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かけた時間は無駄なのか。

2010年、こっちに来てはじめてグループ展に参加したとき、心底おどろいたことがある。

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展示会前、初顔合わせのプレゼンで自分の作品をひとつひとつ見せたあと、作品の価格を伝えた。展示会のすべてを仕切る担当者は「どうしてそんなに高いの?」とわたしに尋ねた。

まだ来たばかりで何の基盤もないフランスだからと、日本で販売していたときの半分以下の金額を伝えたつもりだった。それ以上下げたら工賃はおろか材料費もままならない、という破格の数字だ。

「時間がかかっているんです。手間もです。」
わたしはどぎまぎしながら、たどたどしいフランス語で答えた。このあと、彼女の放ったことばに愕然とする。

「あなたが何時間かけてこれ(わたしの作った人形)を作ったかなんて、誰も興味ないの。・・・これは30ユーロね。」

30ユーロといったら、玩具店で買う大量生産のぬいぐるみと同程度の価格だ。しかもこのときのコミッションは4割だったはずだから、6割しか手元に残らない。2〜3日かけて、手間と愛情を注ぎ込んで作った人形が、なんと18ユーロの価値しかないだなんて。

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フランス人は財布のひもがとても堅いのだけれど、さすがにこのことは、自分の今まで積み上げてきたことを全否定されたような気がして、目の前が真っ暗になった。しばらく立ち直れなかった。こんなふうに鮮明に覚えていて話すと胸がぎゅっとなるのも、まだ自分の中で処理し切れていない証だろう。

それまで当たり前に、材料費と時給プラスアルファで計算していたけれど、それからは「相手にはどのくらいの価値があると見えているのか」を考えるようになってしまった。それが作品の価格を左右してしまうこともある。

「世界にひとつだから」強気に出てしまうときもあれば、生活に必要不可欠ではないからなぁとすごく弱気になってしまうときもある。自分の信念みたいなものがそこにないから、風が吹くたびに揺らいでしまうのだ。

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あれから12年。
ここで世を渡っていくすべをいろいろ覚えたけれど、作家としては、まだまだフランスでは生きていけない。

TONKA(トンカ)

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