながら食らいつくのに。食べたい気持ちはあるみたいで、鼻を近づけるものの、口にはできないようだ。先生曰く、抗がん剤で気持ち悪いんだと思います、と。

その後、先生と今後の抗がん剤治療のプロトコルの説明を受けた。4週のサイクルをずっと繰り返すそうだ。よく、抗がん剤治療は3ヶ月〜半年で、その後しばらく休薬期間があると聞いていたので、ずっとですか?と聞き返したけど、「効果がある限り、ずっとです」と。ピカのリンパ腫はそこまで悪いものなのか。。たしかに、昨日も、T細胞型は抗がん剤の効きが良くないと説明も聞いたし、致し方ない。
だけど、やはり費用面が気になった。ひと月あたりの費用は想像していたよりも少なかったけど、それが毎月続くとなると、やはり相当頑張らないとまずい。今は仕事が休業になってるけど(おかげで今はピカのことに時間を尽くせるのがある意味運が良く助かっているけど)、昨年GW明けから休業期間が延長に延長を重ね、今のところ会社からは4月末までと言われている。休業手当はもらっているけど、やはり早くフルで貰いたい。休業延長は何としても避けたい。副業もしないといけないな、でもピカのことを考えたら家でできるものじゃないと。
先生と話して最後にまたピカの顔を見て、病院を出たのが10時45分頃。

病院からの帰り道はとても気分がよかった。午前中からこうして外を歩くこともないし、帰り際に通りかかった公園では、幼稚園児たちがかけっこしていて、それを近所のおじいさんがにこやかに見ていて、そんな様子を見たわたしもとても和やかな気持ちになって、しばらく公園にいた。

抗がん剤治療の説明の時に、抗がん剤治療中の他の家族の注意事項も聞いた。妊婦さんなどいないか、ご自身は大丈夫ですか?と、先生に聞かれた。
抗がん剤投与後は、ほぼその量が、おしっこやうんちから排出されていく。なので、おしっこ、うんちの処理をするときは必ず素手で触らず、手袋をしてください、という事だった。ピカちゃんのトイレも、固まるタイプの砂はもしかしたら変えた方がいいかとしれない。残った抗がん剤で、ピカちゃん自身もトイレに入るたびに曝露してしまう可能性がある、と。砂を使わないという事でしょうか…?と聞いたら、先生もう〜ん、と頭を抱えていた。ベッドに一緒に寝ているので、ピカの体やお尻も、こまめに拭いたほうがいいですか?と先生に聞くと、それがいいですね、と言っていた。
抗がん剤の微量曝露の話は前の病院でも少し話は聞いていたけど、改めて、抗がん剤の毒性の強さ、そして自分自身にも健康被害の可能性があることに少し怖くなった。

公園の後にドラッグストアでペットのおトイレゴミを入れる袋と体拭きシートを買って帰った。
帰宅してからはずっとこれからのピカの抗がん剤の曝露対策と、どのようなトイレがいいのかを検索していた。母とも経過の電話をした。

そして、夜。
ピカとは関係なく、ショッキングなことが!
ずっと楽しみにスケジュールにも入れていた寄席!
本来は寄席には出ない好きな落語家さんが、今日は寄席に出る日だったのに!!
その寄席は家からも近いし、今なら仕事も休業中だから早い時間から並べるし、ピカも午前中面会したから安心だし、めちゃくちゃ、行くのに絶好のタイミングだったのにーー!!!頭の中がピカのことでいっぱいで、すっかり抜け落ちてました。。あぁ、自分の楽しみの事とはいえ、これは凹んだ。

今後は抗がん剤治療で色々と楽しみを我慢することも多くなるから、ここは行っておきたかったなぁ。気づかなかった自分に、ばかばか!!と言うしかありませんでした。
その落語家さんが、また寄席に出てくれることを祈るのみです。その時は仕事再開していたら(というかしてなきゃ困るけど)、行けるかどうかわからないのだけど…。なんとか。

まぁ、最近は自分の事よりピカの事で気持ちのアップダウンが凄かったから、久々に自分の事でガーン!な事もあった日でございました。ちゃんちゃん(´・ω・`)