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Noism×SPAC 劇的舞踊vol.4 ROMEO&JULIETS

2018/9/15土 17:00- さいたま芸術劇場

日本語タイトルは「ロミオとジュリエットたち」。この複数形からして、ただのロミジュリじゃないに違いない!と思って観に行った公演、期待を裏切らない内容でした。面白かった・・・・!(funnyではない意味の面白さ、です) 劇的舞踊はカルメン、バヤデール、と観てこれが3つ目ですが、SPACとのコラボでの舞踊と演劇の融合という意味ではその中では一番しっくりきました。

私が観たことのある金森作品では、今のところ「中国の不思議な役人」がNo.1なんですが、これはそれに次ぐ構想の大きさ・緻密さが感じられて大満足。

演出振付・出演:金森穣

音楽:S.プロコフィエフ《Romeo & Juliet》
衣裳:YUIMA NAKAZATO
美術:須長檀、田根剛(Noismレパートリーより)
原作:W.シェイクスピア『ロミオとジュリエット』(河合祥一郎訳より)
出演:Noism1+SPAC

チームC(奇数)
患者190057335973 グレゴリー/キャピュレット …貴島豪
患者377109331793 サムソン/パリス  …三島景太
患者573077913773 キャピュレット夫人  …布施安寿香
患者793591173539 ティボルト  …中川賢
患者975133153975 ジュリエット  …浅海侑加
患者173391533377 ジュリエット  …鳥羽絢美
患者375133153975 ジュリエット  …西岡ひなの
患者573301533377 ジュリエット …井本星那
患者773391533377 ジュリエット …池ヶ谷奏

チームM(偶数)
患者284608826466 エイブラハム/召使 …野口俊丞
患者484608826466 エイブラハム/召使 …大内米治
患者668022860242 ベンヴォーリオ …吉﨑裕哉
患者846682804446 ロミオ …武石守正
患者062284006846 マキューシオ …チャン・シャンユー
患者204266880428 ポットパン/ピーター/バルサザー  …山田勇気

看護師  乳母/コロス/キャピュレット夫人 …舘野百代
看護師  乳母/コロス/モンタギュー夫人 …鈴木真理子
看護師 ロザライン …井関佐和子

医師  ロレンス …金森穣

日曜日のさいたま公演をもって一旦公演終了ということなので、ネタバレ全開でいきます。

休憩を挟み、一部はロミオとジュリエットが出会い、マキューシオとティボルトが死んで二人が寝室で一夜を過ごし、ロミオが旅立つシーンまで。二部はロレンスが出てきてジュリエットに薬を渡してアドバイスし、あの悲劇から最後まで。

途中までの骨格はほぼ、いわゆるロミジュリ。シェイクスピアの原作、プロコフィエフの音楽、ラヴロフスキー/クランコ/マクミランのバレエ版、それらを踏まえたうえで新しい解釈というかストーリーを加えたのが金森版なんだな、と思いました。それら過去のロミジュリを知らなくても楽しめるけど、知っていた方がより楽しめる作品。

踊らず台詞を話すメインどころの役は、キャピュレット公、キャピュレット夫人、パリス、ロミオ。ロミオは車椅子上で演じられ、踊らないどころか身体表現はほとんどない。他は一部の端役を除きダンサーで、台詞はありません。ジュリエットは5人のダンサーに割り当てられています。最初、ジュリエットはストーリー中でも5人なのかと思っていたのですが、多分そうではなくて一役を5人で演じているのではないかと思いました。ジュリエットが複数の理由はロジカルに突き詰めることはできなかったんですが、一人ではなく複数にすることで、特定の個人ではなく抽象的な存在にしているのかな、というのが個人的な結論。ジュリエットはロミオと話すときに手話を使っていることが多く、言葉を発することができないという設定なのかしら。

台詞はシェイクスピアの河合さんの翻訳版から。別の版で原作を読んだことがあるのですが、シェイクスピエアの元々の台本はお笑いの要素や下品な内容も入っていて、そういう部分がちょくちょく取り上げられていたな、という印象でした。ヴェローナの大公の台詞は音ではなくスクリーンに表示されてスターウォーズのパルパティーンの初期の扱いを思い出した・・・(古い例えですみません)

さて、登場人物の多くは患者という設定です。チームCはキャピュレット家、チームMはモンタギュー家。乳母とロザラインがチームMにもCにも入っていないのが肝で、彼らはどちらにも所属していない、患者を監視し支配する存在。ロレンスはその頂点に立つ医師という位置付け(いやそれ金森さんの普段の立場そのままやん!)。看護師は常に患者を監視し、興奮したときや指示に従わないときは力づくで鎮静剤(麻薬?)の注射で黙らせたりします。医師・看護師と患者は支配階層と被支配階層というふうにもとれるな、と思いました。もしかしたら、患者は病気なのではなく実験動物的な存在なのかも。(家でパンフレットを読んでいたら「患者はロミオとジュリエットの登場人物だと思い込んでいる」との記述があり、やはりその感覚は合っていたのかと思いました。)

