見出し画像

プロの設計士に聞く!介護リフォームほんとのところ?!森川圭悟さん(一級建築士):前編

自宅で介護をする、もしくは自分自身も老後を自宅で過ごすとなった場合、持ち家であれば検討することのひとつに「リフォーム」があります。
特に、築年数が古いものであれば、バリアフリーや洋式トイレなどのシニアフレンドリー仕様にはなっていない部分もありますよね。

どこをどうリフォームすればいいのか?
リフォームしようと思ったら誰にどう頼めばいいのか?
そもそも「いい家」ってなんなんでしょう?

そんな疑問を、プロに思い切ってぶつけてみよう!という試みです。
今回は森川建築設計事務所の代表であり、一級建築士である森川圭悟さんに、「くらしのふふふ」の山本編集デスクが根掘り葉掘り質問しました!

画像1

森川圭悟氏 プロフィール
1982年大阪府生まれ。大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業。一級建築士。株式会社YAN一級建築事務所、豊和開発株式会社一級建築士事務所を経て、2019年に自身の森川建築設計事務所を設立。独立前より、(福)基弘会の運営するココナラ巽やリズムタウン仙台の竣工に携わる。

必ずしもバリアフリーが良いわけではない?

山本
介護保険制度により、リフォームには20万円まで補助が出ますが、それで階段に手すりつけたりとかってよくありますよね。
うちの両親は60代ですが、まだ現役で仕事していて、3年前くらいにプチリフォームしたんですが、介護状態になってからあわててリフォームするよりは、ある程度余力があるうちに、将来を見据えたリフォームをしておいたほいうがいいんじゃないかと思うんですが、そう考えるシニア層は今後増えるんじゃないかと思ってるんです。

森川
日本家屋って、基本的には段差がありますよね。
玄関がまちが40cmくらい高さがあって、石があって、そこに座ってくつろぐ。そして靴を脱いで家に上がるという動作がありますよね。
でも施設はだいたいバリアフリーで、玄関から自分の部屋まで段差なしで、車椅子で行けますけど、自宅はそういうのがない。
逆に、バリアがちょっとあるほうが生活の質はいいんじゃないかな?と僕は思うんですよね。
それに慣れちゃうとラクかもしれないけど、街中は段差だらけで、街の中で暮らしていこうと思うと、家にも多少バリアがあるほうが適応できるんじゃないかと思うんです。
「住みやすい」=「社会的な生活ができる」ではないと思っていて、「自分の家に住んでる」=「自分の力で生きていく」ってことだから、ある程度は、介護を受けるにしても自分の力で生活できるような環境だったほうがいいんじゃないかなと思うんです。

山本
意図的に、訓練的な意味でもバリアはあったほうがいいと?

森川
それもあるし、日本家屋の文化は、記憶としても残したほうがいいかなと。
今、マンションなんかはほぼバリアフリーで、玄関も玄関という感じがないですけど、昔ながらの日本家屋はきちんと玄関があって、そこで来客対応したり世間話したり。そういう風景や記憶が見えてくると思うんですよ。
バリアフリーのマンションだと、そういうのが見えないので、そこは見えたほうがいいんじゃないかなと。

山本
なるほど…!本当ですね。そこに“暮らし”がちゃんとありますよね。玄関の上がりかまちがあることで、そこでご近所さんとの会話が生まれるとかですね。
でも、日本家屋はスペースが狭いとか通りにくいとかっていう問題もあると思うんですけど、それは逆に活かせたりするんですか?

森川
例えば長屋とか、和室が続いて真ん中の部屋が暗くて居心地悪いということなら部屋をぶち抜いて大きくして、天井も抜いて明るくすることもできますよ。
人数が1~2人ならワンルームでいいでしょうし。そういう空間に作り変えるのは可能です。
そもそも日本の家は相対的に狭いけど、それは間仕切りが多く、部屋数が多いからなんです。だから間仕切りをなくせば部屋は広くなります。

山本
なるほど!ただでさえ狭いのに、部屋数が多いんですね。
でもたとえば廊下を車椅子を通れるようにするなら広くする必要がありますよね?

森川
そうですね…。車椅子も大きいのは横幅75cmくらいあるので、廊下は1.2mくらいは幅が必要ですよね。

山本
老後、暮らしやすい家に住もうと思ったら、リフォーム予算はどれくらいなんでしょう?

森川
うーん。リフォームはピンキリですよね…。でも介護保険は20万しかないですよね。その範囲だと、手すりつけるとか、スロープつけるとかですかね…。
手すりは、やっぱりシニアの方はあったほうがいいのかな?