井関さんはロザライン役(原作ではキャピュレット家)とは書いてありますが、最初にロミオ(モンタギュー家)の車椅子を押して登場します。この作品ではキャピュレット家に所属しているわけではなさそう。彼女は終始ほとんど表情に変化がなく、動きもカクカクしていてロレンスにスイッチを切られると作動を停止してしまうシーンがあり、どうやらロボットとかアンドロイドとかいう存在のようです(他に劇中でそういうキャラクターはいない)。そしてなんと、医師であるロレンス(金森さんはインタビューでこれは半人半機の役だとおっしゃってました)は彼女に愛情を感じているという設定だというのが途中のパドドゥで語られる。でもロボットであるはずの彼女はロレンスの抱擁をすげなく拒否したりするのです・・・。

ロミオとの恋愛を成就するためにジュリエットがロレンスの薬を飲み、また目を覚ますところは原作通り。この作品で徹底的に違うのは、墓場でロミオがその死を嘆き悲しんだ躯は実はジュリエットではなく、ロボットのロザラインだったということ。そしてロボットであるはずのロザラインは、自殺したロミオの体を抱いて嘆き悲しむ様な動きを見せ、最後は彼を抱いたまま一緒に身投げします。

ここまできて、初めて観客は知るのです。これはロレンスとロザラインとロミオの悲しい三角関係の話だったのか、と。ジュリエット「たち」は、ジュリエット役が5人ということではなく、ジュリエットとロザラインを指しているのでしょう。

ロザラインは原作ではもともと、ロミオがジュリエットに会う前に恋い焦がれていて、ロザラインも憎からず思っていた存在、という設定。その設定を使いつつ、ロレンスとロザラインの間にあった過去の何かを想像させるつくりは、なかなかだなぁと思います。ジュリエットに仮死の薬を提供できるロレンスならば、人に恋をするようなアンドロイドを作り上げたり、死に瀕した生身のロザラインをアンドロイドとして生かすことも可能だったのかな、とも・・・。

ストーリーに関して感じたことは以上ですが、演劇と舞踊の融合という意味で一番大きな役割を果たしていたのは、実はプロコフィエフの音楽かも。あれを聴いただけでバレエ好きは何のシーンだか台詞を聞かなくても理解できる。死んでしまったロミオを見つけてアンドロイドのロザラインが嘆き悲しむシーンは思わず涙が出てしまったんですが、それもあの墓場のシーンの音楽の効果が大きかった。ロミジュリは、プロコフィエフの音楽を使っているものならどれでも、その恩恵にあずかるところが大きいと思います。

演出としては、舞台装置として使われていたマジックミラーの三角柱(Mirroring Memoriesのときに使われてたやつ)。あれが大活躍でした。そのほかの装置も過去の公演のものを流用していたものが多かったようです。衣装は患者と看護師・医師という設定なので皆さんほとんど白。白と黒、あとは光の反射が作り出すニュアンスがほとんどで、ミニマムでスタイリッシュなステージでした。

演出のうち、台詞の使い方については、正直ちょっとどうかなーと思う点も。ロミオはシェイクスピアの過剰なほどに自分の気持ちを語りまくる性質が車椅子の存在に合っていてしっくりきましたが、それ以外の台詞は必要なかったんじゃないかなという気がしてなりませんでした。特に前半でヴェローナの話だとか状況説明するお経みたいなトーンのやつは、ロミジュリならばみんな分かっているという前提に立てば不要だったのでは・・・。

そうだ、ロミオとジュリエットが出会うパーティーのシーンではキャピュレット家の面々がダヴィンチの「最後の晩餐」を表現するシーンも。キリスト役はキャピュレット夫人でした。これは何を暗示していたのか、ちょっと分からず。金森作品だから何か必ず意味があると思うのですが。

ダンサーについて。いやもうロレンス役の穣さん、出番は長くないけど歩いてるだけで物凄い存在感だし、動き出すと別次元の凄さで大感動でした。彼が踊っているのはこれまでも何度か観ているけど、今回ほど素敵だと思ったことはありません。そして、井関さんも。最後のシーンまで、彼女の役がそれほど重要だとは分からないのですが、そういう状態でも、登場の瞬間から余りの美しさに息を呑みました。そして、ティボルト役の中川さん。初めてNoismを観たころと比べると別人のようにその動きが雄弁で。今後は彼がNoism作品を踊ることはないのだなと思うと、かえすがえすも残念です・・・。

素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたNoism、次なるチャレンジは「実験舞踊」だそう。東京公演は2/21-24、吉祥寺シアターにて。「舞踊家にある法則を与え、偶然性によってそこに生み出される関係性を抽出すること。物語を語ろうとするのではなく、そこに発ち現れる物語を記述すること。あるいは新たな物語創発のために身を捧げること。」とあるので、今回の作品とは全く違う、インプロビゼーション的なものになるのかな。こちらも楽しみです!

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