山本
うーん。そうですね…。ご年配の方でも自分で歩けるならそのほうがもちろんいいですけど、ただ、個人的には横手すりはあんまりいらないんじゃないかと思っていて、必要な箇所に、縦手すりがあったほうがいいんじゃないかと思うんです。

森川
僕も、横手すりよりも扉の戸先とか、玄関の横とかに縦手すりがあればいいなと思います。
実際、老人ホームの運営者さんでも手すりはあまりつけたがらないところはけっこうありますね。


リフォームのベストタイミングは?

山本
将来のことを見据えた「シニアリフォーム」のベストタイミングは何歳ごろなんでしょう? 

森川
やっぱり65~70歳くらいでされる方が多いんじゃないでしょうか。
僕の義母も、ちょっと足悪くしたので、マンションですが廊下やトイレに手すりがついてましたね。
実母は、3階建ての家から2階建ての家に住替えをしました。1階は駐車場だったんですが、そこを生活スペースにしたんです。1階で生活を完結できるようにしたほうが、階段を登らなくてもいいし、長く暮らせますからね。階段登るのはけっこう大変になってきますから。緩い階段のほうがいいですけど、日本家屋だとスペースとるのが難しいかもしれませんね。

あと、リフォームは、身体的な動きにくさに対するケアも大事だと思うんですけど、温度環境も大事なんです。
例えばリビングから廊下を通ってお風呂に行くときに、真冬なら部屋は20℃くらいでしょ(※編集部注:地域により差はあります)。
一方、脱衣所とかなにも空調ない部屋だと10℃くらいになるので、その温度差でヒートショック(※)が起きたりするので、そこはリフォームのタイミングだけじゃなくても考えておいたほうがいいところですよね。最悪の場合、命を落としてしまったりすることが多い場所なので。

動作としてバリアをなくすということも大事だと思うんですが、安心して住める建物ということを考えたときに、温度差を少なくするということはとても大事です。

※ヒートショック:急激な温度の変化で身体がダメージを受けること。入浴時に死亡事故につながることが多い。(http://www.kagoshima.med.or.jp/people/topic/2010/308.htm

山本
古い建物ほどお風呂場は寒いですもんね…。

森川
そうですね。断熱もないし、すきま風もめっちゃ入りますしね。
なので、できることとしては、断熱材とか床暖房とかを脱衣所にも入れることなんですけど。全館空調とかもあります。

山本
全館空調ってなんですか??

森川
家全体が一定の温度になる機能です。一戸建てとかならそんなに大変じゃないんですけど。
天井裏や床下に大きなエアコンを入れて、家全体を空気が循環するようなシステムです。電気代はそこそこかかりますけど、まあ払えないほどじゃないかな。

山本
でも、そのぶん暑いときや寒いときにがんがん空調いれなくて済むっていうことですもんね。

森川
そうです、常に温度が一定ということですね。

これからの「老人施設」のありかた

山本
森川さんは、老人施設を多く手掛けてらっしゃいますが、今の施設系の変化やトレンドってありますか?

森川
「施設感」というか、いかにも病院のような雰囲気はなくなってきているかもしれませんね。むしろ「自分が行きたい場所をつくりたい」という流れはあるかも。
特養でも、玄関にロビーやいい雰囲気のラウンジがあったり、カフェがあったり、階上には多目的フィットネスがあったり、そういうのがトレンドかな。

山本
ホテル感というか、おもてなし感のある施設は増えてきてる感じがしますね。今後はさらにどうなっていくと思います?

森川
多様性は必要になってくると思うんです。いろんな方がいらっしゃいますから。今でも住宅型有料老人ホームでも、基準に準じてガチガチのルールでやるところもあれば、コスパ重視でやるところもあるし、逆にすごく高い高級有料老人ホームもある。施設にもそういう多様性は必要なんじゃないかなと。
じゃないと、人々のニーズを受け止められないですよね。
一般住宅といっしょかな。文化住宅から豪邸まであるでしょ。まだまだ20年くらい老人施設は増えていきますもんね。

山本
そうですね。そこからどうなるんだろう…。2050年くらいを超えたら、今度は減っていくから…。

森川
そうそう。だから、作りすぎてもだめなのかなって思うんですよ。そのあと廃墟みたいになっちゃいますもんね。

山本
ただ直近はどんどん増えていくので、基弘会としてもライバルには勝っていかないと、ですわ。


(対談ここまで)

いかがだったでしょうか?リフォームだけでなく、新築で家を建てるときにも参考にしたい知識をたくさん教えていただきました。
次回は後編、さらに深堀りしていきます!

編集:ikekayo

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?